第1回「これからの労働時間制度に関する検討会」議事録公開
2021年7月26日に開催された第1回「これからの労働時間制度に関する検討会」(議題:裁量労働制に関する現状について)議事録が8月24日に厚生労働省の公式サイトに公開された。
この第1回検討会議事録の中では、「これからの労働時間制度に関する検討会検討会」委員(構成員)の堤明純・北里大学医学部教授(公衆衛生学)の発言に注目。堤教授の研究テーマは(北里大学公式サイトによると)職業性ストレスの健康影響とその予防に関する研究、労働者の健康の社会格差のメカニズムの解明と制御に関する研究など。
なお、第2回「これからの労働時間制度に関する検討会検討会」は8月31日に厚生労働省省議室で開催予定。議題は(第1回と同様)裁量労働制に関する現状について。
堤明純・北里大学医学部教授発言(第1回検討会議事録抜粋)
・堤構成員(堤明純・北里大学医学部教授)
「北里大学の堤でございます。私も、少し皆様の話が聞き取れていない部分で、重複、もしかしたら誤解もあるかもしれませんが、よろしくお願いいたします。私は、実効性のある健康確保措置という立場でできるだけ参画させていただければと考えておるところです。
裁量労働制と健康問題に関わる課題として、3つほど視点をまずは挙げたいと思います。まず、1つ目は基本的なことですが、先ほど来、お話が出ておりました長時間労働に関連することは、結果的に健康を害するような労働時間にならないように、そういうことが起こらない制度にというのが大切なことだろうと思っております。
実際に裁量労働制対象者の脳・心臓疾患や精神障害で労働災害の支給が決定している事例もまだ数えられておりますので、きちんと対応は必要だろうと思います。また、いかに本人の裁量が関わってくるとはいえ、長時間労働で健康障害を発生するようなことがあれば、事業者にも安全配慮義務等が問われる可能性もありますので、そういうことも考えた上で、改めて基本的なことで恐縮ですけれども、労働時間が適切に管理される制度になる必要性をコメントさせていただきたいと思います。この点に関しては、先ほど黒田先生もおっしゃっていたように、いろいろな労働時間の観点があると思いますので、そういう点も含めて議論ができればと思っております。
2つ目ですけれども、労働意欲とか、モラルといったものも労働者の健康と関連するということが分かっています。一例でございますけれども、健康問題に関わることとして、正当な評価がなされるかどうかという視点が指摘されています。一生懸命頑張っているけれども十分な評価が得られないとか、認められないとかといったこと、報酬も関わってくるかもしれませんけれども、そういうことが心身の不調を発生するストレス要因になることが示されていたりします。
一方で、健康確保と労働生産性は必ずしも背反しないものだとも思っています。労働者の健康は生産性のベースですし、生産性と関連するポジティブな側面の指標としては、皆さんも御存じのとおり、ワークエンゲージメントといった指標とか、先ほど来出ておられると思いますが、満足感の問題とか、裁量の問題とか、ワーク・ライフ・バランスもそうだと思いますけれども、この制度が伸ばしていこうという側面はぜひ伸ばしていって、健康確保措置の視点でもこういったことも含めて検討ができるとよろしいかと考えているところです。
3つ目で、本検討会の枠組みから外れていたら申し訳ないとも思うのですが、また、少し難しい問題もあるかもしれませんけれども、格差の課題は一つ検討しておく必要があるかと思っています。経済格差は、いわゆるマクロレベルでは、健康の社会的な決定要因という形で言われています。少なくともこの多様な自由度の高い働き方の方策が必要な方が取り残されることなくと申しますか、企業規模等において格差を広げないような形で導入されることを希望するものです。先ほどの調査の結果等を拝見しますと、被調査者の誤解もあるかもしれませんが、対象者の範囲に関して、年収等のことなども挙がっておりました。そういうところも念頭に置いて議論ができればと思っております。
その調査結果を見させていただきまして、幾つか追加をさせていただきます。1つ、深夜や休日に仕事を行っている、長時間労働や、休日を取りにくくなるといった苦情等のデータがありまして、2つほど考えるところがあります。
一つは、事業者側が適切な仕事の配分や労務管理を行えているかどうかという基本的な視点でございます。やらされている仕事になっていないか検討が行われる必要があるように思います。適用者、非適用者に分けると、十分に理解可能な形で回答がなされているように思いますけれども、こういったところで間違った運用がなされないようにということが一つ。
労働者の側からいくと、仕事から、身体的にも、心理的にも、きちんと離れることができるという概念を心理的なデタッチメントと言います。顧客を含めて、夜間・休日に入ってくるメールとか、そういうものにつながらない権利ということも欧米では言われておりますし、裁量が外的な要因とうまくバランスが取れるような形で仕事ができる制度になることが好ましいことかと思っています。
