スプートニクVワクチン
Gamaleya流行病・微生物研究所が開発したアストラゼネカやJ&Jと同じウイルスベクターを利用してのロシア製ワクチン。
1. ロシア健康省は2020年8月11日にGam-COVID-Vacとして承認登録した。PhaseI-IIの段階での承認であったことがその後マスメディアの批判にあい、医学界から安全性と有効性に疑問が出るなどの船出であった。しかし2021年2月2日医学学会誌TheLancetに論文掲載され、有効性が91.6%、異常な副作用がないと報告もされた。
2.2020年12月からロシア・アルゼンチン・べラルース・ハンガリー・セルビア・UAEを含む複数国で緊急使用が始まった。2021年2月の段階で10億回分のワクチンが利用されている。
3.2020年12月21日ロシア直接投資ファンド(RDIF、RussiaDirectInvestmentFund)、Gamaleya国立センター、アストラゼネカとR-Pharmは共同研究開発で契約を結ぶ。
4.EMA(EuropeanMedicinesAgency)は現在スプートニクVを数週間にわたり調査検討中であり、今後2カ月以内に承認の予定という(By DeutscheWelle,2021年3月29日)。滞り勝ちな供給性でゆれるEUのワクチン接種に促進効果となるか、で注目される。
5.ロシアは今後スプートニクVを1億7800万回分生産予定であり、更に2種の別種ワクチン(EpiVacCoronaとCoviVak)を生産するとし、ロシアから外に供給する能力があるとしている。スプートニクVの海外輸出を資金面でサポートするロシア直接投資ファンド(RDIF、RussiaDirectInvestmentFund)は世界50カ国以上合計15億以上の人がワクチンを待っていることを認識している、としている。この要望を満たすため、ロシアは国内生産のみにこだわらず、海外に生産協力を求める事も考えているとし、すでに10カ国以上の国と話を進めている(実際にカザフスタン・べラルース・インド・韓国・ブラジルで生産が始まっている模様)。またこの7月からイタリアでも始まる予定(AdiennePharma&Biotech)。
6.ロシアのコロナワクチンの生産及び他国への供給意欲を紹介したが、特にEU側はスプートニクVに過大の期待をしているわけでもないといえる。
まず、Pfizer-BioNTechワクチンが夏までに供給量が高まるとの期待がある。Frankfurtの北のMarburgにあるBioNTech工場は2月に生産を始めており、6月末までに2億5000万接種量を約束しており、仏のSanofiがそのワクチンのボトリングとパッケジングを担当する予定で動いている。またEMAにすでに承認すみの米J&Jはワクチンを4月にEU向けに出荷を始める。更に第二の独製のmRNAを使用のワクチン候補(CureVac)が5月から6月に承認され、4億500万接種量をEUに供給される話や別種の米国産のNovavaxの話も進行中である。
アストラゼネカワクチンの第二4半期1億8000万回接種分の予定等々でスプートニクの出番は特にEUでは疑問とされる。
また昨日DeutscheWelle(4月11日)にEMAがスプートニクVの評価のため生産現場の査察に入っている旨の報道があった。GMP(GoodManufacturingPractice)に沿ったやり方で生産が行われているか、また臨床検査がGCP(GoodClinicalPractice)に沿った方法で評価されているかを調べるため病院にも査察に入っているという。EUにおけるスプートニクVの立ち位置を左右する現地検査結果になるだろう故、結果を待ちたい。
スプートニクの生産場所としてEUが利用されて、そこから世界の他地域に流通していく形もありうるとは思うのだが。
中国製ワクチン
中国製ワクチンメーカーは2社が代表的である。SinopharmとSinovacである。
他にCanSinoBiologicsとAnhuiZhifeiLongcomが知られている。
Sinovac社 (2021年1月14日BBCニュースから)
