黒式部の怨念日記

怨念を恐るる者は読むことなかれ

ドン・ジョヴァンニ(ドン・ファン)とカサノヴァ

2025-01-20 12:00:53 | オペラ

てなわけで、レーザーディスクをダビングしてたら、大昔に見た映画仕立ての「ドン・ジョヴァンニ」(モーツァルトのオペラ)が出てきた。「ドン・ジョヴァンニ」は「ドン・ファン」(スペイン語)のイタリア語読み。おなじみの色男の物語である。ところが、冒頭に次々と登場したのが杭の突き出た湿地、運河、ゴンドラ、ガラス工場等々、すなわち、ヴェネチアの光景である。ヴェネチアを代表する色男はカサノヴァである。そう言えば、ルッジェーロ・ライモンディが演じるドン・ジョヴァンニの額はカサノヴァのように広い(フェリーニ監督の映画「カサノヴァ」の主人公はおでこをそり上げていた)。え?ドンジョヴァンニ(ドン・ファン)ってカサノヴァのことだったの?いやいや、「ドン・ジョヴァンニ」はイタリア語のオペラだから名前をイタリア読みに変えてあるがスペインのお話のはずで、その証拠に、ドン・ジョヴァンニの家来のレポレロが「カタログの唄」で主人がいたした国別の相手の数を歌うのだが、スペインが「1003人」(ミッレットゥレ)で圧倒的である。だが、カサノヴァは実在の人物であるのに対し、ドン・ファンは架空の人物だそうだ。架空なものだから、映画の制作者が舞台をヴェネチアに移してカサノヴァと重ねた、というのが私の見立てである。

その「ドン・ジョヴァンニ」「ドン・ファン」の「ドン」は尊称である。だから名前は「ジョヴァンニ」「ファン」であり、これはイエスの弟子のヨハネが由来であり、欧米では各言語に相当する名前がある。例えば、「ジョン」(英語)、「ジャン」(フランス語)、「ヨハネス」(ドイツ語)ってな具合である。面白いのは、ドイツ語の「ヨハネス」には短縮形があり、前だけとったのが「ヨハン」で、後ろだけとったのが「ハンス」である。だから、ヨハネス・ブラームスとヨハン・ゼバスチャン・バッハとハンス・ザックスの名前は同根なのである。

ところで、ヨハネを表す各言語の大元はラテン語の「ヨハネス」だが、ヨハネはユダヤ人だからヘブライ語の呼ばれ方があったはずで、それは「ヨーハーナーン」だそうだ(それがギリシャ語を経てラテン語の「ヨハネス」になったという)。そう言えば、リヒャルト・シュトラウスのオペラ「サロメ」の歌詞はドイツ語だが、予言者ヨハネ(イエスの弟子のヨハネとは別人)は「ヨハナーン」である。どこから来た名前かと思ったらヘブライ語だったのだ。

さらに、この「ヨーハーナーン」は、「ヤハウェは恵み深い」から来ているという。ヤハウェは、一神教であるユダヤ教における唯一の神様である。

そのような有り難い名前を戴いているドン・ジョヴァンニであるのに色事が過ぎて最期は地獄落ちとなる。完全に名前負けである。それに対し、実在したカサノヴァは、色事が原因で投獄されたが脱獄し、最期は外国の貴族の館で司書となり回顧録を書いている。なお、某局のアナウンサーがその昔、司書と司法書士をごっちゃにし、「司法書士」と聞いて「図書館にいる人ですね」と宣ったことがある。この人の誤解がその後解けたのか聞いてみたいところである。

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