PSW研究室

専門職大学院の教員をしてる精神保健福祉士のブログ

『みんなの退院促進プログラム』(ミネルヴァ書房)

2021年07月25日 20時12分30秒 | 出版案内

本を1冊、紹介させてください。

緊急事態宣言のさなか、2021年1月にミネルヴァ書房から刊行していただきました。

『精神科病院と地域支援者をつなぐ みんなの退院促進プログラム―実施マニュアルと戦略ガイドライン』という本です。

(ちょっと、タイトル、長いですけど)

 

僕と大島巌さんの編著という形になっていますが、執筆者総数は、実に23名。

2007年以来継続してきた、日本社会事業大学の「タイソク研究会」の成果物です。

プログラム評価を使って、退院促進・地域移行支援の方法をまとめたものです。

13年間かかって、やっと一般書店に並ぶ書籍の形にまとまりました。

 

内容は、下記の目次をご覧いただければ、少し伝わるかと思います。

実際の支援の経験知から明らかになった「効果的支援要素」を柱に据えています。

科研費を得て、研究班メンバーと各地の実践者の長年の取組を、可視化したものです。

各現場からの「コラム」が、各実践者の熱いメッセージを伝えてくれます。

 

編者としての思いは、下記の「はじめに」に記した通りです。

ミクロな個別支援と、病院・地域を変えていくメゾレベルの実践、精神医療政策を問うマクロなソーシャルアクションとしての精神国賠は、僕の中では一つのものです。

この国で、精神科病院からの脱施設化を図る方策を、自分なりに追求してきました。

今も各地で格闘しながら、地域移行に取組む方々に、読んでいただければ幸いです。

 

はじめに

日本は、世界一精神科病床の多い、精神科病院大国です。長年にわたる国の入院医療中心の隔離収容政策によって、多数の長期入院患者が生み出されました。本来であれば、短期の入院治療で済んだかもしれない方々が、精神科病院の中で歳を重ねてきています。大切な人生の時間の大半を、閉鎖的な精神科病棟の中で過ごすことになった方々は、もっと早くから地域で当たりまえに普通に暮らすことができたはずです。

もちろん、多くの地域や病院で、これまでも長期入院者の退院に向けた取り組みが、地道に行われてきました。国も21世紀に入ってからは「入院医療中心から地域生活中心へ」と政策のかじを切り、地域移行・地域定着の支援体制を作ってきました。それでも、具体的な支援を進めるための手順は示されず、各地の実践者は、一人ひとりの支援を通して、手探りで方法を模索するしかありませんでした。いつの間にかさらに10年、20年と時を経て、入院患者はさらに高齢化し、今や年間2万2千人を超える方々が精神科病棟の中で亡くなる事態に至っています。この悲しい現実を、私たちは理不尽に思い、なんとか変えたいと考えてきました。

本書は、長期にわたり精神科病院に入院している人々が、退院して地域で生活できるようにするためには何が必要かを、プログラム理論の観点からまとめたものです。ご本人が早期に退院して、地域で安定したより良い生活を実現するためには、支援者がどのような取り組みをすればよいのかを、「実施マニュアル」化しました。また、病院や地域と行政が、支援ネットワークを形成し連携・協働していくために、圏域によって異なるステージごとの特性にそった組織づくりと活動の指針となる、「戦略ガイドライン」を示しています。

ここに記されているのは、退院促進・地域移行に携わる各地の実践者の知恵を集積した、「効果的な退院促進・地域移行・地域定着支援のプログラム」(効果的モデル)の提案です。障害者総合支援法を中心とした既存の「制度モデル」を超えて、「みんなの退院促進」を実践していく足がかりになればと願っています。そして、現在、国がめざしている「精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築」を具体化し、地域共生社会を現実のものとする各地のプラン作成のヒントにもなれば幸いです。

2020年11月1日

                     執筆者を代表して 古屋龍太

目次

 

□はじめに

□本書のめざすもの

 

■第I部:長期入院患者の退院促進とは?

□第1章 背景を知る―精神科病院から退院できない!

1 退院促進と地域移行

2 日本特有の歴史的背景

3 なぜ退院ができないのでしょう?

コラム1 「継続は力なり」~秘めた想いを実現するために~

コラム2 病院管理者の立場から見た退院支援

 

□第2章 支援の現状―退院促進から地域移行・地域定着支援へ

1 退院促進支援事業の開始

2 地域移行支援特別対策事業の展開

3 個別給付化の影響―─訪問調査を踏まえて

4 地域移行支援・地域定着支援の現状と課題

5 「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」の展開

コラム3 退院促進~地域移行・支援に関わって―和歌山県紀南地域の場合

コラム4 居住サポート事業と連動した地域移行支援―広島県三原市の場合

 

□第3章 効果的な支援のために―支援のモデルとそれを支える理論の話

1 効果的モデルとプログラムとは?──制度モデルとのちがい

2 統合型プログラムとは?──病院と地域と行政

3 プログラムのゴールとは?──支援の基本理念

4 プログラム理論の詳細

5 効果的支援要素とは?──支援の道しるべ

コラム5 病棟での取り組み、看護師への退院支援意欲の喚起

コラム6 病院PSWの皆さんへ―今病院でできること

 

□第4章 段階ごとに考えよう―地域移行のステージ

1 各期のねらいと達成定義

2 開拓期(0期)

3 萌芽期(1期)

4 形成期(2期)

5 発展期(3期)

コラム7 退院後の恢復への地平―「地域共生社会づくり」から切り拓く

コラム8 ピアから求める地域移行・定着支援―「きた風と太陽」のようであってほしい

 

■第II部:実施マニュアル

□第5章 効果的支援要素とプログラムの進め方―マニュアルとワークシートの使い方

A領域 協働支援チームの形成

B領域 病院内広報とモチベーションサポート

C領域 関係づくりとケースマネジメント

D領域 具体的な退院準備

E領域 退院後の継続的支援

F領域 退院促進の目標設定

コラム9 病院と地域機関が一体化して退院支援をしていくために

コラム10 行政・地域・病院がチームとなっておこなう退院支援

 

■第III部:戦略ガイドライン

□第6章 地域の実情に応じた取り組み

1 開拓期(0期)―個別支援から「支援の核」形成を目指す

2 萌芽期(1期)―「支援の核」の実践が組織内に波及することを目指す

3 形成期(2期)―多機関が組織として協働する事例を目指す

4 発展期(3期)―行政の積極的な参画で効果的実践を目指す

コラム11 開拓期の苦悩、課題、展望

コラム12 地域移行をすすめることは、地域の課題

 

□第7章 現場で効果的実践を実現するためのツール

1 全体構想シート

2 基本計画シート

3 期ごとのシート活用例

コラム13 生活支援って何だろう?

コラム14 「私が人生の主役」になるために―支援者ができること

 

■第Ⅳ部:資料編

1.戦略シート

 ①全体構想シート

 ②基本計画シート

2.地域移行支援情報シート

3.病棟における退院支援計画・経過一覧表

4.用語解説

 

おわりに

引用・参考文献

索引

執筆者一覧

 

出版社 ‏ : ‎ ミネルヴァ書房

発売日 ‏ : ‎ 2021/1/19

単行本 ‏ : ‎ 176ページ(ソフトカバー)

ISBN-10 ‏ : ‎ 4623089541

ISBN-13 ‏ : ‎ 978-4623089543

税込価格 : 2,640円