北京にあるSINOVAC BIOTECHは不活化ワクチンであるCoronaVacを開発生産している。ModernaやPfizerワクチンがコロナウイルスの遺伝情報の一部のmRNAを体内に接種し、接種者の体内にスパイク蛋白質産生を促すことを原理としているのに対し、CoronaVacは死滅させたウイルス全体を使っている点に特徴がある。狂犬病ワクチンなどの従来から実績のあるワクチン製造法である。
1.CoronaVacワクチンは、Oxford-アストラゼネカワクチン同様、摂氏2から8℃で保管可能であり(Moderna品は‐20℃、Pfizer品は‐70℃保管が条件)、極低温流通を確保しがたい地域・国に有利なワクチンである。
2.有効性に関するCoronaVacの情報はPhaseI とPhaseIIの治験段階でTheLancetに載せられたものだけであるが、緊急使用条件下では次の段階に進めるものであるとされた。
PhaseIII相当の治験はトルコ、インドネシアで行われそれぞれ91.25%、65.3%有効とされている。ブラジルでは78%有効だったとされたが、その後の再検討で(2021年1月)50.4%と修正された。2020年9月の被験者1000名に対する試験では、多少の疲労感や異常感を示した被験者が5%未満だったと発表された。
3.Sinovacワクチンはマレーシアとシンガポールでは検討中だが、タイは導入を計画中。
中国ではSinovacは2020年7月にハイリスク群対象者限定で緊急使用が認められた。
フィリピンでは承認され、インドネシアは2021年1月からワクチン接種を開始している。トルコも緊急時用としてSinovacを承認し、ブラジル・チリも締結している。
Sinopharm社 (2021年1月14日BBCニュース及びWikipediaから)
中国国営企業のSinopharmは2種のCovid-19ワクチンを展開している。どちらもSinovac同様の不活化ワクチンである。BBIBP-CorVはSinopharmCOVID-19ワクチンの一つ。
1.2020年12月Sinoph armはBBIBP-CorVのPhaseIII試験をアルゼンチン・バーレイン・エジプト・モロッコ・パキスタン・ペルー・とUAEにてそれぞれ行うとした。
UAEは86%有効と発表(一方Sinopharmは12月末に79%有効としている)。
シンガポール国立大のFisher教授は緊急使用とは言え、PhaseIIIの治験結果を見定める前の使用は慣例に従っていない、と指摘している。
2.SinopharmワクチンはUAEとバーレインで承認されている。
3.BBIBP-CorVはCoronavacと同じく2から8℃でハンドリング出来る利点を持つ。
4.Sinopharm社は2021年に10億本分の生産を表明している。
またUAEとの間で2021年内に年間2億本の生産工場を作ることで合意している。
エジプトとの間でも現地生産工場設立の合意が為された(2020年12月)。
セルビアとの間でも10月スタートで年間2400本の生産能力の工場の構想が打ち出された。べラルースも現地生産を考えている。
他の開発ワクチン
CanSinoBiologics社ワクチンはJ&JワクチンやOxford-アストラゼネカワクチンと同じ技法で作成した1回接種でOKのウイルスベクターワクチン。サウジアラビアを含めてのPhaseIII治験中としている。
他はAnhuiZhifeiLongcomの開発品でPhaseIIIに入っているとされ、免疫応答を引き起こすウィルスの断片精製物を使用しているという。
中国のワクチン事情は、有効性や安全性に対する信頼性や外交手段として有利に利用していきたいという国家としての思惑等の事情を見ていくことも大切な視点と思い、以下に報道されている話題を紹介したい。
1. 生産意欲の視点
Sinovacは年間3億接種量の生産が可能な工場を新設している。2回接種が必要なワクチンであり、中国の人口の10分の1の1億5000万人に対応する生産を行える新設工場である。
2. 外交材料の視点
中国は最近60万回分に及ぶワクチンをスリランカに供与し、現地に住む約20万人の中国人用にあてる模様。中国の影響力拡大策の一連の動きの一つと見る向きもある。スリランカ当局は中国製ワクチンの移入は認めているものの緊急使用条件での使用を許可していない。中国は同じく過去に数千のマスク、テストキット、医療装置をスリランカに提供している。中国の示すソフト支援外交が、スリランカとの良好な関係作りに役立っていく可能性も指摘されている。
