タミアのおもしろ日記

食文化・食育のお役立ちの話題、トンデモ食育、都市伝説、フードファディズムなどを分析して解説します!(^.^)

カリウムとナトリウムのバランス。

2016年02月28日 | Weblog
伝統的な和食は塩分、とりわけナトリウムの取りすぎになる傾向があるため、胃がんや高血圧、脳卒中の引き金になりやすいことがよく指摘されます。

そこで、最近耳にした噂が「玄米食に味噌汁と漬け物と野菜の煮物を中心とする食事にすれば、カリウムが豊富なので、ナトリウムとカリウムのバランスがとれて心配が無くなる。」という説なのですが、これは生理学的に首をかしげる話です。

なぜならば、摂取されたナトリウムはまず腸で吸収されて血液に乗り、血圧を高めてしまうからです。血圧が上がった後で、血液が腎臓に運ばれて、ここでナトリウムが体外に排出されます。だからカリウムがナトリウムの排出を促すのは事実でも「カリウムを沢山摂取さえすれば、ナトリウムも沢山摂取してへっちゃら。」という簡単な話ではないのです。ナトリウムもカリウムも沢山摂取する食生活を続ければ、腎臓に負担が掛かります。

また、ナトリウムは胃がんに罹りやすくします。カリウムを取っていても防げません。

高血圧対策のため、厚生労働省でも、まず口に入るナトリウムそのものを減らすように指導しています。具体的には「日本人の食事摂取基準」(2015年版)で、ナトリウム(食塩相当量)の目標量は18歳以上男性で1日8.0グラム未満、女性で7.0グラム未満とするよう勧めています。

一方、上記のうわさのような「玄米と味噌汁と漬け物と野菜の煮物」の食事を1日3食取ると、ナトリウムを食塩相当量で、どの程度摂取するのでしょうか。味噌汁1杯のナトリウム(食塩相当量)は個人の好みによって差があるのですが、平均して1.5グラム位と言われています。同様にたくあん漬けの場合は1食でだいたい1.3~2グラム程度、ぬかみそ付けなら1.6~2グラム程度です。野菜の煮物も、味付けや食べる量によっても異なりますが、2グラム前後と推測されます。

つまり先述のような食事ですと、仮に漬け物を1種類として味噌汁はお代わりしないとしても、1食で5グラム前後取ってしまう計算になります。これが3食なら15グラム前後です。これでは、ナトリウムの取りすぎになってしまうことが分かりますね。やっぱり、味噌汁や漬け物や煮物を毎食取るのは避けた方が健康に良いと言えるでしょう。

なお、日本人の中には塩分に非感受性の高血圧症の方もいます。しかし、医師でもない人が自己診断で塩分感受性か非感受性かを判断することはほぼ不可能ですので、「私は大丈夫」と思って塩分の多い物を食べ続けるのは危険なことです。血圧の心配な方は必ず、信頼できる専門医の診断を受けて下さい。

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食育の祖は短命だった!?

2016年02月20日 | Weblog
石塚左玄氏(嘉永四(1851)年~明治42(1909)年)は、食育という言葉の創始者として良く知られています。また、玄米食運動や、「食養」という「健康法」の創始者でもあり、身土不二説やマクロビオティックの原型となる理論を作った方です。こうした事情から、代替医療関係者の間では非常に尊敬されている人物です。しかし、この石塚氏が実は当時の高齢者の基準から見た時は、やや短命だったという事実は意外に知られていません。

明治42年頃は、横町のご隠居などで65歳前後の高齢者が普通に見かけられたのですが、石塚氏は当時としてはやや短命な58歳で亡くなっているのです。

氏は明治29年に「長寿論」、明治31年に「通俗食物養生法」を出版し、明治40年には「食養会」を結成するなど、「長寿法の指導者」として多くの人の期待を一身に集めていた人物です。氏のお父様も数えで74歳と長命でした。それだけに氏の早すぎる死は、関係者に大きな衝撃を与えました。

氏がお亡くなりになった後、会の幹部は「実は石塚先生は5歳の時に重い腎炎を患っていた。数え年で59歳まで生き延びられたのはやはり彼の食養指導が正しかったからである。」という趣旨の講演会を開きました(「食養雑誌」第25号26ページ)。しかし、氏の生前にはそのような持病で苦しんでいるとの発言も記録もなかったらしく、愛弟子でさえもそのような話は知らなかったので、亡くなられた時に「寝耳に水」で信じられなかったと記録に残しています(「食養雑誌」第25号30-31ページ)。氏の死後、大勢の会員が脱会していますが、おそらく会の公式見解に疑問を感じたのでしょう。

