でも賠償金は1元 単なる中国メーカーの売名では?
コンドームメーカーを揺るがす事態が中国で起きた。日本最大手オカモトが「世界で最も薄い」とした広告をめぐり、中国メーカーが当社品が最薄で広告は虚偽だと訴えた裁判で、オカモトが敗れた。さらに驚くのは賠償額で、何とたったの1元(17円)。実はオカモト、提訴時は最薄を外しており中国側の損害は軽微だったもよう。訴えは日本製人気に乗じた「売名行為」の可能性が濃厚だ。ただオカモトは控訴せず1元をお支払い。「草食男子」が増え日本市場が縮む中、需要が旺盛な中国は重要市場で、“いちゃもん”を払いのけて拡販に力を注ぐ。
最薄めぐり、裁判はヒートアップ
オカモトは2003年11月に厚さ0.038ミリのコンドーム「003(ゼロゼロスリー)」を発売。この商品は約10年後の12年1月に、「最も薄いラテックス(ゴム)製コンドーム」として、ギネス世界記録を打ち立てた。
しかし13年12月、中国・広州の「広州大明聯合ゴム製品」(大明)が、0.036ミリのコンドームを商品化し、14年2月にギネス記録を更新。このため大明は同年9月、「最薄の宣伝は虚偽だ」などとして、オカモト製品の販売停止と損害賠償を求めて提訴した。
オカモトによると、製品に「最薄」と表記していたのは、自社の記録がギネス認定されてから半年から1年程度だという。また、ギネス認定と発売10周年を記念したキャンペーンを13年10月に始めたが、14年3月には終了した。
裁判でオカモトは猛反論を展開し「自分たちの記録が破られたとの情報を得ていながら、知らぬふりを続けていたという証拠はあるのか」などと大明側に迫った。また第三者によるテストで「大明のコンドームは0.036ミリより厚い」とする結果が出たことも提示する力の入れようだった。
両者とも一歩も譲らず、裁判はヒートアップする一方だった。
賠償金1元、高まる「売名行為」批判
そして16年2月、注目の判決は下された。ふたを開けてみれば、中国の裁判所が軍配を上げたのは大明側。必死の主張もむなしく、オカモトの広告は「不正競争」に当たると認定された。
だが、それより驚かされるのは、大明が請求していた賠償金の安さだ。その額はたったの1元。大明は裁判を起こすことで何を狙ったのか。
オカモトは提訴時、すでに最薄の表示を外していた。しかし、ある業界関係者は、「中国で残っていた流通在庫を大明が発見したのだろう」とみる。
とはいえ当時、最薄の表示があった商品は市場にはほとんど流通していなかった可能性が高く、大明が受けたとする損害はきわめて軽微だったとみられる。「賠償金1元」は、その表れとみることもできる。
大明にとって、オカモト製品の最薄表示が不正競争にあたるかどうかは、さほど問題ではなかったようだ。「質が高いことから人気がある日本製を代表するオカモトの商品に勝った、とアピールする狙いがあった」(同関係者)と考えられる。
業界では大明が提訴に乗り出したことに対し、「話題作りではないか」「もはや売名行為だ」と批判する声も上がり始めている。
「草食化」で縮む日本市場、活路は中国に
裁判で熱くなったオカモトも、今では落ち着きを取り戻しているようだ。「商品は中国国内で高い評価を受けており、売り上げも落ちていない。これ以上争う必要はない」として控訴はせず、大明に対して1元を支払った。
そもそも、オカモトや相模ゴム工業といった日本勢は技術力で大きく上を行く。すでに大明がギネス記録を持つ「ラテックス製」ではなく、「ポリウレタン製」で0.01ミリ台の商品を発売。訪日中国人の「爆買いリスト」では、常に上位にランクインしている。
一方で、中国製コンドームの質が高いとは言い難い。13年には、ガーナでエイズウイルス(HIV)感染対策の避妊具として市民に配布された中国製に破れやすいなどの欠陥が見つかり、計1億1000万個以上を回収する騒ぎもあった。
品質では問題のない日本勢だが、悩みの種は縮小する日本市場だ。少子高齢化が進んでいる上、女性に奥手な「草食男子」が増え、コンドームの需要は伸び悩んでいる。一方、日本製の質の高さに加え、あこがれもあって、中国では今後も需要拡大が見込まれる。
オカモトにとっても、裁判にかかずらっているより、ドル箱である中国市場への浸透を少しでも進める方が得策との判断が働いたようだ。(中村智●(=隆の生の上に一))