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気候変動の話(その五)気候変動防御行動は経済成長を阻害するか?

2021-07-09 09:55:52 | 社会問題
良く気候変動防御行動はコストがかかり経済に支障となると言われる。一方気候変動による経済ダメージは数十億ドルになるとも指摘される。事実を追ってみる。
(DeutscheWelle、2021年7月2日)

“わかるかな、経済だよ”とは先のクリントン大統領の政治・戦略担当のJames Carville氏の造語で大統領選挙時使われた言葉だが、今日ではどんな政治アドバイザーでも選挙スローガンとして事あるごとに”わかるかな、環境問題だよ”とまず発言するよう候補者に指導していることだろう。

問題は“経済”と“環境”とが互いに譲らぬ両立せぬものであるかどうか、別の言い方では”経済成長”と”気候防衛”とはコインの裏表の関係なのかどうか、ということだろう。

最初に登場した大きな環境防衛ルールは1970年代にさかのぼる。それ以来それらのルールが経済成長と競争力とに大きな障害になるとして議論が沸騰してきている。

一方の意見・考えは環境政策に厳密・厳格に対応しない国々は、排出ガス低減を目指して適切な行動をしている国々より経済的に優位な立場になるというものである。温暖化効果ガスを大量に放出する業種で特に競争力の格差が生じる、として懸念されている。

このいわゆる環境特権仮説は次のことを予測する。もしも競争している会社どうしが直面する環境規制の厳格さに関してのみ異なっているのであれば、比較してより厳格に規制を守っている会社が競争力を失うだろう。

他方いわゆるポーター仮説は、より厳格な気候ルールが新規の汚染防止技術を産んでいくため投資を促進させると主張する。もしこれらの防止技術がエネルギー節約に結び付いていけば、気候防衛コストの一部が回収されることになる。また気候変動の打撃の緩和に失敗した場合、コストがどれほどになるか、ということも含めて考える必要である。

”GDPが唯一の有効な指針なのか?”

一見して測定指針としてGDPを使うことはコスト-便益分析的に妥当な選択である。問題点はGDPがどの程度、成長と繁栄との指針・指標足りえるかということである。

”GDPは最も発展した指標である。GDPから離れた方が良いと言っているわけではない。だが気候変動に結び付く上の障害の多くが、勘案されていない。このことは“グローバル社会として我々は多分「失われたバイオ多様性」に起因するコストを払うことになるが、それらが直接的にはGDPに反映されない”という事を意味する、とWilfried Rickels氏(Kiel世界経済研究所のグローバル資産・気候研究センター長)は言う。

気温が上昇するとどれだけGDPにダメージを与えるか
1.5℃上昇で20兆ドル(‐0.7%)
2.5℃上昇で44兆ドル(‐1.1%)
4.5℃上昇で72兆ドル(-2.5%)  ( )内はOECDによるGDP変化量 

全米経済研究所(National Bureau Of Economic Research)の研究報告によると、適切な打開策を打たなければ2100年まで毎年平均気温が0.04℃ずつ上昇し、それによりGDPは7.22%減少するという。もしパリ協定に諸国が従い気温上昇を年0.01℃に抑えればGDP減少は1.07%で済むことになる。

“このことがパリ協定で謳われている論点の一つであり、我々は設定した限界点を目指して、靄にかすむ目の前の道を走る我が姿を思い描きながら、これ以上進めない到達点限界点まで走り続ける”とRickels氏は言う。

気候強靭化投資の協働(Coalition For Climate Resilient Investment)(会社・政府・多国間機関からなる組合)によれば、2100年まで何も対策を打たなければ財政的損失は69兆ドルまでになるという。

“経済成長と気候変動防止とは両立できるか?”

このことは何をどこまで見通しての話かによって変わるものである。20年前ソーラーに投資するのは、その高いコスト故に馬鹿げているとされていた。だが時がたって今では配当ができるまでになっている。この間、技術革新が進み新たな職が生まれエネルギーコストが下がり、結果として経済に利益を生みだしている。

“ソーラーは今ではそれを本来は必要としない国々にも利用できる位の汎用技術になっている”とKarsten Neuhoff氏(ドイツ経済研究所の気候政策部代表)は言う。

同様の考えがエネルギーの効率的利用の点にも言え、“今では皆が気密性の高いビルに住みたいと言うが20年ほど前はそんな希望は馬鹿げていると思っていた。変化には努力がいるものの、やはり結果として経済に利益をもたらすものである”とNeuhoff氏は言う。

口の悪い人は、それは金持ちの先進諸国には当てはまるが、途上国ではやはり気候変動防止と経済成長とでどちらを選ぶのか、が求められるのでは、と指摘する。“一人当たりの収入が低い貧困国では先々の問題を考えるより目先の成長を考えるもので、長期的な問題の気候変動への興味は乏しい”とRickels氏は言う。

“環境保護自体が経済成長に貢献する”

いわゆる資源の効率化と循環経済(Resource-efficient And Circular Economy:RE-CE)へと向かう現代の経済社会は、短期的には経済活動の多方面で職を減少させる方向であり、一方新たな職の創造は小さい所に留まるだろうと懸念されている。しかしOECDの報告はセクターごとに分けて考えることが大切と指摘している。

これから20年ほどは建設業・再生可能エネルギー発電業と関連サービス業に多くの新たな職が生まれるだろう。一方製造業・農業・食品加工業・化石燃料型発電業には職の消失が起こるだろう。

最重要な質問は、炭素排出を削減しながらの経済成長と気候中立化を最終的に達成することとのバランスをどう取るのか、ということである。今年のダボスで開かれた世界経済フォーラムでJohan Rockstrom氏(ポツダム気候問題研究所所長)は“現在のGDPに基盤を持つ経済成長と急激な排出削減策とを両立させるのは困難な事だ”とその矛盾を指摘している。

気候中立化(二酸化炭素排出を最小限に低下させること、残りの他のガスの排出を気候防御策と相殺させること)の考えは、今後化石燃料を用いない発電様式が望まれると言うことが広く認識され理解が進むにつれてさらに強化されていくだろう。現状5つの産業セクター(運輸・冷暖房・鉱業・農業・産業)が炭素依存型産業だが気候中立化の方向にシフトしていくことだろう。

“了解した人は、ではどんな方法が許容されるのかを考えるだろう。風力・ソーラー?コストはどうか?変更を進めていくのに労力がいることになる。風車やソーラーパネルは受け入れられるのか?全ての労力は社会のためであり、上手く事が進めば経済コストも大きくはない“とNeuhoff氏は言う。

国家の環境政策が如何に上手く進んでいるかを表す指標として環境実施指数(Environmental Performance Index:EPI)があり持続可能性の状況を評価するのに使用されている。2020年の結果によるとプラスの相関性が経済的富裕(国民一人当たりのGDP)との関係に見られる。経済的に繁栄している。例えばノルウェー・UKやスイスでは気候防衛政策への投資が経済と環境の両面でウィン‐ウィンの関係になる。

気候変動への行動を起こすことは究極的には経済成長を促進し特に新規の技術が新たな職を生みだす役割を果たす。現在までに手に入るデータから、国家は経済防衛のために持続可能性を犠牲にする必要はなく、また逆に持続可能性の為に経済防衛を犠牲にする必要はない、と言える。

「護憲+BBS」「メンバーの今日の、今週の、今月のひとこと」より
yo-chan

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