さて、驚いたことに近年一部の食育指導者の間では「石塚氏は実は長命だった」という俗説が広まっているそうです。それによれば「明治42年の平均寿命は44歳前後だから、58歳まで生きられたのは長命だ。」ということなのですが、これは2つの意味で統計の扱いが不適切です。

まず第一に、「明治42年の平均寿命」とは、「明治42年に生まれた赤ん坊が、将来何歳まで生きられるかの推定値」なのです。つまり明治42年の平均寿命と明治42年になくなった方のお年には関係がないのです。まずこの点からして「石塚氏は長命」説は初歩的な誤解です。

第二に、有史以前から昭和半ばまで、平均寿命を押し下げる最大の要因は「乳幼児期の病死」によるものでした。明治の頃には65歳前後まで生きる人も結構いたのですが、乳幼児期でなくなる人があまりにも大勢居たため、平均値を取ると計算上、寿命がガクンと下がったのです。逆に言えば、乳幼児期をサバイバルできた人は60~65歳ぐらいまで生きられる可能性が高かったのです。

もちろんこの時代には脚気や結核で若くして亡くなる方も大勢居たのですが、脚気はパンを食べると治ることが経験則的に知られてましたし、結核に罹っても栄養価の高い食事を取ると比較的長生きできることも知られていました。このため、20歳なり40歳なりまで生き残れた方は、その後も比較的長生きできたのです。

具体的に数値で確認して見ましょう。厚生労働省のwww.nhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/19th/gaiyo.html の表2をご覧下さい。
明治24-31年頃に40歳だった方は平均してその後25.7年余命があったことが表から分かります。そして石塚左玄氏はまさに、明治24年に40歳だったのです。つまり、40歳まで生き残れた石塚氏は、その後特別な健康法などに頼らなくても、ただ普通に暮らしているだけで66歳近くまで生きられる可能性が高かったのです。

しかし彼は明治20年代には食養の理論を構築し始め、先述の通り明治29年に独特の長寿法を発表し、実践したのです。その結果として彼は、当時としては比較的短命な58歳で生涯を閉じたのです。

繰り返しますが、65,6歳のお年寄りが身近にあちこちで見かけられる時代に、長命法の指導者が58歳でお亡くなりになったのです。当時としては比較的短命だったからこそ、その理由を説明するために食養会では講演会まで開いたのです。このような事実を前にして、どうして「石塚氏は長命でした」といえるのでしょうか。

「食育の祖」「玄米食運動の祖」だからこそ、「長生きであった」という話であって欲しいという願望は分からなくもありませんが、願望を事実とすり替えてはいけません。食育の指導者は、子ども達にはきちんと、石塚氏は長生きは出来なかったと教える必要があるでしょう。

特に、石塚氏のふるさとである福井県の中には、県の偉人として石塚氏を子ども達に指導する町もあると伺っています。石塚氏の理論には部分的には今日に通じるところもあるかもしれませんが、多くの部分は科学的に誤りであり、疑似科学と呼ばれるものです。食養理論でお亡くなりになった方もいらっしゃると言われていますので、教育者の方々には特に気をつけていただければと思います。

*3月5日追記:内容の一層の正確を期するため、出典を記載するなど文章の一部分を修正しました。


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変な食育「5つのこしょく」「6つのこしょく」。

2016年02月13日 | Weblog
関東のA県南部に住む知人から、地元の小学生とその家族に配布される「小学生新聞」の食育欄に時々奇妙な説が載っている、という話を伺いました。A県南部の民間情報会社が作成し、公立小学校という公的機関を経由して配布される新聞です。1例を見せてもらうと、「6つのこしょくは食生活の赤信号」、と紹介する内容でした。

「6つのこしょくって何だろう?」と思って記事を読んだところ、食育で指導されがちな疑似科学「5つのこしょく」説の延長線と分かりましたので、「5つのこしょく」説の方を先に説明します。

