黒式部の怨念日記

怨念を恐るる者は読むことなかれ

アナログ

2025-01-13 12:05:45 | 映画

映画「PERFECT DAYS」の主人公(公衆トイレの清掃員。演:役所広司)は、スカイツリーの見える浅草近辺に住んでるぽいが、仕事場は渋谷の公衆トイレで、洗浄便座が付いているのは当たり前。そんじょそこらの住宅のトイレよりもおしゃれできれいだから、家でせずにわざわざ出向く価値があるくらい。外国人はびっくりな様子だが、日本人だってびっくり。だが、ご時世なのだろう。奥地の乗換駅のJRの某駅のトイレですら洗浄便座付きである。

主人公の生活は、アナログで溢れている。読む本は古本屋で買ってくる紙の本だし聴く音楽はカセットテープ。最近、カセットが人気だそうだからこのあたりは驚くに値しない。だが、写真屋さんに入っていって何をするのかと思ったらフィルムの現像の依頼。お昼に公園で木漏れ日の写真を撮っていたカメラはフィルム式だったんだ!フィルムってまだあったんだ!写真屋さんは今でも現像をしてくれてたんだ!で、ググったら「フィルムは人気」だって。どの分野でもアナログが復活している様子。たしかにCDよりレコードの方が音がいいとは思うけど、ノイズのもとになる盤面のほこり取りに相当苦労したところにCDが出たとき盤面にクレヨンでいたずら書きをしても音が出る!なんて便利なんだ!と感動した過去は忘れられない(なぜか例がクレヨン)。

主人公は一人暮らし。仕事は二人チームなのだが主人公は相棒とはほとんど口をきかない。おお、ここに私が憧れる仙人生活の師匠がいた!この師匠を見習って私も仙人になろう、と思ったのも束の間。毎日、仕事がはけると銭湯に行って顔見知りと会釈し、その後、浅草焼きそばに行って店主とコミュニケーション。週に一度は馴染みの小料理屋に行って女将(演:石川さゆり)に迎えられる。それどころか、毎日仕事場である女子トイレの隙間に紙をはさんで密かに利用者の(名も知らぬ)女性と交換日記ならぬ交換五目並べ(違う?)をしている。なんだ、全然一人じゃないじゃん。なんだか裏切られた思い。やはり人間は一人では生きられないということか。そう観念した私は、川を越えてもう一度人里に行く決心をしたのである。

因みに映画の主人公が通う浅草焼きそばは実在する。あれ?と思ったのは看板に「サッポロビール」の文字がでかでかとあること。浅草から吾妻橋を渡るとすぐそこにアサヒビールの本社ビル(オブジェが有名)があるのだが、ここは昔アサヒビールの吾妻橋工場があってビヤホールが併設されていて、そんなわけだからここら辺はアサヒビールの牙城であり、特に老舗はアサヒを置いていることが多い。そんな中にあってサッポロビールを正面に据えるのは、関ケ原で東軍の中に突っ込む島津勢のごとし。なぜだろうと思って一つ仮説を立てた。実は、吾妻橋工場は大昔(漱石の時代)は札幌ビールの工場だった。その後、札幌と朝日と日本ビールが合併して大日本ビールができ、件の工場は大日本ビールの工場になった。戦後、GHQによる財閥解体によりアサヒとサッポロが分割し、件の工場はアサヒビールが引き継いだ(以上は史実)。浅草焼きそばは、吾妻橋工場が札幌ビールの工場だった時分に札幌ビールを扱うようになり、その後変わらず今に至る、というストーリーである。だが、浅草やきそばが入る浅草地下街は1955年に開業したそうだ。財閥解体の後である。だから、私の仮説は、今回も大ハズレで終わったのである。

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