タミアのおもしろ日記

食文化・食育のお役立ちの話題、トンデモ食育、都市伝説、フードファディズムなどを分析して解説します!(^.^)

NHK食の起源・ご飯」の間違い1「デンプンで脳が大きくなった説は誤り」

2020年02月10日 | Weblog
○はじめに。
11月24日に放映されたNHKの「食の起源 第1回ご飯」は、科学的間違いが多い、と知り合いの学者がぼやいてました。それでタミアも慌てて先週見ましたが確かに問題だらけでびっくり仰天!タミアもお米が大好きだから、お米食べてねと言いたい気持ちはNHKさんと同じなんですが、科学的に間違った理由でお米が体に良いと宣伝されるのは、お米がかわいそうです。

このブログは、お米とNHKにがんばれって愛を込めて書きます。きっとNHKが本気を出せばもっと良質な番組が作られるはずだから、あえて問題を指摘します。間違いが多すぎて長文になるから、連載にしますね。

○今日のお題。
本日は、番組の肝の「人類はデンプンを食べたおかげで200万年前に脳みそが急に大きくなったから、賢くなった」説の間違いを取り上げます。

○「脳みそが大きい人は賢い」は差別を助長しかねない。
実はね、科学的間違いを言うよりも前に、「脳みそが大きい人は賢い」という言葉自体が非常に危険な言葉です。知能検査の結果では、脳の重さが影響するのはほんのごくわずかであり、脳の重さより他の影響の方が遙かに大きいという論文もあります。それに「賢い」ってどういう意味なのって問題が実は一番重要。のらりくらり意味不明な答弁をする人は賢いのか馬鹿なのか評価が分かれますよね・・・。

○人間と動物の比較の場合でもアウト。
「脳が大きいと賢いよ」と言っちゃったら、「ふーん、じゃあ鯨は頭が良いはずだね?」ってなるんです。そこで知ったかぶりで「人間の脳は体重の38分の1だが鯨の脳は体重の2500分の1しかないから、体重との比で考えるとやっぱり人間は脳がでかいんだ」と言い返しちゃだめよ。小さい動物の方が体に占める脳の割合が大きく、例えばネズミは体重の28分の1なんで。そこで公平のために哺乳類の脳の大きさを対数でプロットすると、やっぱり鯨の脳は霊長類なみに大きく発達していることが分かっています。(アリゾナ大のJoseph Robert Burger先生の論文 The Allometry of Brain Size in Mammalsより。Journal of Mammalogy, XX(X):1–8, 2019)。脳が大きいのは本当に賢いのか、そもそも人間の間でさえも、どういう人を賢いというのか感覚が違うのに、ましてや全然違う動物の間で賢さをどう比較するのか、と何かと議論になるため、「脳が大きいから知能が高い」と単純に言うのは科学的ではありません。

○番組の一人歩きが始まってる。
残念なことにこの番組をそのまんま鵜呑みにして「よくぞ言ってくれた。お米を食べるとデンプンで頭が良くなるんだ」と声を上げている人(米屋さんとか。)がけっこう多いんで、こんな姿が海外に見られたら「日本国民の教育レベルって低いね。」って言われそうで悔しい。お米は色々と良いところがたくさんありますが、科学もどきの科学的ではない説明で「頭がよくなる」って思い込むのはいけません。欧米に負けない世界から尊敬される科学番組を作ってほしいんです!!NHKラブだよ本気だよ。

○デンプンで脳が大きくなった説を番組ではどう説明したの?
(1)カレン博士の研究の引用ミス!

番組では、スペインの洞窟で石器時代の研究をしているバルセロナ自治大カレン・ハーディ博士が登場しました。
彼女は「石器時代の人類の歯石にでんぷんがついている」と指摘。博士が「(先祖は)でんぷんでエネルギーを得ていた」と言いましたが、画面に映ったのは何のデンプンか分からない写真でした。石器時代のスペインにお米生えてないし。

ところがこの画面の直後にナレーションで「日本の祖先はドングリや地下茎をたべてたと」解説が入るため、「博士の見つけたデンプンは何かな?」と想像するより先に、視聴者の頭の中はどんぐりや地下茎のことでいっぱいになります。カレン博士の研究対象はネアンデルタール人ですし、一方人類の祖先が東へ移動して日本にたどり着いたのはホモ・サピエンスで、わずかに交雑していますが別の種族です。だから、カレン博士の研究対象が食べてた物と、日本の祖先食べた物を同じだと決めつけてはいけません。(後で詳しく説明するけど、おそらくこのネアンデルタール人の歯石のデンプンは松の実と想像されます。)

(2)実は極端に肉食のネアンデルタール人もいた!

