タミアのおもしろ日記

食文化・食育のお役立ちの話題、トンデモ食育、都市伝説、フードファディズムなどを分析して解説します!(^.^)

「食という字は人に良いと書く」は都市伝説。

2019年01月30日 | Weblog
だいたい2001年か2年ごろからだったかなあと思います。そのころから、行く先々で「食という字は、人に良い、という意味です。」という台詞を聞きました。一体だれが言い出しっぺなのか不明ですが、そのうちに、とある料理学校の先生がこの台詞を気に入って、盛んに広めていました。

今でも、この「人に良い」説を信じている方は多いんじゃないでしょうか。でも、「人に良い」説は実は作り話なんです。「江戸しぐさ」と同じぐらい、後から生まれた都市伝説なのです。あの料理学校長も、たぶん、悪気はなくて、うっかり信じ込んでしまったんでしょうね、たぶん。

漢字の成り立ちの研究の第一人者と言えば、かの有名な、福井市出身で立命館大学名誉教授の故白川静先生です。白川先生は、名著と呼ばれる「常用字解」(平凡社)で、「食」の文字の成り立ちについてこう説明しています。食という文字は、食器の上にふたがのっている形の象形文字です、と。
あっけないかもしれませんが、「食」という漢字は、とても単純な文字だったのです。

「いやいや、そんなのうそだー!だって、人という文字の下に良いと書いてあるじゃないか~!」と言いたい人もいるかもしれませんが、動かぬ証拠があります。それはですね、「食」と「良」という漢字を甲骨文字や金文(きんぶん)や篆文(てんぶん)の段階で比較すると、両者全然違う形だからです。甲骨文字というのは、古代中国の殷王朝の文字で、亀の甲羅や獣の骨などに刻み込まれた文字です。金文というのは、殷末の青銅器に鋳込まれた文字です。篆文はその後の秦(しん)王朝の文字です。

白川先生によると、「良」という文字は、穀物などの量を量る「風箱留実」という道具の象形文字です。なお、穀類をきれいにする道具の象形文字だと唱える学者もいるそうです。どちらの学説が正しいかは不明ですが、どちらにしても良の文字は、篆文の時代でも、まだ、現在の「良」の文字とは似ても似つかないなんとも妙な形をしています。うーん、なんといいますか。仮面ライダーみたいに触覚が2本ついた人が中腰で座ってるような、とても微妙な形なんですよ。

一方、同時期の篆文の「食」の字の下パーツはどういう形なのか、というと、足の生えた丸い器です。香港政府が主導して作成された「漢語多功能字庫」という、漢字の語義紹介資料集も見て確認しましたが、これは祭礼用の食器を著す形でして、アワや麦を入れたと見られます。

つまりですね、のちの時代になってから「良」という文字が偶然で「食」の下パーツと同じ形になったので、冒頭に書いたような誤解が誕生したんですね。

ついでだから「養」という字の成り立ちも説明しますね。この文字は、甲骨文字や金文では、羊をむち打つ象形文字だったのですが、この書き方は廃止されて、篆文の時代には羊の下に食と書くようになります。羊に食べものを与えて大事に育てたというのが、現代使われている「養」という文字の起源です。従って「養」の文字の成り立ちも、「良」とは全く関係がありません。

一時期、一部の菜食主義の方々が、「養の文字は、上が羊で下が良いという文字だから、良い食品である植物性食品を土台としてたくさん食べて、動物性タンパク質は少量食べなさいという意味の漢字です。」と食育で指導していたんですが、(1)昔の中国では植物性食品と動物性食品で優劣を唱える発想自体が無かったし、(2)そもそも「養」は「良」の文字とは無関係に成立した文字だし、(3)「漢字のパーツは下の部分の方が重要だ」とする決まりはない、から、三重の意味でトホホな説です。

もしも「漢字では下のパーツが土台であり上のパーツはそれほど重要ではない」というのが事実であれば、お菓子の「菓」の文字は、下がくだもので、上が草かんむりですから、「菓の字に従って、くだものを土台としてたくさん食べて、草っぽい野菜は少量食べましょう。」と言うことも可能ですよね~~~。

もっとも、「文字や言葉の成り立ちに基づいて食事をしなければならない」という発想自体がすでに「ヘンテコ珍説」ですので、そういう大人をみたら「あ!ヘンテコ珍説さんだ!」と愉快に指さしてあげましょう。

漢字の成り立ちと食育の関係に関心のある方は、このブログ「タミアのおもしろ日記」の2016年09月04日の「変な食育:氣のエネルギーは米からって本当?」記事もぜひ読んでくださいね。「米」という漢字はアワという雑穀などを指していたことが、古代中国の研究書に載っていました、という記事です。文字や言葉の成り立ちに基づいて食事しなければならないなら、社会は大変なことになっちゃいますので、ご用心を!

