ままちゃんのアメリカ

結婚42年目のAZ生まれと東京生まれの空の巣夫婦の思い出/アメリカ事情と家族や社会について。

家族の黒い羊

2017-08-03 | 系図のこと

数ある系図カンファレンスの中で最も好きなのは、Rootstech ルーツテックである。家族の歴史(系図)とそのテクノロジーの大会が毎年二月頃ユタ州ソルトレイク市のソルトパレスコンベンションセンターで開催される。系図関係商品展示会も、魅力的である。テクノジーを使った系図調査のアップデイト、新しい小型スキャナー(これはスマートフォンで間に合う時代になったので、節約できる)、個人用のデータベース、書籍類、壁一杯に広がるぺディグリーチャートを印刷するサーヴィス、いろいろたくさんある。(オタクな人)私にはディズ二ーランドよりも楽しい。催されるクラスも数多くあり、受け付けで厚いSyllabus(講義内容)を受け取るや否や, どのクラスへ行くか印をつけておく。そして早くそのクラスのある部屋へ行かないと、時折満員御礼のサインが出る。渡されるSyllabusを受け取る前に、私は、大抵の場合、あらかじめオンラインで目を通しておき、会場での行動に無駄いように計画する。


希望のクラスが満員ならば、展示会を見てもよし。それにキーノートスピーカーたちも多く、講演をする。今年は家の改築や改善をするTVショウで有名な双子のスコット兄弟や、Cake Boss というTVショウで人気ベイカーのバディ・ヴァラストロ、俳優のルヴァ・バートンも講演した。ルヴァ・バートンは1977年にルーツというミニシリーズドラマで、クンタ・キンテ役を演じ、一大旋風を起こした俳優である。このルーツテックは、今年3万人が集ったと言う。出席者は合衆国の全州、そして43カ国からの人々だそう。


アメリカ人の第一の趣味は園芸で、第二は系図である。最近は系図が園芸を抜いたとも言われる。アメリカだけではなく、英国でもその熱はある。概して、欧米は系図に対して、非常にオープンである。昔生物のクラスでバッハの優秀な系図が、泥棒の系図と対比して、教科書に載っていたものだ。しかし、全ての家系が優秀でなくとも、例えば、黒い羊(犯罪記録があるなど)のいる家系に対しても、欧米人は非常に寛容で、過去は過去、先人が何をしても今ここに自分はいる、それが大切だ、と割り切っている。


こういう受け止め方は実はとても重要である。過去に起こった先祖のどんな言動も、変えようがない。こうしたことはみな家族の歴史の一部だと、割り切って(開き直って)みることがとても大切である。例えば、五代前の先祖は何故あんなことやこんなことを、したんだろう、と五代後の子孫が悩んでみたところで、まったく答えも終わりもない。原因は思いつくかもしれないが、起こったことをなしにすることはできない。つまり、悩んでもどうしようもないことである。みんな歴史の一部。自分は、だから悔いのない、悔いの少ない人生を歩もう、先祖が陥った罠には、はまるまい、と努力することが大切である。系図をするには、この割り切る気持ちがないと、できない。


俳優のB.A.はアメリカで人気のある系図TVショウに調査をしてもらってそれを放映することに同意し、いざそれが完成すると、奴隷所有者だった先祖がいたのを知り、放送中止を局に命令した。彼は日頃からリベラルで人種に偏見がないかのように振舞っていたから、変えようもない過去の事実を、それも二百年も前のことを、今の自分の沽券にかかわる、とでも思い悩んだのだろう。放送は中止されたが、狭量だ、と思った人は私だけではないと思う。


黒い羊家系についてのクラスがルーツテックであり、以前祖母が祖父に殺されたという人の系図を頼まれたこともあり、超満員のクラスだったが、興味を持って早目に席についた。インストラクターは、法律家でもある、女性のプロフェッショナル系図家、Judy Russellであった。まず彼女は出席者に、あなた方のうちで、黒い羊のいる人はいますか?と尋ねた。すると、私以外の出席者全員が挙手したではないか!大抵の人は、飲んだくれで騒ぎを起こした曽祖父だの、100年前に炭鉱夫同士で喧嘩し相手を刺殺寸前で逮捕された先祖だの、実際に殺人まで犯してしまった80年前の先祖だのを持っていた。


驚いたのは、それを恥じずに堂々と、そういう黒い羊もいたんですよ、とか、おや、あなたの先祖のほうが度が大きいですね、などとその子孫たちが、談笑していたことである。Judy Rusell 自身、遠い開拓者時代の先祖は、殺人者だったという。しかし、彼女のスタンスは、どの家系(家族)にも、ひとりやふたりの黒い羊はいるものだが、それを存在しなかったかのように隠し立てするのは、おかしなことで、こうした黒い羊は、はずれなく、興味深い調査につながり、本当の系図家は喜んで調査したがるものだ、ということだ。服役記録でさえ、ひとつの大切な系図書類には、違いない。彼女の講習 "系図書類としての服役記録“は、たいへんに人気があり、私がそのクラスに座れたのは本当にラッキーなことだった。彼女は続けて、言った。


“私にはほとんど農夫か説教師(牧師など)の先祖がいます。包みなく言えば、退屈です。自分の家族に黒い羊を見つけるのが好きです。すると私は、15歳で最初の殺人を犯した縁者を見つけたのです。彼は紳士的な殺人者であると言われたのですが、何故そんな呼び方をされたのでしょうか?彼は殺されてはならない人は一切殺さなかったし、又殺されずに生き残った人々は口々に、彼は紳士的で、親切な殺人者だったと述べたからです。”


けしからん、居直りだ、と呆れるお方もいらっしゃるとは思うが、こうした考え方が欧米人には、ある、というのは一考にふさわしいのでは。



 

 


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