Four Season Colors

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読書のよもやま(2024.07.22)

2024-07-22 | 雑文
「死の貝 日本住血吸虫症との闘い」小林照
幸(新潮文庫)

新刊ホイホイにひっかかるように、あまり迷
わず、どちらかというと直感に従って購入し
た一冊。

日本では古くから特定の地域で見られ「水腫
脹満」とも呼ばれた、お腹が大きく膨れ、成
長障害も引き起こす寄生虫による感染症。

症状緩和の対処療法しかなかった頃から、医
学の発展とともに、原因寄生虫の特定がなさ
れた1900年初頭。

そこから、中間宿主の特定から治療薬の開発、
中間宿主の駆除と、日本住血吸虫症との闘い
が丁寧に綴られる。

安全宣言後であったとはいえ、流行地のある
県に数年ではあるが生活をしていたが、この
病名を目にすることはなかった。

いや、していたかもしれないが、意識された
こと、記憶に残ることはなかった。

しかし、読み進めれば読み進めるほど、それ
は知ることの怠惰であったのだろうと思い知
らされる。

人間に意識される、という意味での発見から
百年の後、絶滅危惧種となった「死の貝」。

様々な要因はあるだろうが、日本は、この住
血吸虫症を克服した稀なる国らしい。

生きるための利益の追求の全てを否定はしな
いが、そこに多分に美化も含まれようが、こ
こには、間違いなく無私がある。

それを無条件に尊いとは言わないが、生物と
して、日本という国の人間として、それは本
質でもあるように思う。

忘れられていく「死の貝」は、恐らく他にも
少なくなく、こうして知ることができたのは、
とても幸運なことで。

それも、こうして良質なノンフィクションと
して記録をしてくれる作家さんたちのおかげ
である。

また、書籍として、多少の不謹慎さも併せて、
医療系のノンフィクションは、冒険系ノンフ
ィクションに劣らずスリリングだ。