☆本日のおまけ
「肉が好きなんてにくらしい子だね」などとくだらないだじゃれで子供に菜食主義を押しつける毒親がいるそうなので、呪いを解く歌を考えてみました。
 ♪お肉に目のない子供なら、
にくめない子、と愛される。
お菓子を食べて比べれば、
 おかしな大人もすぐ分かる。
野菜ばっかり無理強いされると
 やさぐれた子になっちゃうぞ!
(決めぜりふ)「子供にも主義主張を選ぶ権利がありますので、ベジタリアンになるかどうかは本人の意志を尊重してください。」
  

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「お米は栄養バランスが良い」は勘違いです。

2019年01月18日 | Weblog
遅ればせながらあけましておめでとうございます。今年もよろしくおねがいします。

さて、年明け早々悲しいお話ですが、ある科学雑誌に、よりによって疑似科学が紹介されました。全くとほほです。

その雑誌記事によると、お米は栄養バランスが良いので「米だけを食べ続けても栄養失調になりにくいといわれています」だそうですが、そう「いわれている」だけで、事実としては、米だけを食べ続ければ栄養失調になります。例えば1985年にも、お米ばかり偏食したのが原因で「ペラグラ」という病気になった患者さんの症例が、学術誌「皮膚」27巻4号に報告されています。ペラグラは放置すれば死に至る病気ですが、この患者さんは、食事を改善し、不足する栄養素の投与も受けて回復したそうです。この論文「ペラグラの4例」はネットのJ-STAGEの頁で無料で読めます。

科学雑誌の記事を書いた先生は、お米は必須アミノ酸をバランス良く含んでいるから栄養バランスが良い、と自説を展開してるんですが、その論理は「タレントのAさんは、体型のバランスが良いから芸能界でのバランスも良い。」ぐらいに論理展開がずれてますよ。

栄養学的に説明すると、この記事の大きな間違いは3点あります。

(1)お米は必須アミノ酸のバランスが良いという指摘自体が間違い。
(2)お米に含まれるアミノ酸の絶対量が少ないから、お米だけでは筋肉や酵素など体に必要な成分を保つことができない。
(3)お米にはある種のミネラルやビタミンが含まれてないので、「栄養バランスが良い食品」と言ってしまうと読者の健康を害する恐れがある。

これから、この3点について詳しく解説しますね。
まず、
(1)筋肉や酵素などのタンパク質は、アミノ酸という物質の集まりです。アミノ酸には、体内で合成できるアミノ酸と、体内では合成できないので必ず食べものから取らなくちゃいけない「必須アミノ酸」があります。それで、人間はタンパク質を食べて消化して、必須アミノ酸を吸収しなければならないのですが、この、必須アミノ酸のバランスを確認するときには、アミノ酸スコアという値を見ます。このスコアは100に近いほど理想的なのですが、リジンという必須アミノ酸のスコアがお米は61,小麦が39,トウモロコシが31です。スコア61というと、100にはほど遠いので、「お米はアミノ酸バランスが良い」と言ってはいけません。ここは栄養学の基礎中の基礎です。

 記事では、「米に含まれるアミノ酸バランスがよかった」という文章の後に「米はリジンが不足していますが」と続けて書いていますが、自己矛盾ですよね。
 しかも、この文章の後には、リジンが不足するけど大豆製品を食べれば不足分が補えて合理的です、と言う趣旨が書いてあるので、またまたびっくりしました。そういうパターンの説明がOKなら、「小麦やトウモロコシはアミノ酸バランスが良いのです。なぜなら小麦やトウモロコシはリジンが不足していますが、肉と一緒に食べることで不足分が補えて合理的になります」という文章も正しいことになりますよ。

次に、
(2)アミノ酸が結合したものがタンパク質ですが、お米に含まれるタンパク質の絶対量はとっても少ないのです。炊いたご飯のお茶碗1杯のタンパク質量は、玄米で4.2グラム、白米なら3.8グラムです。お茶碗1杯のご飯は150グラムとして計算してます。

 日本人成人男性の1日あたりタンパク質の推定平均必要量は50グラムですから、玄米なら1日12杯以上食べないと最低限のタンパク質が摂取できないのです。玄米をそんなにたくさん食べられる人はあんまりいないですよね。だから、大豆や魚など他の食品も食べて補うことが推奨されています。

ラストの、
(3)については、ものすごーく率直に言うと、現在自然に存在する食用の植物・動物で「それ単品で栄養バランスが良い食品」というもの自体が存在しません。例えば炊飯した玄米にヨウ素やビタミンB12やビタミンCはほとんど含まれていません。

 なので、高橋久仁子群馬大学名誉教授は様々な著著の中で、単独で栄養バランスの良い食品はないが、栄養バランスの良い食べ方ならありますよ、とわかりやすく表現しています。

 「1つの食べものばかりを食べてると体を壊すよ。色々な食べものを味わおうね。」と幼稚園の時から習いますよね。こんな基本知識が、どうして科学雑誌で吹っ飛んでしまったのかしら。この記事を書いた先生は高名な方ですが、食品や栄養については残念ながら素人の先生でした。疑似科学批判活動で有名な編集長が、なぜこのような誤解だらけの記事を載せてしまったのかしら・・・。今までこの編集長のファンだったので、とても心が痛いです。マスコミの方々や学者の皆さんには、プロとしての誇りを保つ質の高い記事を期待しています。次回こそはと応援しています。


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