スリランカは人口約2100万人、9万人以上が罹患し、1000人弱が死亡している。
9万人以上が少なくとも一回の接種を済ませている。(2021年4月8日付けDWニュース)
中国はまた別に4億回接種分を53カ国に供給するワクチン外交を行いたいという希望を有している。アフリカ・南米・島嶼国に対する外交材料としてワクチンを利用しようとしている、とアナリストは見ている。
Sinopharmワクチン利用国(OurWorld inDataより)バーレイン・カンボジア・エジプト・ハンガリー・ヨルダン・マカオ・モロッコ・パキスタン・ペルー・セネガル・セルビア・セイシェル・UAE・ジンバブエ
Sinovacワクチン利用国(OurWorld in Dataより)ブラジル・チリ・グアテマラ・香港・インドネシア・マレーシア・北キプロス・フィリピン・タイ・ウルグアイ
3.国家の接種率増大意欲と国民の自国ワクチンの安全性に対する意識との乖離
中国のCovid-19対策の有力者Nanshan氏は中国全国民14億人の40%にワクチン接種を6月までに行う事を表明しているものの実態はOur World in Dataによれば現在の所、英が32.99%、米が25.42%、一方中国は約3.5%と出遅れている。
国内の集団免疫(HerdImmunity)を早期に確立したいもののワクチンの安全性に疑問を持つ国民の意識の問題があり、どこまで迅速に出来るかに不明だという懸念も生じている。
例えばGuangdong州の病院医師は中国製ワクチン接種を受けなかったし、同僚の半数以上が同様だったと言っている。(2021年3月7日TheJapanTimes及び2021年2月26日TheDiplomatより)
4 有効性についての議論
代表的な中国製ワクチンは、他国のワクチンがウイルスベクターやmRNAを用いているのに対し不活化したウイルス全体を用いるワクチンである点に特徴がある。
この不活化ワクチン法は古く1904年L.Pasteurにより開発されたものであり、ポリオやインフルエンザワクチン等多くの実績があるものである。
不活化後のコロナウイルス全体を用いる本法は、より広範な免疫応答が期待できるとする意見があり、鼻とノドの粘膜にも抗体が産生され、コロナの伝染性に大きな効果が期待できるとか、免疫応答の広範さから変異株に対しても効果が期待できるという人もいる(Leicester大学JurianTang氏 Politico2021年4月11日)。一方この説は、これらのワクチンが起こす可能性のある副作用やそもそも治験データの提供が不足している点を挙げて疑問視する人もいる。
5. 有効性を更に高める方策の検討
4月11日のDAWNの報道によると、中国の疾病コントロール部局は現在使用可能なワクチンが有効性の点で不十分であることを認識して、有効性改善のための方策として、来歴が異なるワクチンを混合して使うとか、一回目と2回目の接種の最適なタイミングを調べるとかの改善方法の検討を研究者等に要請する考えを打ち出している。
コロナウイルスと格闘する方策の一方法かもしれない。
以上三回にわたり世界を覆うコロナ禍をワクチン製造競争の観点を中心にして見てきたが、安全性や効果性からの議論があるだけでなく、そもそもワクチンを世界に住む全員に広めることに意義があるのか、と疑問を呈する意見もあるのが現状です。今回薬害訴訟を免除されたかと思えるワクチンメーカーの今の立ち位置も気にはなります。
またある医療従事者は、軽い症状だった罹患者の中のかなりの人(30%位と言っていたと記憶しますが)がその後長期にわたり不安症状等の精神異常を訴えるケースがあるとしている点も大切な視点だと思います。若いから罹っても大丈夫、ではないかもしれません。
さらに変化変異した新たな脅威の仮面を新型コロナはかぶるかも知れません。ワクチンの今後とともに今回触れていない別の観点の治療薬の動向にも注意を向けたいものです。
次回はコロナ禍を見事に水際で押さえきったといえる国、台湾の例を紹介する予定です。特に今後の日本を考える際の貴重な前例と思っております。
「護憲+BBS」「メンバーの今日の、今週の、今月のひとこと」より
