水雲問答➁活物
雲 天地は活物、人事も活物であります。ところが昔から学者とか思想家とかいう人は
生命を抜いてしまって、機械的に考えがちであります。よくいう人間不在もその一つ
であります。そのために活きた人生、社会現象に往々にしてあてはまらない。たとえ
ば経済学をやっても概念的・理論的、いわば機械的でありますから、変化の限り無い
生きた経済現象にぴったりとこないのであります。しかし活き物として捉えることは
きわめて大事な問題でありまして、それだけに大変難しいことであります。そのため
には多くの体験と、深い思案が必要であります。ちよっと字引を引いて調べたとか、
書物を参考にして理解したというようなことでは問題になりません。体験と叡智がな
ければなりません。これが活物たる所以であります。
世人はとかくそのせっかくの活き物を殺してしてしまって、すなわち機械的・物質
的に観察するものですからうまく成功しません。活き物の世界というものは絶えず変
化してやまないものですから、いかに変化するか、またこれにどう対処していくかと
いう手段がなくてはなりません。
水 ご尤もでございます。飲食しない者はありませぬが、しかし本当に飲食の味を知っ
ている者は少ないと言われますが、これはやはり人生の体験を積み、学問をすると初
めてわかるものであります。いくらわかったつもりでありましても、無学あるいは無
神経の時の理解というものはまことに浅薄であります。
これらのことは物事のよくわかった人と議論するとよろしいが、相手を選ばずにた
だ誰ともでもしてよいというものではありません。余り軽々しく使いますと、こうい
う興味津々たる言葉も次第にその本当の意味がわからなくなってしまいます。したが
って大変よい御意見ではありますが、めったな者に通用しません、また通用させられ
ません。