労働者の健康確保については、労働者自身も、正しい知識、認識、自律的な行動も必要という視点もあるべきだろうと思っています。労働者には、自身の雇用形態について正確な情報が与えられて、自ら適切な健康管理を行う必要があると思います。こちらは先ほどのデータですけれども、深夜・休日等に仕事をされている回答がありました。自分で働く時間を決められる点は尊重しつつ、自分自身で労働時間帯を選択する場合でも、例えば、不規則な生活や不規則な就業パターンは睡眠障害や疾病のリスクになりますので、こういったところも自律的にコントロールができるといいますか、是正ができるような正確な情報も提供されていくべきだろうと思っています。
先ほど、またこれもお話が出ていましたが、勤務場所の選択に関連すること、テレワーク等の在宅勤務に関する課題もあると思います。労働時間が、いわゆる仕事と私生活の境界が曖昧になって延びやすいという弊害も言われているのですけれども、これ以外にも幾つかのリスクファクターがあります。例えば、孤独に陥りやすいとか、サポートを受け入れられないとか、そういったことは、在宅勤務、テレワークの非常に重要な視点と言われています。また、在宅の場合は、家庭の事情や人間工学的な状況で必ずしも好ましくない就業環境でお仕事をするということは健康上の課題にもなりますので、この検討会自体の枠組みになるかどうかは分かりませんけれども、課題として挙げさせていただいております。
今後の解析の視点で2点ほど話して終わりたいと思いますけれども、健康確保措置の実施率や制度に関する労働者の満足度等に関しては、先ほどいろいろな属性で検討されるということがありましたけれども、企業規模なども関連している可能性があるのではないかと考えます。この企業規模別の解析になりますと、健康確保の措置の実施率とか、みなし労働時間が分からないといった差異や労働者の認知に関連しても示唆が得られる可能性があるのではないかと認識しております。今後の解析に関して、格差対策等にも関わることで役立てられると好ましいかと思っております。
労働者の意見を拝見しますと、労働者の健康やワーク・ライフ・バランスへの配慮に関して、まだまだ伸び代があるように思いますので、こういったところでもしいろいろな情報が入るようでしたら、検討させていただきたいと思っております。以上でございます。」(第1回「これからの労働時間制度に関する検討会」議事録抜粋)
第1回「これからの労働時間制度に関する検討会」議事録
2021年7月26日に開催された第1回「これからの労働時間制度に関する検討会」(議題:裁量労働制に関する現状について)議事録が8月24日に厚生労働省の公式サイトに公開された。
この第1回検討会議事録の中では、「これからの労働時間制度に関する検討会検討会」委員(構成員)の堤明純・北里大学医学部教授(公衆衛生学)の発言に注目。堤教授の研究テーマは(北里大学公式サイトによると)職業性ストレスの健康影響とその予防に関する研究、労働者の健康の社会格差のメカニズムの解明と制御に関する研究など。
なお、第2回「これからの労働時間制度に関する検討会検討会」は8月31日に厚生労働省省議室で開催予定。議題は(第1回と同様)裁量労働制に関する現状について。
堤明純・北里大学医学部教授発言(第1回検討会議事録抜粋)
・堤構成員(堤明純・北里大学医学部教授)
「北里大学の堤でございます。私も、少し皆様の話が聞き取れていない部分で、重複、もしかしたら誤解もあるかもしれませんが、よろしくお願いいたします。私は、実効性のある健康確保措置という立場でできるだけ参画させていただければと考えておるところです。
裁量労働制と健康問題に関わる課題として、3つほど視点をまずは挙げたいと思います。まず、1つ目は基本的なことですが、先ほど来、お話が出ておりました長時間労働に関連することは、結果的に健康を害するような労働時間にならないように、そういうことが起こらない制度にというのが大切なことだろうと思っております。
実際に裁量労働制対象者の脳・心臓疾患や精神障害で労働災害の支給が決定している事例もまだ数えられておりますので、きちんと対応は必要だろうと思います。また、いかに本人の裁量が関わってくるとはいえ、長時間労働で健康障害を発生するようなことがあれば、事業者にも安全配慮義務等が問われる可能性もありますので、そういうことも考えた上で、改めて基本的なことで恐縮ですけれども、労働時間が適切に管理される制度になる必要性をコメントさせていただきたいと思います。この点に関しては、先ほど黒田先生もおっしゃっていたように、いろいろな労働時間の観点があると思いますので、そういう点も含めて議論ができればと思っております。
2つ目ですけれども、労働意欲とか、モラルといったものも労働者の健康と関連するということが分かっています。一例でございますけれども、健康問題に関わることとして、正当な評価がなされるかどうかという視点が指摘されています。一生懸命頑張っているけれども十分な評価が得られないとか、認められないとかといったこと、報酬も関わってくるかもしれませんけれども、そういうことが心身の不調を発生するストレス要因になることが示されていたりします。
