3/23(水) yahooニュース(withnews配信)「肥満は自己責任? 新型コロナで重症化リスク…個人まかせには限界 健康格差の原因、雇用環境・人間関係も」は、興味深い内容でした。よくある「肥満は自己責任だ。肥満で心臓病や糖尿病になった人の医療費をなぜ健康人が肩代わりしなくちゃならないんだ」論が誤解だと詳しく説明していました。
この記事は公益になる一方で、悪用が懸念される部分もはらんでいます。その点に記者さんは気がついてないようですので、多くの読者様に情報提供したいと思います。
まず、記事の要旨をご説明します。
肥満者は心臓病や2型糖尿病などになりやすいことはよく知られています。では世間でよく言われる「肥満は自己責任」論が事実かどうか。記者は疑問を持ち、京都大学教授の社会疫学ご専門の近藤尚己さんに取材しました。
近藤先生のお話では、健康は社会状況(所得や職業、国や地域の政策など)の影響を受けるため、『バランスのよい食事をしよう』『適度に運動しよう』と個人の理性的行動を促すだけでは健康を守れないとのこと。
つまり、所得の不均衡などの社会問題にアプローチしなければ肥満は減少しないのです。
このような事実を学んだ記者は、記事の後半でこう問いかけます。「自己責任論に終始してしまうと、肥満対策としては実効性に乏しいばかりか、肥満に社会的・経済的な環境が影響する以上、コロナ禍においてさらなる分断を生んでしまう危険性がある」と。
この部分には全面的に賛成します。記事では触れてませんが、肥満には遺伝的要素もあります。今、若くてやせている方も、中年になれば、努力しても太ってしまう自分に愕然となるかもしれません。肥満の方に「おまえはだらしないから太ってるんだ」と暴言の石つぶてを投げる方々は、その投げた石が10年、20年後に自分にも返ってくるかもしれないことを想像して欲しいものです。
ですが・・・ここからが今回特に言いたい部分です。
記事の途中で、記者は朗報であるかのように「ナッジ理論」を持ち出しました。ナッジ理論とは、本人が気がつかないうちに特定の行動を誘導する手法のことです。記者さんは例として、ポケモンGOで歩き回って運動不足が解消された例を紹介しました。そして、人を知らず知らずに健康になる方向に導ければ良いとの論を、中盤部で展開したのでした(なお文面からは、近藤先生もナッジを勧めている文脈か、記者独自の視点かは読みとれませんでした)。
しかし、ナッジ理論には危険性が指摘されていることを記者さんはご存じなかったようです。危険性は次の通りです。
まず、人を知らず知らず特定の行動に誘導出来るなら、換言すれば、財布からお金を出させたり、特定の政党に投票させたり、陰謀論に巻き込んだりも出来るということです。ですから、ナッジ理論について専門家はバラ色の夢を語ったりしません。
次に、ナッジ理論を理想的であると語る人は、政治家や、国民を特定の行動様式に誘導したいと考える行政関係者などに時々います。彼らは「自分たちが正しいから国民を善導しなければならない」と考えがちだからです(例えば、米を食うのが日本人の正しい生活だからと、日本の伝統文化に麦飯や粉食文化があったことを隠蔽しがちです)。
このような上から目線は専門用語でパターナリズムと言います。簡単に言えば、「俺が父親役をするからおまえら国民は従いなさい、悪くはしないから。」という考え方です。有名なのは、かつて欧米諸国がアフリカ諸国を「君たちは遅れた文化のかわいそうな国だから、正しい神様や言葉を教えてあげましょう。」という発想で、宗教や言語などを教え込んで植民地化した例です。パターナリズムはつねにこうした危うい傾向が潜んでいます。
さらに、ナッジ理論で誘導して肥満を解消して差し上げましょうと言っている時点で、「結局肥満の責任は本人が運動せず食事を改善しないからだ。」という発想です。責任は本人にあると言っているのと本質的に同じです。
遺伝子ガチャで太ってしまう人も大勢居る以上、肥満を個人責任にしては行けません。
最後に、ナッジ理論は常に「社会全体の利益のためには、個人個人は家畜並みに統率されても当然だと考える全体主義」に転化しかねません。ナッジ理論を導入するよと聞かされて私たち一般国民が賛成すれば、国民同士が違いに無言で相手の行動を管理する全体主義への道を布石することになります。異論を唱える者への排除が進むでしょう。
では、ナッジ理論を導入しないとしたらどうしたら肥満が解消出来るのか。おそらく現時点で理想的な解決法は、まず、「肥満はだらしない人だ」とのスティグマ(負のレッテル貼り)を改めることでしょう。スティグマが、肥満者の鬱状態を招いてさらなる運動不足や大食いを招く恐れがあるからです。そして、気負わず楽しく健康的にやせられるように、社会環境として応援態勢を整備するのが大事と考えます。例えば、誰もが望めばダイエット教室に仕事帰りに安価に通える、だれもが栄養バランスが良い食事を比較的安価にスーパーで購入できるようにする、肥満が生じやすい職場では社食に安価で低カロリーな定食をもうける、などの方法が考えられそうです。知らず知らずに操作される世界より、このような目に見えて実効性のあるアクションの方が風通しが良いと思います。
