Pintrestから。
アイルランドの国花シャムロック
ごく親しい人々で作っているブッククラブ(読書クラブ)に属している長女が、日曜の午餐の支度をしている私に、こんなことを言った。「今クラブで***という本を読んでいるんだけれど、アイルランドでは昔から、とても縁起を担ぎ、迷信を疑わず、未だLeprechaunレプリコーンを始めとする、様々な妖精を信じているのね。」
私は火にかけたお鍋のポテトが吹きこぼれないように、注意深く蓋を少し開け、中火にしながら、「バンシーとか、ヨーロッパによくあるChangelings(チェンジリングス=取り替え子)とかも?」と私は聞いた。
「そうなの。信じている妖精は、数多よ。迷信とか、縁起担ぎもたくさんあるし。そういえば、あのトレントが不慮の事故で亡くなった時、お母さんは、その不幸の電話を受ける寸前に一羽のカササギを見かけたので、『ああ、やっぱり!』と言ったわよね?そして南加の家のガラージでお祖母ちゃんからの古い鏡台の大きな鏡にヒビを入れちゃった時も、『まあ、どうしましょう、七年の不運が始まっちゃうわ!』と言ったわよね?そういうのは、みなアイルランドで言われていることなのよ。知ってた?おかあさんは日本からの人なのに、何故そう言ったの?」と尋ねる長女。
「あら?何故そんなこと、口走ったのかしらね?多分J.B.イェイツの影響かも。あ、待って。カササギの件については、野鳥の図鑑で知ったんじゃないかしら。」と私。つまり乱読からのどうでもいい知恵に過ぎない。
3月17日はセント・パトリックの日である。アイルランドよりも、むしろニューヨークやシカゴでのパレードに始まるイベントは、例年大変盛んで、シカゴでは市中に流れる河を緑に染めてしまうほどだ。この日は、セント・パトリックの日だからと、アルコール飲料は飛ぶように売れ、大小のパーティが多く開かれる。武漢ウイルスの蔓延する世界中を背景に今年はキャンセルが多く、とても例年のような騒ぎにはならない。各州の知事は州民に、飲みたければ、自宅でひっそり飲みなさい、と勧告しているし、肝心のバーやパブは閉店を余儀なくされている。
19世紀のポテト飢饉で、大勢のアイルランド人はアメリカへ移住し、今では本国よりもその人口は合衆国に多いと言われる。どちらかというと東海岸や中西部に移住した人々は昔からの故国のしきたりや祝い事や習慣やらをその文化と共に踏襲し続けているようだ。合衆国太平洋北西部もアイルランドの気候に似たような点もあり、アイルランド人は移り住んできた。
当初太平洋北西部は、安価な土地があり、幅広い経済的機会(林業、漁業、農業)があり、故国では移民となる人々には到底入り込めない出来上がったエリート層が、そこでは刻々と変化する社会的秩序と共に新しく作り出され、そこに名を連ねるアイルランド移民の数は決して少なくはなかった。アイルランド移民たちは、農業だけにとどまらず、銀行家、起業家、商人、出版社、市民指導者、慈善家、政治家、鉱山所有者などに成功を見出し、ワシントン州では一部のアイルランド人は非常に裕福な人々となった。まさにアメリカンドリームの実現であった。
マサチューセッツ州やニューヨーク州のアイルランド移民とその子孫についてはよく知られているが、カリフォルニア州、特にロサンジェルスには、星を瞳に輝かせてハリウッドを目指した者が多かった。ジョン・ウエイン、ジェイムス・キャグ二―、グレース・ケリー、などなど数多い。ロナルド・レーガン大統領もアイルランドにルーツがある。そして最初のアイリッシュ・アメリカンとして合衆国大統領になったのは、ジョン・F・ケネディである。映画も、L.A.コンフィデンシャルのように、アイリッシュ・アメリカンの主要人物が話を進めていく作品だ。
つまりアイルランド移民の末裔は、多くが政界に芸能に学問や医学あるいは科学などあらゆる面のアメリカ社会で要として存在している。もしあのポテト飢饉で大洋を渡る決断を先祖がしなければ、こうしたことは只の夢だったろうと思える。その決断が末裔の運命を定めたと言える。
そうした人々が故国から大事に持ってきた習慣、しきたり、料理、さらに縁起担ぎや迷信まで、アメリカ社会には広く浸透している。おそらく故国アイルランドとは、カトリック教会へ毎週日曜日礼拝しに行くか否かほどの差で、迷信などは残されているのだろう。その中のいくつかをご紹介しよう。
Leprechaunレプリコーン