石器人の歯石研究で有名なのは、2017年にNatureに載ったアデレード大学のローラ・ウェイリッチ博士の論文、Neanderthal behaviour, diet, and disease inferred from ancient DNA in dental calculus。アブストラクトには、At Spy cave, Belgium, Neanderthal diet was heavily meat based and included woolly rhinoceros and wild sheep (mouflon), characteristic of a steppe environment. In contrast, no meat was detected in the diet of Neanderthals from El Sidrón cave, Spain,と書いてありました。つまりね、「ネアンデルタール人は、ベルギーの洞窟で見つかったのは極端に肉食でスペインで見つかったのは菜食主義でした。」という論文で、肉ばっかり喰ってるネアンデルタール人もいたんですよ!

 番組制作スタッフがこの有名なネイチャーの「肉ばっかり喰ってたネアンデルタール人がいたよ論文」に気づなかったとは、常識的に考えにくいことですが、本当に気がつかなかったのでしょうか。

(3)菜食のネアンデルタール人は歯痛の上に病気を持っていた。
 さらにローラ博士によれば、スペインの菜食主義のネアンデルタール人が食べていたのはコケ・松の実・キノコなどが多く、しかも歯周病などを患ってポプラの葉の化学物質「サリチル酸」で鎮痛作用を得たり、下痢と吐き気の病原菌まで持っていたと指摘しているの。つまり、このネアンデルタール人は本当は肉を食べたかったけど病弱な上に歯痛で肉を食べられなかった可能性が高いのです。

(4)番組後半でちゃぶ台返し。
それに、実は番組後半では、「ホモ・サピエンスが成立した後も数千年単位で西欧人と日本人では遺伝子がかなり変化したのだから、どういう食べものが体に良いかなんて西洋と日本人では比較できない」って言ってるから、「昔の食事はこうだったから、昔の食事を見習いましょう」って番組の論法は自己撞着ですね。フィンランドあたりの学校教育を受けた人なら、直ちに「この番組は論理的に変だよ」と声が上がりそうです。そういえば、この間問題になった「PISAで日本人が1番苦手だった問題」は「情報の真偽を論理的に推測する能力」だった。

(5)「デンプンで初めて食の楽しみを知った説」は間違い。
デンプンより先に果物と「だし味」を楽しんでいた!

さて、番組開始から10分目以降はこう展開します。
「700万年前の祖先は果物を食べていたが、寒冷化で地面に降りて、二足歩行を始めて、初めてどんぐりのような木の実を食べたのだ。他の動物と比較してか弱かったので、木の実を割って食べなければ生き残れなかったが、でんぷんは味わいはいまいち。そこで、大改革があった」として、イスラエルのガリラヤの200万年前のホモ・エレクトスの石器を紹介しました。

この石器からホモ・エレクトスが火を使っていたことが分かった、木の実を焼いていたことが証明された、火によるでんぷんの調理が食の大革命だった、とナレーションが入ります。本当はこの時代に同時にタンパク質も焼いて食べてるんですが、なぜか映像は、日本の山で木の実や地下茎を焼いて食べて「おいしい」と言う画面に切り替わります。ホモ・エレクトスが火を使って肉を食べて焼いていたことに視聴者が気がつく時間を与えたくないから、デンプンを食べるシーンを急いで見せたのでは?と推測されてもしかたない不自然な演出だと思いました。

それに「ホモ・エレクトスが地下茎を食べていた、日本のホモ・サピエンスと同じものを食べていた」とは証明されてないので論理の飛躍です。

15分以降は、「でんぷんが加熱でブドウ糖に変化し、味蕾にふれておいしいと感じる」と述べ、ブドウ糖は「命をささえるエネルギー」でかつおいしく食べられるよ、と。
そして加熱されたデンプンの甘みこそが「人類が初めて知る食の喜びだった。いままでは生きるために仕方なく食べていたのが、ここで初めて、おいしい食べ物を知ったのです。」と紹介されるんで、論理がぶっ飛んでいるのでびっくりしました。だって、700万年前から、人類の祖先は甘い果物を食べて「食の喜び」を感じたし、200万年前には肉とデンプンを焼いて食べて、肉のアミノ酸のだし味=うまみで「食の喜び」を感じていたんですから。

