お食事中の方は食事を終えてから読んでください。今回は、動物性乳酸菌と信じられていた乳酸菌が実は植物由来であり、逆に、一部サイトで「漬け物由来の植物性乳酸菌」とされている菌が実は動物性・・・しかも人間などのウ〇コ由来だった、というお話です。
要するに、世に言う「植物性乳酸菌だから身体に良い。」という式のお話がいかにメタメタなのかをご紹介する内容です。
まず、最初にご紹介するのは、ヨーグルトの乳酸菌は国際規格では全て植物由来だという事実です。言い換えると、世界の常識としてはヨーグルトは植物由来なのです。日本ではヨーグルトとは乳などを乳酸菌または酵母で発酵させたものの総称ですが、FAO/WHOによるヨーグルトの国際規格(Standard No.A-11a,step7,1977)によるとLactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus と Streptococcus thermophilus の作用により、乳および乳製品を乳酸発酵して得た製品と定められています。ちなみに原料乳などについても詳しい定義がありますが、ここでは省略します(出典「醸造・発酵食品の事典」p549、2002年、朝倉書店)。
つまり、上記の2種類の菌でなければヨーグルトでないというのが国際規格なのですが、この2種類の菌、日本では動物性と呼ばれているのですが、実は植物由来なのです。
2007年にMichaylova,M.先生他が発表した論文「Isolation and characterization of Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus and Streptococcus thermophilus from plants in Bulgaria. 」によると、ブルガリアでは伝統的に、温めたミルクの中に特定の植物の小枝を入れてヨーグルトのスターター(ヨーグルトの素。)を作っていたのだそうです。そこで先生らが、ブルガリアの各地で様々な植物を採取し、表面についている乳酸菌を調べたところ、様々な植物から上記2種類の乳酸菌が見つかったのです。特に発見される確率が高かったのがセイヨウサンシュユという植物でしたが、他にも、スピノサスモモ、スノードロップ、キンセンカなど多様な植物からこれらの菌が見つかりました。つまり、現在世界中で商業的に使用されているこれらの菌は、実は植物起源と考えられるのです。
さて、2つ目は、漬け物由来の植物性乳酸菌と信じられていたのが動物性食品などにも広く存在する菌だった、という話をしましょう。
農研機構という研究所の食品総合研究所(現在は食品研究部門という名称に改名されています。)の「研究ニュースNo.35」p8~10 に興味深い研究成果が掲載されています。同研究所の齋藤勝一先生は、Lactobacillus brevis という乳酸菌が、キシランという植物成分(植物細胞壁の成分。)に付着することを発見しました。この菌、日本国内では「ラブレ菌」の俗称で知られています。K社のラブレ菌はある漬け物から取り出されたもので、他にもスンキ、ザワークラウト、キムチなどからも見つかることから、日本では一般には「植物性乳酸菌」と呼ばれています。
ところが、専門書によると、このラブレ菌ことLactobacillus brevis は「広く自然界に分布」し(出典:「「醸造・発酵食品の事典」p38、2002年、朝倉書店)、しかも少し古くなったかまぼこの表面がネバネバすること(業界用語でネトと呼びます。)がありますが、このネトの原因菌の一つでもあります(出典:「食品微生物学」技報堂 1972 p57)。さらに、アサマ化成株式会社の「アサマNEWSパートナー 2013-7No.155」記事によると、包装食品が膨張する場合に乳酸菌が原因であることも多く、Lactobacillus brevis などが主原因なのだそうです。つまりラブレ菌はかなり色々な所に居て、動物性食品からも自然に見つかるのです。こういう菌を植物性と呼ぶのはどうかと思われます。
話を齋藤先生のキシラン研究に戻すと、ラブレ菌は静電作用で付着するので、キシラン以外にも、胃腸管粘膜成分のムチンなど様々な物質に凝集するとのこと。つまり、動物(人間を含む)の体表やウ〇チ(昭和30年代までは肥やしとして野菜の上に直接かけていましたから。)などを介して、ラブレ菌は植物と動物の間を行ったり来たりのピンポン状態を起こしていた可能性があるのです。