yo-chan
Gamaleya流行病・微生物研究所が開発したアストラゼネカやJ&Jと同じウイルスベクターを利用してのロシア製ワクチン。
1. ロシア健康省は2020年8月11日にGam-COVID-Vacとして承認登録した。PhaseI-IIの段階での承認であったことがその後マスメディアの批判にあい、医学界から安全性と有効性に疑問が出るなどの船出であった。しかし2021年2月2日医学学会誌TheLancetに論文掲載され、有効性が91.6%、異常な副作用がないと報告もされた。
2.2020年12月からロシア・アルゼンチン・べラルース・ハンガリー・セルビア・UAEを含む複数国で緊急使用が始まった。2021年2月の段階で10億回分のワクチンが利用されている。
3.2020年12月21日ロシア直接投資ファンド(RDIF、RussiaDirectInvestmentFund)、Gamaleya国立センター、アストラゼネカとR-Pharmは共同研究開発で契約を結ぶ。
4.EMA(EuropeanMedicinesAgency)は現在スプートニクVを数週間にわたり調査検討中であり、今後2カ月以内に承認の予定という(By DeutscheWelle,2021年3月29日)。滞り勝ちな供給性でゆれるEUのワクチン接種に促進効果となるか、で注目される。
5.ロシアは今後スプートニクVを1億7800万回分生産予定であり、更に2種の別種ワクチン(EpiVacCoronaとCoviVak)を生産するとし、ロシアから外に供給する能力があるとしている。スプートニクVの海外輸出を資金面でサポートするロシア直接投資ファンド(RDIF、RussiaDirectInvestmentFund)は世界50カ国以上合計15億以上の人がワクチンを待っていることを認識している、としている。この要望を満たすため、ロシアは国内生産のみにこだわらず、海外に生産協力を求める事も考えているとし、すでに10カ国以上の国と話を進めている(実際にカザフスタン・べラルース・インド・韓国・ブラジルで生産が始まっている模様)。またこの7月からイタリアでも始まる予定(AdiennePharma&Biotech)。
6.ロシアのコロナワクチンの生産及び他国への供給意欲を紹介したが、特にEU側はスプートニクVに過大の期待をしているわけでもないといえる。
まず、Pfizer-BioNTechワクチンが夏までに供給量が高まるとの期待がある。Frankfurtの北のMarburgにあるBioNTech工場は2月に生産を始めており、6月末までに2億5000万接種量を約束しており、仏のSanofiがそのワクチンのボトリングとパッケジングを担当する予定で動いている。またEMAにすでに承認すみの米J&Jはワクチンを4月にEU向けに出荷を始める。更に第二の独製のmRNAを使用のワクチン候補(CureVac)が5月から6月に承認され、4億500万接種量をEUに供給される話や別種の米国産のNovavaxの話も進行中である。
アストラゼネカワクチンの第二4半期1億8000万回接種分の予定等々でスプートニクの出番は特にEUでは疑問とされる。
また昨日DeutscheWelle(4月11日)にEMAがスプートニクVの評価のため生産現場の査察に入っている旨の報道があった。GMP(GoodManufacturingPractice)に沿ったやり方で生産が行われているか、また臨床検査がGCP(GoodClinicalPractice)に沿った方法で評価されているかを調べるため病院にも査察に入っているという。EUにおけるスプートニクVの立ち位置を左右する現地検査結果になるだろう故、結果を待ちたい。
スプートニクの生産場所としてEUが利用されて、そこから世界の他地域に流通していく形もありうるとは思うのだが。
中国製ワクチン
中国製ワクチンメーカーは2社が代表的である。SinopharmとSinovacである。
他にCanSinoBiologicsとAnhuiZhifeiLongcomが知られている。
Sinovac社 (2021年1月14日BBCニュースから)
