<北海道新聞社説>
香港の次期行政長官選挙で中国政府が事実上、民主派を排除する実施案を決めたことに反対する大規模な抗議行動が続いている。香港中心部の幹線道路を占拠していた学生や市民はきのう、政府庁舎を包囲し、行政機能がまひした。デモ隊は実施案の撤回や親中国色が強い梁振英行政長官の辞任を求めている。
当局は実力行使の構えを崩しておらず、民主化を求める学生たちを武力弾圧した天安門事件を想起する香港市民も少なくない。断じてあってはならない事態だ。
「一国二制度」の下、香港には高度な自治が保障され、憲法に当たる香港基本法は普通選挙の導入を認めている。
それを骨抜きにしようとする習近平体制への香港市民の怒りはもっともだ。思想信条にとらわれず、だれもが立候補できる真の普通選挙実現が求められる。
梁長官は辞任を拒否する一方、ナンバー2の林鄭月娥政務官がデモ隊との対話に応じる考えを示した。誠実に対話に応じ、中国政府に学生らの思いを伝えるべきだ。
全国人民代表大会(全人代)が決定した実施案は18歳以上の有権者の直接選挙をうたっている。
立候補者は各界代表の1200人で構成される「指名委員会」で過半数の推薦が必要なうえ、最大3人までに絞られる。委員会は親中派が多数を占めるのは確実だ。
これに対し、民主派は一定数の市民からの推薦があれば立候補できる制度を主張している。
法制化には香港立法会(議会)の3分の2以上の賛成が必要とはいえ、中国当局にとって好ましくない人物を排除する姿勢自体が民主主義と相いれない。
中国政府はデモの中国本土への波及を恐れている。デモの様子は報道されず、インターネット上でも厳しく規制している。
極端な貧富の格差拡大や腐敗の蔓延(まんえん)など国内の矛盾に目をつぶり、香港の自治を後退させようとする習政権の行為は本末転倒だ。
デモ参加者には、香港の「中国化」が進み、言論や政治活動の自由など民主主義の基盤が脅かされるとの危機感がある。
オバマ米大統領は中国の王毅外相との会談で、デモ支持の考えを示したのに対し、外相は内政干渉と強く反発した。だが、高度な自治は香港返還を定めた中英共同宣言で約束したはずだ。
国際金融センター・香港の輝きを失わせてはならない。習政権の対応が厳しく問われる。
<信濃毎日新聞社説>香港のデモ 民衆に向き合い解決を
民主的な選挙の実現を求める香港の学生、市民らの訴えは何ら不当なものではない。香港政府と中国は、高まる声に向き合い、対話を通じて事態の収拾を図るべきだ。次期行政長官選挙の制度改革に反発する抗議活動が拡大。学生らが中心部数カ所の幹線道路を何日にもわたって占拠し、1997年に英国から中国に返還されて以来、最大の混乱となった。国慶節(中国の建国記念日)で休日となった1日は、市民ら数万人が参加し、デモを続けた。
香港政府トップの行政長官はこれまで、経済界代表などで構成する選挙委員会の間接選挙で決まってきた。2017年の次回選挙からこれを改め、住民が直接投票する「普通選挙」を導入する方針を、中国の全国人民代表大会(全人代)が8月末に決めた。
ただ、新設する指名委員会で過半数の支持を得ないと立候補することができない。指名委員会は選挙委員会と同様に親中派が多数を占めるとみられ、民主派の候補は事実上締め出される。民主派が提案した、一定の市民の推薦があれば立候補できる制度は実現しなかった。抗議活動は、新たな制度は普通選挙とは言えないとして撤回を求めている。
香港は返還にあたって「高度な自治」を50年間保障された。「一国二制度」の考え方の下、中国とは異なる社会制度が認められている。行政長官選は、憲法にあたる香港基本法で、直接選挙に移行することが想定されていた。
中国は6月に発表した白書で、香港の全面的な管轄統治権を持つことを強調。自治は中央が与えた地方事務の管理権にすぎないとした。強い姿勢の背景には、民主化の動きが国内に波及することへの警戒感がある。しかし、強圧的な態度は、香港の人々の反発と不信を招くだけだ。
中国政府は、一国二制度による自治を形骸化させる姿勢を改めるべきだ。