次に「可能性がある」レベルではなくて、人間のウ〇チ由来であることがはっきり専門書に記載されているものの、一部のサイトで「植物性乳酸菌」とされている例を挙げましょう。
Streptococcus faecalis (旧名称。現在の名称はEnterococcus faecalis で、日本では通称フェカリス菌と呼ばれている。) は「食品微生物学」(先出。)p173によると、米麹、味噌麹に多く含まれる乳酸菌であり、同書p187とp202によると漬け物にも多く含まれています。ところがこの乳酸菌、同著p41~42によると、「本来は人間由来のものが多く」と記載されており、どういうことかというと、フェカリス菌は元々、人間の腸管で繁殖する常在菌の一種であり、それがウ〇チとして排出され、肥やしなどの様々なルートで植物や漬け物や味噌などに入っていったのです。
昭和20年代まではトイレを出て手を洗う習慣のない地域も多かったので、こうして様々なルートで、人間の腸管菌が漬け物や味噌に入って言ったと考えるべきでしょう。一部のメーカーでは残念なことですが、こうしたことを知らずでか、「当社で使用しているフェカリス菌は、漬け物から分離された菌で人間の腸にも生きたまま届く強い菌です。」というような意味の宣伝をしていますが、もともと人間の腸の中に居た菌が漬け物に混じったというのが実態ですから、話の順序はまるで逆なのです。まあ、由来はどうであれ、一般論としては、おなかに良い乳酸菌はいい乳酸菌なのでしょう。
・・・さて、今まで見てきたように、乳酸菌はそれぞれ別の種(しゅ)であり、種や株によって性質も全く異なるものですし、植物性とか動物性とかいう分類も曖昧であることが分かりました。植物性が良くて動物性が悪いという話がいかにいい加減か、ご理解いただけたかと思います。
最後に、岡田早苗先生の論文「植物性乳酸菌世界とその秘める可能性」(2002)から引用したいと思います。「「植物性乳酸菌」という語は「植物」と「乳酸菌」からなっており、両方とも人々には「健康的な」というイメージがある。従って、新規な食品開発に植物性乳酸菌が活用される機会が増えると考えられる。」
14年前に書かれた、この一見何気ない文章に込められた深い思いを、じっくりとかみしめるこの頃です。
要するに、世に言う「植物性乳酸菌だから身体に良い。」という式のお話がいかにメタメタなのかをご紹介する内容です。
まず、最初にご紹介するのは、ヨーグルトの乳酸菌は国際規格では全て植物由来だという事実です。言い換えると、世界の常識としてはヨーグルトは植物由来なのです。日本ではヨーグルトとは乳などを乳酸菌または酵母で発酵させたものの総称ですが、FAO/WHOによるヨーグルトの国際規格(Standard No.A-11a,step7,1977)によるとLactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus と Streptococcus thermophilus の作用により、乳および乳製品を乳酸発酵して得た製品と定められています。ちなみに原料乳などについても詳しい定義がありますが、ここでは省略します(出典「醸造・発酵食品の事典」p549、2002年、朝倉書店)。
つまり、上記の2種類の菌でなければヨーグルトでないというのが国際規格なのですが、この2種類の菌、日本では動物性と呼ばれているのですが、実は植物由来なのです。
2007年にMichaylova,M.先生他が発表した論文「Isolation and characterization of Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus and Streptococcus thermophilus from plants in Bulgaria. 」によると、ブルガリアでは伝統的に、温めたミルクの中に特定の植物の小枝を入れてヨーグルトのスターター(ヨーグルトの素。)を作っていたのだそうです。そこで先生らが、ブルガリアの各地で様々な植物を採取し、表面についている乳酸菌を調べたところ、様々な植物から上記2種類の乳酸菌が見つかったのです。特に発見される確率が高かったのがセイヨウサンシュユという植物でしたが、他にも、スピノサスモモ、スノードロップ、キンセンカなど多様な植物からこれらの菌が見つかりました。つまり、現在世界中で商業的に使用されているこれらの菌は、実は植物起源と考えられるのです。