②口の中ではブドウ糖はほんの少量しかできない。
それに、もっと重大な間違いがあります。でんぷんは加熱しただけではブドウ糖には変化しません。加熱して口に入れると、α-アミラーゼという酵素が出てデンプンの一部分をマルトース(麦芽糖)という物質に変化してくれ、さらにそのマルトースの一部分が口の中で別の酵素の働きでブドウ糖まで分解されるので、結局、口の中で生じるブドウ糖はごくごく少量なのです。脳に届くブドウ糖のほとんどは、口の中で出来たブドウ糖ではなくて、小腸で消化されてから吸収されたものなんですよ。

読者の皆さんも小学校の時、デンプンを口の中で5~10分間もぐもぐして、じわじわと甘みを感じる実験をした人が多いと思います。普通の食べ方、つまり数回もぐもぐしてすぐに飲み込む食べ方だと、口の中で分解されるでんぷんは、ほんの少し。だから小学校の実験ではじっくり噛んだというわけ。

 ちなみに、小学校の実験ではデンプンを噛んで吐き出してヨウ素デンプン反応実験をして、紫色にならないですね。これを指して先生が「口の中でデンプンが麦芽糖に消化されたからで、皆さんの普段の食事でも、口の中でデンプンが全て麦芽糖に変化してるんですよ。」と言ったなら、その指導は誤りです。

 あの実験は本当のところはですね、口から出してお皿に取って、先生の説明を伺いながら皆でわいわい言いながらポタポタとヨウ素を垂らしてるでしょう?その間に数分間が経過してデンプンが分解されたんです。専門的には、この経過時間をインキュベーションタイムと言います。普通に食事する場合、口の中でデンプンと唾液中のアミラーゼは混ざってすぐ飲み込まれるので、口の中ではほとんど変化がありません。唾液のアミラーゼはデンプンにくっつくと胃酸にも溶けないのでそのまま小腸に運ばれて、小腸でやっとアミラーゼがデンプンを分解してるんです。

繰り返しますよ。実際の生活では長時間ももぐもぐせずに、ちょっとかんですぐ飲み込んでるので、口の中ではデンプンは大部分デンプンのままです。で、よく考えれば分かりますが、古代の人間が、長時間もぐもぐやってたと本気で信じられますか?よほど平和な時期や安全な場所、巫女など特殊な地位でもない限り、長時間もぐもぐやってたら天敵や別の部族に襲われるなど命の危険がありました。長時間もぐもぐやって甘みを感じて「ああ幸せ」なんて言ってる余裕はそう滅多になかったと考えるべきです。

ブドウ糖よりも果物の方が断然甘い。
体温に近い36度で食べた時に、一番甘く感じるのは果物の甘み成分のフルクトース(果糖)、次がショ糖(別名、砂糖またはスクロース。)です。ブドウやリンゴ、ナツメヤシなど多くの果物はフルクトースを大量に含みます。一方、ミカンや柿、桃、オレンジなどはショ糖を大量に含みます。
 では口の中でデンプンをもぐもぐ噛んで数分経ってようやく生じるマルトースの甘みはどれぐらい高いの?というと、実はショ糖のたった3分の1です。さらに、口の中でほんの少量しかできないブドウ糖の甘みはというと、フルクトースのおよそ半分です。そう、果物の方がマルトースよりもブドウ糖よりも遙かに甘いんです!人類の祖先が「食の喜び」を感じたのは、200万年前のデンプン食時代ではなくて、700万年に果物を食べていた時代の方です。