「5つのこしょく」とは、「孤食(家族で別々に食べること)」「個食(家族によって異なるメニュー)」「固食(偏食のこと)」「小食(食が細いこと)」「粉食(パンなどの粉製品を食べること)」のことです。食育の指導者はいかにも科学的裏付けがあるかのように、「こんな食事をしていると社会性や協調力が身につかず、肥満や味覚障害なども起こって良くないので止めるように。」と指導するわけですが、実は科学的根拠の希薄なものが多く紛れているのです。

これらのこしょくに「濃食(濃い味付けの食事)」が加わると、「6つのこしょく」になり、これらは良くない物であるというのが、上記小学生新聞の内容でした。確かに「固食」=偏食は栄養不足になりがちなことから余り勧められるものではありません。しかし残りは首をひねるような内容ばかりです。

まず、「濃食」というのの定義があやふやです。塩分の取りすぎという意味でしたら、確かに身体にあまりよくないのですが、だし汁で味が濃いという場合は減塩になるのでむしろ勧められる、という説が近年では主流です。とはいえ、昆布出汁だとヨードの過剰摂取にもなるので毎日は勧められません。まとめると、「濃食」はそもそもの定義が曖昧なので、善し悪しを判定できるようなものではありません。

また、以前このブログでも紹介した成田崇信先生の「管理栄養士パパの親子の食育BOOK」でも、「5つのこしょく」については批判的記事が載っていますので、ここで紹介いたしますね。「個食」については、成田先生は、年齢が違えば必要な栄養素も違うので、家族が別の料理を食べることが悪いこととは思えないと指摘されています。「粉食」については、パンや麺類を食べて何が悪いのでしょうか、と問いかけています。「小食」については、おやつの食べ過ぎが原因だったら問題ですが元々少食の子どもも居るはずです、と指摘なさっています。

成田先生のこの指摘は全くその通りだと思いますし、更に付け加えたいことがあります。

まず第一に、和食の歴史は基本的に「孤食」だったという事実です。詳しいことは食文化研究の大家、石毛直道先生先生の「食卓文明論」(中公叢書)に書いてあるのですが、日本では、箸や茶碗を共有することでケガレが伝染すると古くから信じられていたため、箱膳という道具に食器類をしまっておき、食べる時も、家族でも離れて食事をしていたのです。その上、食事中の会話も禁止されました。「家族で楽しく団らん」なんて雰囲気じゃ全く無かったのです。また、同じ家の中でも主人達と使用人は別々の場所で別の時間に食事をしていました。

さて、そういう事実を知ると、近年盛んな「和食の伝統を見直そう」というスローガンと「孤食は良くない。みんなでちゃぶ台を囲もう。」というスローガンは完全にコンフリクトを起こしてしまいます。「ちゃぶ台で家族団らん」が主流だった期間は日本の歴史から考えると非常に短い(大正末期から昭和40年代まで。)ことが、上記の石毛先生の本には記してあるからです。
箱膳方式とちゃぶ台式のどちらの食べ方にもその時代時代の歴史的背景があり、良い点と欠点があると思いますので、どちらが良いと簡単に勧めることはできないと思います。そうした中で「孤食は悪い」と決めつける講演を聞くと、ああ、この先生は和食の歴史を知らないからこういうことが言えてしまうんだなあ、と思ってしまいます。

次に、「粉食が悪い」という話なんですが、和食の伝統食であるうどんや蕎麦はどうなんでしょうか。しかも、健康に良いと言われる地中海式食事法やイタリアのスローフードは粉食(パン、パスタ、ピザ)です。地中海付近、特にイタリアの人達は地中海式食事やスローフードが原因で、健康を損ねて社会性や協調性がないというのでしょうか。そんなことはないですよね。こうやって落ち着いて考えてみると、「粉食が悪い」なんて、もはや笑ってしまうような低レベルのお話です。こんな疑似科学にだまされた食育指導者が「粉食はやめましょう」と言っているのを見ると、人材の浪費で誠に残念に思われてきます。それに粉食批判を学校で指導すると、日本の将来を背負って立つ子ども達に「西洋の人達は間違った食事をしている。」という人種差別的偏見を与えてしまうのではないでしょうか。

最後に、「個食が悪い」という話も変ですよね。家族の中に歯や内科の病気等を患っている方がいて、皆で同じメニューを食べられないという家庭も時々あると思います。そうした家庭に、不要なプレッシャーを与えてしまうのが心配です。家族のメニューが違っていても、それぞれに健康的に幸せに食べられることの方が大事に思われます。

以上のように、「5つのこしょく」「6つのこしょく」は疑似科学(エセ科学とも言います。)であり、しかも外国の方への偏見さえ形成しかねない言説であることが分かりました。本気で食育のプロを目指す方々は、こんな奇妙な言説に惑わされずに、子ども達や家族の幸せのことを考えて、きちんとした指導をして欲しいと願います。また、公的機関がこのような言説を広めないように、御願いします。

コメント (1)
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ポテチより危険?あの「ヘルシー」食材が!?

