タミアのおもしろ日記

食文化・食育のお役立ちの話題、トンデモ食育、都市伝説、フードファディズムなどを分析して解説します!(^.^)

教育の敗北(食べ物版)

2022年12月30日 | Weblog
先日「来年から新しい戦前が始まるでしょう」とタモリさんがテレビで言ったことに、各方面から驚きと賛同の声が寄せられています。軍事や政治のことは専門家に任せて、食のことだけ書きますが、食も悪い意味で戦前に戻るのだろうと危惧しています。
 思えば1980年代バブル期、知識人がテレビや新聞で「現代の豊かな食事は間違っている。質素な昔の食事が正しい。」的なことを時々言っていて、一方私のような子どもなど多くの視聴者はそれを「昔は良かった式幻想にとらわれたかわいそうな人」という目で見ていました。職人の包丁さばきがさえる日本料理、本格的フランス料理やイタリア料理や中華料理に、大勢が熱狂し、いまや日本は世界に誇る料理人やスイーツ職人がたくさんいます。

 一方で、バブル期にまかれた「現代の食事は間違っている。」タネは少しずつ「自然回帰」「ナチュラル志向」というアニミズム的発想と結びつきました。そして、彼らの「無農薬がよい」「西洋薬を使うな」という声と「戦前のような食事が良い」という言葉は強固に結びつき、情報弱者な学校の先生やSNSを通じて多くの人々を捉えました。今子どもをほしがっている30歳前後の方は、10数年前の食育で「農薬を使った食品は汚れている」とか「健康な事どもを生むなら昔の日本の食事にしなさい」という科学的根拠のない説を習っています。そんな10数年前の食育が強迫観念となって、善意のつもりで結果的に我が子を虐待している人たちが、最近SNSで話題になっています。

 生まれた幼子に必要な薬を与えずに野菜や塩で治そうとする親などです。やっていることは、戦前の知識の乏しい層がすがった「祈祷(まじない)」と結果的には同じです。学校の情弱先生たちが指導する「なんとか菌のパワーが宿る自然な食品」というのも、発想のベースは戦前の「お祓いをして精霊の魂が宿った食べ物」と大して差がありません。

 このような情報劣化が今後も続けば、来年はいよいよ食の世界も「新しい戦前」になるでしょう。きちんとした論理的思考も科学的な教育も身につかないまま、頭ごなしに「良い菌に感謝して自然な食べ物を食べてよい身体をつくりましょう」と唱える人々はおそらくもっと増えるのでしょう。そうして「昔が一番良い」と言いながら、一人一人が考える「昔の料理」が人によって「玄米菜食」だったり「白米に魚のひもの」だったりと全く違うため、お互いに会話がちぐはぐになりながら。
 食品の値段が高騰して、今までのようには職人やシェフの料理を食べられない人も増えるでしょう。そして、この科学的知識も物質的にも貧しい2023年が今の幼い子らには「当然の日常」と心に植え付けられるのでしょう。
・・・て、そんな世の中にしたいですか?
庶民の料理から高級料理まで様々なものがあって、それらを安心して楽しめる社会であって欲しい。食べ物の戦前化を防ぐため、まずは教育の敗北を認めて、科学的にまともな食育を広めていこうじゃありませんか。

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