ちょっと科学をかじった人なら誰でも分かるこんな凡ミスを犯すとは、NHKさん、どうしたのでしょう。

(6)ブドウ糖で脳みそがでかくなったは、単なる統計グラフの扱いの間違い

①対数グラフを使わない凡ミス。

番組17分目では「加熱されたでんぷんは、おいしさだけではない」と言って、「ブドウ糖を食べて食の喜びを得た結果、肝臓と脳にブドウ糖が運ばれてる映像」が映し出されます。18分目からは、「ブドウ糖が脳に運ばれたから神経細胞が増殖して、脳が大きくなった」といいます。すごいなあ、これが事実ならバナナなど果物を食べてた猿の方が先に進化してないとおかしいよね。なぜなら果物のフルクトースやショ糖は体内で吸収されるとすぐにブドウ糖になり、脳みそに運ばれるんですから。果物もブドウ糖の重要な原料だということは、義務教育で習った人多いと思うなあ。

19分目、「200万年前から急速に脳が大きくなった」とグラフで紹介。でんぷんをブドウ糖にして食べたおかげで「仲間の結束を高め」「神経細胞が増殖を始めたと考えられます。ホモエレクトスは初期人類の二倍以上の脳を持つようになりました。デンプンを食べたことが脳の決定的進化をもたらしたのです」とまで断言した。そして、脳が大きくなったから動物を狩りできたとアニメで説明しました。これらの説明も、科学者ならやっちゃいけない説明が並んでるので、順を追って問題点を指摘しますよ。

まず、人類の進化で200万年前に突然急ピッチで脳が大きくなりました、という説明そのものが、グラフの不適切な用い方なんです。なぜかというと脳の容量は3次元なので、ほんの1センチ頭蓋骨の横軸が伸びるだけで脳みそは3乗で飛躍的に増えるの。例えばね、立方体入れ物の縦横高さが2倍になったら、容積は2倍じゃなくて8倍でしょ?3次元では右上がりの急カーブグラフになるのです。

だから「人類の進化で脳が大きくなりましたよ」って説明をするときには、対数グラフを使わなければなりませんし、対数グラフを見れば人類の脳みそは200万年前に急激に増えたんじゃなくて直線で増えているの。だから、「200万年前に突然脳みそがでかくなった」説は科学者に話したら「なに変なこといってんの?」でおしまい。最初にお話したアリゾナ大の論文ももちろん対数グラフです。

②200万年前に食べてたのは米じゃない。
ちなみに、100歩譲って200万年前にデンプンで脳が大きくなった説が事実なら、それはお米じゃなくて松の実やどんぐり等のおかげだと推測されるから、「お米なんか食べないで松の実やドングリを食べたら脳が大きくなるよ」って番組になっちゃいます。

③ブドウ糖を大量にとっている他の動物はどうなの?

20分目からは糖尿病の第一人者の伊藤裕先生が出演されるのですが、人類学や進化の専門家じゃないんですね。伊藤先生は、「従来の説では肉を食べたから脳が大きくなったというが、それよりはむしろでんぷんを調理したことが脳が大きくなった原因ではないか、脳にはブドウ糖がないことは困るから。」とお話されました。でも、それを言えば「果物を食べていた700万年前の人間の脳はなぜそのときに大きくならなかったのか。果物を主食としている他の生物も脳が大きくならないのはなぜか。大量の穀物を食べるネズミや雀も体内ででんぷんをブドウ糖にして吸収しているはずだがどうなのか。」と、番組は矛盾だらけです。

(7)デンプンで賢くなった説を唱えたら最後、「だからデンプンはそれほど重要では無い」と結論づけられてしまう!

私たち人類を生み出した最も重要な「脳の変化」は何かと問われると、多くの専門家は「火を扱う技術」と答えます。火を扱えなかった時代は、たまに落雷などの自然火災で焼けた肉や木の実を拾って食べる程度でしたが、脳の発達で手先が器用になり、しかも将来を見通し、因果関係を考え、時間経過を理解する能力が生じたから、火を扱う技術を身につけたのです。こうした様々な能力が身についたから、肉や魚やデンプンなどを黒焦げにならずちょうど良い加減に焼いて食べられるようになったのです。デンプンを焼いて食べたおかげで賢くなった説がもしも事実なら、当然ながら「火を使ってデンプンを焼けるほどの器用な指の動きや時間などの概念をもたらした脳の成長は、デンプン以外の何かがもたらした」となるので、「従ってデンプンはそれほど重要ではない」と結論づけられます。

まだまだこの番組には問題点がたくさんあります。大好きなNHKさんだからこそ、次回こそは国際的に誇れる番組を作って欲しいです。そして、本当に良質なお米の番組を期待しています。


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