グリム童話の「小人の靴屋」に登場する靴屋がレプリコーンと言う説もあるが、J. B. イェイツによれば、ケルト語で、片足靴屋を意味する。垣根に座って靴を修繕する姿が見られる悪霊の子供で堕落した妖精とも言われるが、緑色の服を着ているこの妖精は地中に埋もれている宝のありかを知っているとされ、その宝は虹の始まる所か終わる所にあると言う。だから決して私たちはその宝物(金)には行きつけないわけである。何百年前からの言い伝えではあるが、近代では1938年に、リムリック郡のジョン・キーリー少年がその郡の西でレプリコーンに出会ったと言う。
ラッキーチャームというアメリカのシリアルのマスコット、ラッキー。
Bansheeバンシー
アイルランドだけではなく、同じケルト民族のスコットランドにおいても、伝わる女性の妖精で、人の死を叫び声で予告すると言われる。アイルランドやスコットランドの旧家には、その家固有のバンシーがいて、故郷を遠く離れて暮らしている者にも、故郷にいる一族の死を伝えるという。1900年3月、コーク郡に住む女性がベッドを整えていた時、バンシーの叫び声を聞いたと言う。下のイラストを見ると、某国の17歳少女活動家に何やら似ている。
Changelingチェンジリング=取り替え子
ヨーロッパの伝承で、人間の子どもがひそかに連れ去られたとき、その子のかわりに置き去りにされる妖精、エルフ、トロールなどの子のことを指す。時には連れ去られた子どものことも指す。またストック(stock)あるいはフェッチ(fetch=そっくりさん」)とも呼ばれる。人間の子供を召使いにしたい、人間の子を可愛がりたいという望み、また悪意であるとされた。(ウィキペディアより。)
myndandmist.wordpress.co
Dullahanデユラハン=首なし騎士
アメリカの誇る作家Washington Irving(ワシントン・アーヴィング)のSleepy Hallowスリーピー・ホロウの伝説を思い浮かべた方は、英米文学に通じ、はたまたディズニー映画「イカボッド・クレイン」を思い浮かべた方はアメリカ通でいらっしゃる。幼い頃イカボッド・クレインが対峙した首なし騎士の場面を指を開いた両手を目にかざしつつ、観たものだった。不思議な話で、怖い者見たさに駆られていた私。ワシントン・アーヴィングは、西欧を旅した時にデュラハンについて知り、それを題材にして傑作スリーピー・ホロウの伝説を書いた。
©Wakt Disney
Magpieマグパイ(カササギ、カチガラス、コウライガラス)
カササギを一羽だけ見ると、見た者に災いをもたらすいう迷信だが、アイルランドでは厄介な悪賢い(と言われる)カラスは数羽が集団で悪さをして農民に敵対する一方、 単独行動のカササギは、集団で悪さをするわけではないが、その分、見かけた者には、このカラスに似た鳥が何をしでかすのかと恐怖心を与えるのだと言う。カササギの民間伝承のアイルランド語版と英語版にはいくつかの違いがあるが、一般的な信念は、カササギに敬意を表して敬礼することが悲しみなどの災いを食い止められると言う。逆に二羽のカササギを目にすることは喜びをもたらすと言われる。 私は18年前長女の大学への引っ越しの手伝いで夫とその州に行った時、荷物を取り出して部屋に収めてから外へ出ると、そこに一羽の美しいカササギを見たのだった。その直後に夫の携帯電話に長男の友人の訃報が入ったので、とても驚いたのだ。
カササギにとっては別に悪いことをしている鳥ではないから、いい迷惑だろうと思うが、実際のカササギは、鳥類としては大きな脳を持ち、鳥類でただカササギだけが、ミラーテストに合格した。鏡を見てその姿を自身と認識できる鳥である。
鏡と言えば、南加の家のガラージでヒビを入れてしまった鏡。その後7年間ついていないことが続いていたのは事実である。姉のひとりが癌で亡くなり、空き巣盗難に遭い、一台の車ごと持って行かれたし、とにかく大小さまざまな災難が立て続けに起こった。7年目にこちら中部カリフォルニアへ夫は転勤し、一家で引っ越してきた頃から、やっとそうした災いが収まったのだった。迷信とは言え、実際に経験ができると、果たして迷信と笑い飛ばせるのやら。試しの世だから、たくさん試されていたのだろう。
それではどちら様もアイリッシュであろうがなかろうが、カトリックであろうがなかろうが、Happy St. Patrick's Day!
クリーブランドはゴーストタウンでしたよ。
働いていた時、いてほしかった妖精。
#1:ディッシュウオシュフェリー
#2:クリーニングフェリー
#3:ベイビーシッターフェリー
#4:クッキングフェリー
でもそんなフェリーは一度たりとも私の前に現れませんでした。