一方で、健康確保と労働生産性は必ずしも背反しないものだとも思っています。労働者の健康は生産性のベースですし、生産性と関連するポジティブな側面の指標としては、皆さんも御存じのとおり、ワークエンゲージメントといった指標とか、先ほど来出ておられると思いますが、満足感の問題とか、裁量の問題とか、ワーク・ライフ・バランスもそうだと思いますけれども、この制度が伸ばしていこうという側面はぜひ伸ばしていって、健康確保措置の視点でもこういったことも含めて検討ができるとよろしいかと考えているところです。
3つ目で、本検討会の枠組みから外れていたら申し訳ないとも思うのですが、また、少し難しい問題もあるかもしれませんけれども、格差の課題は一つ検討しておく必要があるかと思っています。経済格差は、いわゆるマクロレベルでは、健康の社会的な決定要因という形で言われています。少なくともこの多様な自由度の高い働き方の方策が必要な方が取り残されることなくと申しますか、企業規模等において格差を広げないような形で導入されることを希望するものです。先ほどの調査の結果等を拝見しますと、被調査者の誤解もあるかもしれませんが、対象者の範囲に関して、年収等のことなども挙がっておりました。そういうところも念頭に置いて議論ができればと思っております。
その調査結果を見させていただきまして、幾つか追加をさせていただきます。1つ、深夜や休日に仕事を行っている、長時間労働や、休日を取りにくくなるといった苦情等のデータがありまして、2つほど考えるところがあります。
一つは、事業者側が適切な仕事の配分や労務管理を行えているかどうかという基本的な視点でございます。やらされている仕事になっていないか検討が行われる必要があるように思います。適用者、非適用者に分けると、十分に理解可能な形で回答がなされているように思いますけれども、こういったところで間違った運用がなされないようにということが一つ。
労働者の側からいくと、仕事から、身体的にも、心理的にも、きちんと離れることができるという概念を心理的なデタッチメントと言います。顧客を含めて、夜間・休日に入ってくるメールとか、そういうものにつながらない権利ということも欧米では言われておりますし、裁量が外的な要因とうまくバランスが取れるような形で仕事ができる制度になることが好ましいことかと思っています。
労働者の健康確保については、労働者自身も、正しい知識、認識、自律的な行動も必要という視点もあるべきだろうと思っています。労働者には、自身の雇用形態について正確な情報が与えられて、自ら適切な健康管理を行う必要があると思います。こちらは先ほどのデータですけれども、深夜・休日等に仕事をされている回答がありました。自分で働く時間を決められる点は尊重しつつ、自分自身で労働時間帯を選択する場合でも、例えば、不規則な生活や不規則な就業パターンは睡眠障害や疾病のリスクになりますので、こういったところも自律的にコントロールができるといいますか、是正ができるような正確な情報も提供されていくべきだろうと思っています。
先ほど、またこれもお話が出ていましたが、勤務場所の選択に関連すること、テレワーク等の在宅勤務に関する課題もあると思います。労働時間が、いわゆる仕事と私生活の境界が曖昧になって延びやすいという弊害も言われているのですけれども、これ以外にも幾つかのリスクファクターがあります。例えば、孤独に陥りやすいとか、サポートを受け入れられないとか、そういったことは、在宅勤務、テレワークの非常に重要な視点と言われています。また、在宅の場合は、家庭の事情や人間工学的な状況で必ずしも好ましくない就業環境でお仕事をするということは健康上の課題にもなりますので、この検討会自体の枠組みになるかどうかは分かりませんけれども、課題として挙げさせていただいております。
今後の解析の視点で2点ほど話して終わりたいと思いますけれども、健康確保措置の実施率や制度に関する労働者の満足度等に関しては、先ほどいろいろな属性で検討されるということがありましたけれども、企業規模なども関連している可能性があるのではないかと考えます。この企業規模別の解析になりますと、健康確保の措置の実施率とか、みなし労働時間が分からないといった差異や労働者の認知に関連しても示唆が得られる可能性があるのではないかと認識しております。今後の解析に関して、格差対策等にも関わることで役立てられると好ましいかと思っております。
労働者の意見を拝見しますと、労働者の健康やワーク・ライフ・バランスへの配慮に関して、まだまだ伸び代があるように思いますので、こういったところでもしいろいろな情報が入るようでしたら、検討させていただきたいと思っております。以上でございます。」(第1回「これからの労働時間制度に関する検討会」議事録抜粋)
第1回「これからの労働時間制度に関する検討会」議事録