さて、2つ目は、漬け物由来の植物性乳酸菌と信じられていたのが動物性食品などにも広く存在する菌だった、という話をしましょう。
農研機構という研究所の食品総合研究所(現在は食品研究部門という名称に改名されています。)の「研究ニュースNo.35」p8~10 に興味深い研究成果が掲載されています。同研究所の齋藤勝一先生は、Lactobacillus brevis という乳酸菌が、キシランという植物成分(植物細胞壁の成分。)に付着することを発見しました。この菌、日本国内では「ラブレ菌」の俗称で知られています。K社のラブレ菌はある漬け物から取り出されたもので、他にもスンキ、ザワークラウト、キムチなどからも見つかることから、日本では一般には「植物性乳酸菌」と呼ばれています。
ところが、専門書によると、このラブレ菌ことLactobacillus brevis は「広く自然界に分布」し(出典:「「醸造・発酵食品の事典」p38、2002年、朝倉書店)、しかも少し古くなったかまぼこの表面がネバネバすること(業界用語でネトと呼びます。)がありますが、このネトの原因菌の一つでもあります(出典:「食品微生物学」技報堂 1972 p57)。さらに、アサマ化成株式会社の「アサマNEWSパートナー 2013-7No.155」記事によると、包装食品が膨張する場合に乳酸菌が原因であることも多く、Lactobacillus brevis などが主原因なのだそうです。つまりラブレ菌はかなり色々な所に居て、動物性食品からも自然に見つかるのです。こういう菌を植物性と呼ぶのはどうかと思われます。
話を齋藤先生のキシラン研究に戻すと、ラブレ菌は静電作用で付着するので、キシラン以外にも、胃腸管粘膜成分のムチンなど様々な物質に凝集するとのこと。つまり、動物(人間を含む)の体表やウ〇チ(昭和30年代までは肥やしとして野菜の上に直接かけていましたから。)などを介して、ラブレ菌は植物と動物の間を行ったり来たりのピンポン状態を起こしていた可能性があるのです。
次に「可能性がある」レベルではなくて、人間のウ〇チ由来であることがはっきり専門書に記載されているものの、一部のサイトで「植物性乳酸菌」とされている例を挙げましょう。
Streptococcus faecalis (旧名称。現在の名称はEnterococcus faecalis で、日本では通称フェカリス菌と呼ばれている。) は「食品微生物学」(先出。)p173によると、米麹、味噌麹に多く含まれる乳酸菌であり、同書p187とp202によると漬け物にも多く含まれています。ところがこの乳酸菌、同著p41~42によると、「本来は人間由来のものが多く」と記載されており、どういうことかというと、フェカリス菌は元々、人間の腸管で繁殖する常在菌の一種であり、それがウ〇チとして排出され、肥やしなどの様々なルートで植物や漬け物や味噌などに入っていったのです。
昭和20年代まではトイレを出て手を洗う習慣のない地域も多かったので、こうして様々なルートで、人間の腸管菌が漬け物や味噌に入って言ったと考えるべきでしょう。一部のメーカーでは残念なことですが、こうしたことを知らずでか、「当社で使用しているフェカリス菌は、漬け物から分離された菌で人間の腸にも生きたまま届く強い菌です。」というような意味の宣伝をしていますが、もともと人間の腸の中に居た菌が漬け物に混じったというのが実態ですから、話の順序はまるで逆なのです。まあ、由来はどうであれ、一般論としては、おなかに良い乳酸菌はいい乳酸菌なのでしょう。
・・・さて、今まで見てきたように、乳酸菌はそれぞれ別の種(しゅ)であり、種や株によって性質も全く異なるものですし、植物性とか動物性とかいう分類も曖昧であることが分かりました。植物性が良くて動物性が悪いという話がいかにいい加減か、ご理解いただけたかと思います。
最後に、岡田早苗先生の論文「植物性乳酸菌世界とその秘める可能性」(2002)から引用したいと思います。「「植物性乳酸菌」という語は「植物」と「乳酸菌」からなっており、両方とも人々には「健康的な」というイメージがある。従って、新規な食品開発に植物性乳酸菌が活用される機会が増えると考えられる。」
14年前に書かれた、この一見何気ない文章に込められた深い思いを、じっくりとかみしめるこの頃です。