冒険とか探検とかとは、まったく無縁の人生を送ってきましたが、他人(ひと)の冒険譚を読んだりするのは、好きなほうです。自分が行くわけじゃないので、危険が多ければ多いほど、血が騒ぐという困った性格。そんな私にぴったりの本と、最近出会いましたので、ご紹介します。
中米ホンジュラスの東部に、モスキティアと呼ばれる広大な地域があります。
面積は、8万平方キロもあり、雨林、湿原、沼、川、山が続くなど、自然環境が極めて厳しい地域です。
なにしろ、ベテランの調査隊が、1日10時間、大鉈やノコギリを振るっても、せいぜい3~5kmほどしか進めないというほど。
その広大な地域の一角に、幻の都市遺跡があるとの噂が、古くから言い伝えられています。
スペインの探検家コルテスが、モスキティアに大都市の遺跡らしきものがあると国王に報告したのが、500年ほど前のことです。幻の「白い都市(シウダー・ブランカ)」として、幾多の冒険家を引きつけ、小規模な遺構や遺物も発見されていました。
そんな殆ど未知、未開と言っていいところへ、最新の科学装置も利用して、探検した顛末を描いたのが「猿神のロスト・シティ」(ダグラス・プレストン NHK出版)という本です。
副題に「地上最期の秘境に眠る謎の文明を探せ」とあります。帯には、「21世紀にこんな冒険がありえるのか!?」とあって、なかなか煽(あお)ってくれます。
今回のプロジェクトでは、まず、「ライダー」と呼ばれる最新の装置で、密林に覆われた地表の状況を、空から探査し。候補地を3カ所に絞り込みます。あとは、現地を踏査して調べるしかないわけで、アメリカ人考古学者、生物学者、ジャーナリストなどを中心に調査隊が組織されました。
で、アメリカ人を中心に、プロジェクトが動き出すのですが、そもそも、ホンジュラスという国自体が大変なところ。
殺人事件の発生率が世界一。アメリカに流れ込むコカインの80%が、ホンジュラス産で、モスキティア経由で密輸されます。だから、モスキティア地方一帯は、麻薬組織の支配下にあり、極めて治安が悪いのです。
現地入りの拠点となるホテルで、ウッディと呼ばれるジャングルでの戦闘、サバイバルの専門家から、隊員が申し渡されたのは、「武器を持った護衛なしでの外出厳禁」「ホテルの従業員がいるところで、プロジェクトの話をするのも禁止」「公衆の面前での携帯電話使用も禁止」など。
現地に入る前から、対策は始まっているというわけです。
さて、ジャングルに入ってからの注意事項もいろいろ申し渡されます。
最大の危険は毒ヘビです。この地域にいるフェルドランスというヘビは、恐ろしい。毒牙から、1.8m以上毒を飛ばすし、どんな分厚い革ブーツでも突き破る。一度襲ったあと、再び襲うこともあるという。だから、特製のヘビよけの着用は必須。
実際、現地では、何度かこのヘビに遭遇し、あわや、という事態に至っています。
昆虫も恐ろしい。サシハリアリに噛まれると、銃で打たれたくらいの痛みがあるという。
また、リーシュマニア原虫が寄生したハエに刺されて発祥する「白いハンセン病」も恐ろしい。鼻や唇の粘膜を侵し、顔に大きな「びらん」ができる。
木々の下生に大量に潜む凶暴なヒアリという蟻がいる(最近、日本でも、その存在が確認されました)。枝が少しでも揺れると、ヒアリは、雨のように降り注ぐ。下にいる人の髪の毛から首筋を伝い降りて、皮膚から毒を注入する。
そうなれば、すぐにジャングルから運びださいないと命にかかわる。
さて、軍のヘリコプターの協力も得て、3カ所のうち、2カ所の調査に入ります。ヘリが離着陸できるだけの場所を切り開き、その周辺を調査することなります。
そんな困難を乗り越えて、小規模なピラミッドらしきもの、都市の遺構、石像、祭壇らしきもの、などの発見には至ります。どうやら。周辺で栄えたインカ、マヤとは別の都市文化が存在したのは確からしい、との推測は成り立つものの、更なる調査が必要、というのが、結論です。
調査の成果と言いう面では、食い足りない部分が残ったものの、それを上回る危険話、冒険話が満載で、十分に楽しめました。
さて、帰国した探検隊のうち、4人が「白いハンセン病」を発症します。原因となる原虫の種類によって、治療も手探り状態。猛烈な副作用を伴う薬液の点滴で、とりあえずは、全員回復するのですが、再発のリスクは、抱えたままだというから、恐ろしい。
それでも、探検隊のメンバーの中には、「また行きたい」「もっと探査したい」と言う人がいるというのですから、アメリカ人って、ホントに「困った」人たちですが、その冒険魂には、ほとほと頭が下がります。
いかがでしたか?次回をお楽しみに。