この記事は公益になる一方で、悪用が懸念される部分もはらんでいます。その点に記者さんは気がついてないようですので、多くの読者様に情報提供したいと思います。
まず、記事の要旨をご説明します。
肥満者は心臓病や2型糖尿病などになりやすいことはよく知られています。では世間でよく言われる「肥満は自己責任」論が事実かどうか。記者は疑問を持ち、京都大学教授の社会疫学ご専門の近藤尚己さんに取材しました。
近藤先生のお話では、健康は社会状況(所得や職業、国や地域の政策など)の影響を受けるため、『バランスのよい食事をしよう』『適度に運動しよう』と個人の理性的行動を促すだけでは健康を守れないとのこと。
つまり、所得の不均衡などの社会問題にアプローチしなければ肥満は減少しないのです。
このような事実を学んだ記者は、記事の後半でこう問いかけます。「自己責任論に終始してしまうと、肥満対策としては実効性に乏しいばかりか、肥満に社会的・経済的な環境が影響する以上、コロナ禍においてさらなる分断を生んでしまう危険性がある」と。
この部分には全面的に賛成します。記事では触れてませんが、肥満には遺伝的要素もあります。今、若くてやせている方も、中年になれば、努力しても太ってしまう自分に愕然となるかもしれません。肥満の方に「おまえはだらしないから太ってるんだ」と暴言の石つぶてを投げる方々は、その投げた石が10年、20年後に自分にも返ってくるかもしれないことを想像して欲しいものです。
ですが・・・ここからが今回特に言いたい部分です。
記事の途中で、記者は朗報であるかのように「ナッジ理論」を持ち出しました。ナッジ理論とは、本人が気がつかないうちに特定の行動を誘導する手法のことです。記者さんは例として、ポケモンGOで歩き回って運動不足が解消された例を紹介しました。そして、人を知らず知らずに健康になる方向に導ければ良いとの論を、中盤部で展開したのでした(なお文面からは、近藤先生もナッジを勧めている文脈か、記者独自の視点かは読みとれませんでした)。
しかし、ナッジ理論には危険性が指摘されていることを記者さんはご存じなかったようです。危険性は次の通りです。
まず、人を知らず知らず特定の行動に誘導出来るなら、換言すれば、財布からお金を出させたり、特定の政党に投票させたり、陰謀論に巻き込んだりも出来るということです。ですから、ナッジ理論について専門家はバラ色の夢を語ったりしません。
次に、ナッジ理論を理想的であると語る人は、政治家や、国民を特定の行動様式に誘導したいと考える行政関係者などに時々います。彼らは「自分たちが正しいから国民を善導しなければならない」と考えがちだからです(例えば、米を食うのが日本人の正しい生活だからと、日本の伝統文化に麦飯や粉食文化があったことを隠蔽しがちです)。
このような上から目線は専門用語でパターナリズムと言います。簡単に言えば、「俺が父親役をするからおまえら国民は従いなさい、悪くはしないから。」という考え方です。有名なのは、かつて欧米諸国がアフリカ諸国を「君たちは遅れた文化のかわいそうな国だから、正しい神様や言葉を教えてあげましょう。」という発想で、宗教や言語などを教え込んで植民地化した例です。パターナリズムはつねにこうした危うい傾向が潜んでいます。
さらに、ナッジ理論で誘導して肥満を解消して差し上げましょうと言っている時点で、「結局肥満の責任は本人が運動せず食事を改善しないからだ。」という発想です。責任は本人にあると言っているのと本質的に同じです。
遺伝子ガチャで太ってしまう人も大勢居る以上、肥満を個人責任にしては行けません。
最後に、ナッジ理論は常に「社会全体の利益のためには、個人個人は家畜並みに統率されても当然だと考える全体主義」に転化しかねません。ナッジ理論を導入するよと聞かされて私たち一般国民が賛成すれば、国民同士が違いに無言で相手の行動を管理する全体主義への道を布石することになります。異論を唱える者への排除が進むでしょう。
では、ナッジ理論を導入しないとしたらどうしたら肥満が解消出来るのか。おそらく現時点で理想的な解決法は、まず、「肥満はだらしない人だ」とのスティグマ(負のレッテル貼り)を改めることでしょう。スティグマが、肥満者の鬱状態を招いてさらなる運動不足や大食いを招く恐れがあるからです。そして、気負わず楽しく健康的にやせられるように、社会環境として応援態勢を整備するのが大事と考えます。例えば、誰もが望めばダイエット教室に仕事帰りに安価に通える、だれもが栄養バランスが良い食事を比較的安価にスーパーで購入できるようにする、肥満が生じやすい職場では社食に安価で低カロリーな定食をもうける、などの方法が考えられそうです。知らず知らずに操作される世界より、このような目に見えて実効性のあるアクションの方が風通しが良いと思います。