北京にあるSINOVAC BIOTECHは不活化ワクチンであるCoronaVacを開発生産している。ModernaやPfizerワクチンがコロナウイルスの遺伝情報の一部のmRNAを体内に接種し、接種者の体内にスパイク蛋白質産生を促すことを原理としているのに対し、CoronaVacは死滅させたウイルス全体を使っている点に特徴がある。狂犬病ワクチンなどの従来から実績のあるワクチン製造法である。
1.CoronaVacワクチンは、Oxford-アストラゼネカワクチン同様、摂氏2から8℃で保管可能であり(Moderna品は‐20℃、Pfizer品は‐70℃保管が条件)、極低温流通を確保しがたい地域・国に有利なワクチンである。
2.有効性に関するCoronaVacの情報はPhaseI とPhaseIIの治験段階でTheLancetに載せられたものだけであるが、緊急使用条件下では次の段階に進めるものであるとされた。
PhaseIII相当の治験はトルコ、インドネシアで行われそれぞれ91.25%、65.3%有効とされている。ブラジルでは78%有効だったとされたが、その後の再検討で(2021年1月)50.4%と修正された。2020年9月の被験者1000名に対する試験では、多少の疲労感や異常感を示した被験者が5%未満だったと発表された。
3.Sinovacワクチンはマレーシアとシンガポールでは検討中だが、タイは導入を計画中。
中国ではSinovacは2020年7月にハイリスク群対象者限定で緊急使用が認められた。
フィリピンでは承認され、インドネシアは2021年1月からワクチン接種を開始している。トルコも緊急時用としてSinovacを承認し、ブラジル・チリも締結している。
Sinopharm社 (2021年1月14日BBCニュース及びWikipediaから)
中国国営企業のSinopharmは2種のCovid-19ワクチンを展開している。どちらもSinovac同様の不活化ワクチンである。BBIBP-CorVはSinopharmCOVID-19ワクチンの一つ。
1.2020年12月Sinoph armはBBIBP-CorVのPhaseIII試験をアルゼンチン・バーレイン・エジプト・モロッコ・パキスタン・ペルー・とUAEにてそれぞれ行うとした。
UAEは86%有効と発表(一方Sinopharmは12月末に79%有効としている)。
シンガポール国立大のFisher教授は緊急使用とは言え、PhaseIIIの治験結果を見定める前の使用は慣例に従っていない、と指摘している。
2.SinopharmワクチンはUAEとバーレインで承認されている。
3.BBIBP-CorVはCoronavacと同じく2から8℃でハンドリング出来る利点を持つ。
4.Sinopharm社は2021年に10億本分の生産を表明している。
またUAEとの間で2021年内に年間2億本の生産工場を作ることで合意している。
エジプトとの間でも現地生産工場設立の合意が為された(2020年12月)。
セルビアとの間でも10月スタートで年間2400本の生産能力の工場の構想が打ち出された。べラルースも現地生産を考えている。
他の開発ワクチン
CanSinoBiologics社ワクチンはJ&JワクチンやOxford-アストラゼネカワクチンと同じ技法で作成した1回接種でOKのウイルスベクターワクチン。サウジアラビアを含めてのPhaseIII治験中としている。
他はAnhuiZhifeiLongcomの開発品でPhaseIIIに入っているとされ、免疫応答を引き起こすウィルスの断片精製物を使用しているという。
中国のワクチン事情は、有効性や安全性に対する信頼性や外交手段として有利に利用していきたいという国家としての思惑等の事情を見ていくことも大切な視点と思い、以下に報道されている話題を紹介したい。
1. 生産意欲の視点
Sinovacは年間3億接種量の生産が可能な工場を新設している。2回接種が必要なワクチンであり、中国の人口の10分の1の1億5000万人に対応する生産を行える新設工場である。
2. 外交材料の視点
中国は最近60万回分に及ぶワクチンをスリランカに供与し、現地に住む約20万人の中国人用にあてる模様。中国の影響力拡大策の一連の動きの一つと見る向きもある。スリランカ当局は中国製ワクチンの移入は認めているものの緊急使用条件での使用を許可していない。中国は同じく過去に数千のマスク、テストキット、医療装置をスリランカに提供している。中国の示すソフト支援外交が、スリランカとの良好な関係作りに役立っていく可能性も指摘されている。
