トゥーリーの霧は、2011年1月17日に撮影された衛星画像でカリフォルニアのセントラルバレー(中部盆地=平原)を埋めている。画像クレジット:ジェシー・アレンによるNASA地球観測所
25日の大雨は、一週間前ほどからテレビの気象予報士たちがそれぞれ口にし、警戒するようにと注意を喚起していた。カリフォルニア州、特に北部から中部にかけての予報では、平原地で降雨量2インチ、シェラネヴァダ山脈の高地で18インチの積雪と言われていて、ここ数年のひどく多数あった山火事の後で地滑り、土砂崩れ、急激な洪水は山間部で警戒するようにと注意報が出されていた。チコやサクラメント周辺では前日24日の午後遅くから雨が降り出し、それまで212日間の連続日照りをたった1日で5インチ以上の雨量で破った。雨だけではなく強風も吹き、大木が所構わず倒れ、住宅や車両に被害があった。わたしの住むエリアの北部では、午後竜巻発生も見られたようだったが、ここらでは大した被害もなく済んだ。
それでも、この大量の雨で大気はいっぺんに清浄され、午後晴れてきた空の向こうのハイ・シェラと呼ばれる山脈の尾根は、息を呑むほどの美しさで白いキャップをかぶっていた。ここ中部都市の西から東へのフリーウェイを運転しての帰宅途中、前方のそうした山脈の全容が見渡され、思わず歓声をあげてしまった。このハイ・シェラと呼ばれる部分には、スキー場がある。運転中のため、撮影できなかったので、地方紙からその画像をお借りする。
冠雪のハイ・シェラ:地方紙から。
ところが、現実は厳しく、これで長い旱(ひでり)に終止符が打たれるわけではなく、まだまだ貯水池やダム湖や河川が豊富な水を湛えるには本格的な雨季がこなければならない。わたしたち家族が中部に越してきた24年前は、ほぼ毎年今頃から初春にかけては雨が降り続き、雨後には必ずTule Fogトゥーリーフォグと呼ばれるカリフォルニアのセントラルバレーのサンワキンバレーとサクラメントバレーエリアに定着する濃霧が発生し始める。トゥーリーの濃い霧は、最初の大雨の後、晩秋から初春(カリフォルニアの雨季)にかけて形成され、公式の時間枠は11月1日から3月31日までである。
トゥーリーの霧: ABC局のファイルから。
この現象はセントラルバレーのトゥーリー草湿地(tulares)にちなんで名付けられた。 そしてこの霧は、カリフォルニアの気象関連事故の主な原因でもある。ところがその有名な霧はここ10年ほど、見ることがなく、また発生しても年一回くらいであろうか。霧は非常に深く、1メートル先も見えない状態でさえあり、運転は特に気をつけねばならないが、それが発生し始めると、地面に落下していた果樹園の桃が一斉に腐り始め、ミントのような特殊な香りを放ち、冷たく湿った大気中で鼻を掠める時、ああ、今年ももうすぐ感謝祭だ、クリスマスだ、と思うものである。
ところがその濃霧はめっきり少なくなり、雨季自体も消えてしまった。この濃霧や雨季は、アメリカの食堂といわれる農業王国であるカリフォルニア州の特に中部にとってはたいへんな存亡の危機である。住宅開発が進みに進み、農地がなくなり、人工増加によって交通量が増え、排気ガスが蔓延し、そうしたことが影響しているのは素人のわたしでもわかる。ここはストーン・フルーツと言われる桃、杏、ネクタリン、チェリーの産地なのに、果樹園は昨今の旱魃と相まって、果樹を伐採し、農地を新興住宅地へと変えてしまっている。雨も降らず、果樹園をはじめとする農地が失われ、宅地が増え、ますます干上がる大地である。そんなカリフォルニアを憂うのは、まるで人々の日々の挨拶のように感じさえする。
今年も雨季のはずの時節になり、オフィスでは再びパンプキン・デコレイション・コンテストを催している。今年のテーマはディズニー映画作品。非常に手の込んだ作品ばかりで、なんとわたしの同僚は才能があるのだろうと感心しきり。
わたしのお気に入りは、ニモ。右端のチキン・リトルも捨てがたい。
オフィスで同僚たちとこうした季節の催しに笑い、楽しむことで、気を楽にしつつ、実際は一人一人は、雨乞いのダンスがあるなら、参加したい、いや、自分たちで催そうか、などと考えている。25日のほんの束の間の雨は、ここでは、1インチちょっとで、それでも1927年の1日の降雨量記録を破ったのだと言う。そしてハロウィーン前に山に降雪があったなんて、幸先が良いと捉えて、この冬こそ、本格的な雨季がやってきて、再びポタージュスープのような深い霧が発生しますように、と孫の一人と願うわたしである。ほら、この子もレイン・ブーツをしっかり履いて待っている。