身を入るること㉚・・・水運問答
雲 天下国家を治める人が、思い切って問題の渦中に身を投ずるということをいた
しませぬから、よいこともできません。その原因は、失敗したら責任をとらされ
のがかなわない、と初めから責任逃れを考えるから、本当に身を射ち͡こむことが
できないのであります。
仕事をしようと思えば、その仕事に深く身をいれて、成功・不成功は自分の見
識で断定すべきだと思います。あっちこっちに気を遣うことをえめて、忽然とし
て事に当れば、大事は容易になすことができましよう。兵法に死地に入るという
言葉がありますが、これは兵法ばかりでなく、天下国家を治める道にも用いたら
よいと思います。何事も中途半端にすることはよくありません。
水 これは英雄偉丈夫にできることで、普通の人にはできないことであります。何
事もお説のように身をいれて事になせば、成功しないことはありません。古人の
したことを今から見ますと、よくこんなことをしたなあと感心することがありま
す。ところが今の人はたやすくできそうなことも成し得ず、かりにやっても失敗
ばかりしております。これは皆身をいれてやるか、逃げて足でやるかの相違であ
ることはお説の通りです。まして見識をもってこれを断定するということになり
ますと、生まれつき持っている能力と、学問によって得た力の二つに分けること
ができますが、生まれつき持っている能力に頼ることなく、学問をして厚くし、
そして大事をなす基礎づくりをしたいものだと思います。