2016年02月06日 | Weblog
2月1日、食品安全委員会が重要な発表をしました。日本人は意外な食品から発がん性物質の「アクリルアミド」を大量に取っている、という報告です。

その意外な食品とはなにか・・・・を言う前に、ちょっと解説させてください。

アクリルアミドと言えば、数年前に「ポテトチップスに大量に含まれている」ということから、あちこちのネットで「ポテチは危険だ!」と騒がれたことでよく知られている、天然自然の化学物質(*注)です。しかしその手のネットデータの多くは奇妙な物でした。というのも、その当時政府の発表したデータ表には「かりんとう」や「焼きおにぎり」にもアクリルアミドが多量に含まれていると示されたんですが、なぜかネット上では多くの方々が、和食のアクリルアミドについては言及せずに、ポテトチップスばかりを断罪していたからです。

*天然自然の化学物質という言い回しは、科学的には矛盾していません。アクリルアミドは、食品に「天然に自然に」含まれている糖とアミノ酸が、高熱で調理されたときに出来る物質です。しかもこの世のほとんどの物質が化学物質から出来ています。例えば自然農法の野菜に含まれるビタミンも食物繊維も、化学物質です。

というわけで、食品安全委員会の報告に話を戻します。委員会の「加熱時に生じるアクリルアミドワーキンググループ」が報告した資料は、食品安全委員会のホームページで閲覧できます。資料2-3が一覧表なので、わかりやすいでしょう。この表を見ると、日本人が食事から取るアクリルアミドの主な供給源はというと、なんと、ダントツで「もやし」なのです。

そうです、あの「家計にやさしくてしかも低カロリーでダイエットにも嬉しい」と、一時盛んに雑誌やテレビでもてはやされた、あの「もやし」炒めから、日本人は大量のアクリルアミドを摂取していたのです。その量は平均、1日当たり体重1kg当たりで66ngです。一方ポテチはたった9.4ngですから、桁違いにもやしからの方が多いのです。どうしてこんなことになるかというと、もやしは大勢の人が沢山食べているが、ポテチは意外にもそれほど多くの人は食べてないから、なのです。

ちなみにこの表によると、かりんとうは、アクリルアミドの濃度自体はもやし並に高いものの、食べる人が少ないため、日本人平均を取るとリスクが低いという結果になっています。つまり、普通にかりんとうを食べていれば大丈夫ですが、「ポテチは危険だという噂があるからかりんとうにしよう」などと思ってかりんとうばっかり食べていた人は発がんの危険性が高いということですね。
また、焼きおにぎりについては今回掲載されなかったのでなんとも言えません。ただ、普通に炊飯しただけのお米からさえも、日本人はアクリルアミドを3.9ng取っていることが今回わかりましたので、ましてや焦げた焼きおにぎりを毎日大量摂取するのは、用心したほうが良いとは思います。

さて、私の知る限り、この食品安全委員会の発表を報道したテレビは1番組だけです。どうしてこういう大事なことがニュースでほとんど報道されないのか、不思議ですよね。ベーコンやソーセージではあれほど大騒ぎしたのに。

2月7日0時追加文章:上記のもやし炒めのデータは、高温で炒めた時の値です。もやしをゆでたり、蒸して食べる分には高濃度のアクリルアミドは生成されないものと思われます。また、高温で炒めた場合でも、少量食べる分には微量のアクリルアミドなので、あまり神経質にならなくても大丈夫と思われます。どんな食品にもごく微量ながら健康に悪いとされる成分が含まれているものです。エイムズ法という試験によって、ほとんどの野菜に天然の発がん性物質がごく微量に含まれることが分かっています。リスクがゼロの食品は世の中に存在しません。もやしは食物繊維などを含む食材で健康面のメリットもありますので、過剰に心配せずに、適量を安心して召し上がっていただければと思います。

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