スリランカは人口約2100万人、9万人以上が罹患し、1000人弱が死亡している。
9万人以上が少なくとも一回の接種を済ませている。(2021年4月8日付けDWニュース)
中国はまた別に4億回接種分を53カ国に供給するワクチン外交を行いたいという希望を有している。アフリカ・南米・島嶼国に対する外交材料としてワクチンを利用しようとしている、とアナリストは見ている。
Sinopharmワクチン利用国(OurWorld inDataより)バーレイン・カンボジア・エジプト・ハンガリー・ヨルダン・マカオ・モロッコ・パキスタン・ペルー・セネガル・セルビア・セイシェル・UAE・ジンバブエ
Sinovacワクチン利用国(OurWorld in Dataより)ブラジル・チリ・グアテマラ・香港・インドネシア・マレーシア・北キプロス・フィリピン・タイ・ウルグアイ
3.国家の接種率増大意欲と国民の自国ワクチンの安全性に対する意識との乖離
中国のCovid-19対策の有力者Nanshan氏は中国全国民14億人の40%にワクチン接種を6月までに行う事を表明しているものの実態はOur World in Dataによれば現在の所、英が32.99%、米が25.42%、一方中国は約3.5%と出遅れている。
国内の集団免疫(HerdImmunity)を早期に確立したいもののワクチンの安全性に疑問を持つ国民の意識の問題があり、どこまで迅速に出来るかに不明だという懸念も生じている。
例えばGuangdong州の病院医師は中国製ワクチン接種を受けなかったし、同僚の半数以上が同様だったと言っている。(2021年3月7日TheJapanTimes及び2021年2月26日TheDiplomatより)
4 有効性についての議論
代表的な中国製ワクチンは、他国のワクチンがウイルスベクターやmRNAを用いているのに対し不活化したウイルス全体を用いるワクチンである点に特徴がある。
この不活化ワクチン法は古く1904年L.Pasteurにより開発されたものであり、ポリオやインフルエンザワクチン等多くの実績があるものである。
不活化後のコロナウイルス全体を用いる本法は、より広範な免疫応答が期待できるとする意見があり、鼻とノドの粘膜にも抗体が産生され、コロナの伝染性に大きな効果が期待できるとか、免疫応答の広範さから変異株に対しても効果が期待できるという人もいる(Leicester大学JurianTang氏 Politico2021年4月11日)。一方この説は、これらのワクチンが起こす可能性のある副作用やそもそも治験データの提供が不足している点を挙げて疑問視する人もいる。
5. 有効性を更に高める方策の検討
4月11日のDAWNの報道によると、中国の疾病コントロール部局は現在使用可能なワクチンが有効性の点で不十分であることを認識して、有効性改善のための方策として、来歴が異なるワクチンを混合して使うとか、一回目と2回目の接種の最適なタイミングを調べるとかの改善方法の検討を研究者等に要請する考えを打ち出している。
コロナウイルスと格闘する方策の一方法かもしれない。
以上三回にわたり世界を覆うコロナ禍をワクチン製造競争の観点を中心にして見てきたが、安全性や効果性からの議論があるだけでなく、そもそもワクチンを世界に住む全員に広めることに意義があるのか、と疑問を呈する意見もあるのが現状です。今回薬害訴訟を免除されたかと思えるワクチンメーカーの今の立ち位置も気にはなります。
またある医療従事者は、軽い症状だった罹患者の中のかなりの人(30%位と言っていたと記憶しますが)がその後長期にわたり不安症状等の精神異常を訴えるケースがあるとしている点も大切な視点だと思います。若いから罹っても大丈夫、ではないかもしれません。
さらに変化変異した新たな脅威の仮面を新型コロナはかぶるかも知れません。ワクチンの今後とともに今回触れていない別の観点の治療薬の動向にも注意を向けたいものです。
次回はコロナ禍を見事に水際で押さえきったといえる国、台湾の例を紹介する予定です。特に今後の日本を考える際の貴重な前例と思っております。
「護憲+BBS」「メンバーの今日の、今週の、今月のひとこと」より
yo-chan
