なかなか興味深い分析と指摘です。浜教授は優れた経済学者であると同時に、政治の経済、文化に果たす役割との関係で積極的な情報発信、発言をしている点でも優れています。ここで指摘しているように、言葉の遊びではなく、安倍、自民党極右政権、彼らを取り巻く勢力が何をねらっているのかを鋭く見抜く力が求められているのだと思います。
集団的自衛権行使容認、憲法9条の否定、靖国神社の参拝など侵略戦争の肯定、軍国主義復活を目指す政権の本質を隠す御用マスコミ、御用学者、経団連などの宣伝、恫喝に負けない正当な批判を展開することにこそ歴史的な意味と、重要さがあるとしみじみ感じます。
<毎日新聞>危機の真相:女性の活躍の魂胆は 有効活用の果てに 浜矩子
またまた、本紙の仲畑流万能川柳の中に、名句をみつけてしまった。いわく「活用をするものなのか女性って」(9月13日掲載)。こういう具合に、ズバリ本質を突いてくる。それが、ここに登場する詠み手の何とも頼もしいところだ。
時あたかも、臨時国会に「女性が活躍できる社会環境の整備の総合的かつ集中的な推進に関する法律案」(女性活躍推進法案)が上程されている。ご覧の通り、ここで使われている言葉は「活躍」だ。「活用」ではない。
安倍政権は、女性に関わる政策に関して、ある時から、この「活用」という言葉を慎重に避けるようになった。誰かの入れ知恵かもしれない。今回、女性登用の観点から新たに設けられた閣僚ポストも、その名称は「女性活躍担当大臣」だ。「女性を『活用』する。そのようなおこがましいことは、毛頭考えておりません」。いかにも、そう言いたげな雰囲気が伝わってくる。
「あの人、ちょっと否定し過ぎじゃない?」。シェークスピア悲劇の代表作、「ハムレット」に登場する有名な一節だ。不倫中の母親に、ハムレットが自作の芝居をみせる。夫である国王の死を、王妃が嘆く場面だ。彼女は声高に繰り返す。「私、決して再婚などいたしませんわ」。この愁嘆場をみて、ハムレットの母君が、上の言葉を発する。劇中の「否定し過ぎ」女のモデルが、自分であることも知らずに。
「活躍」も、あまり言い立て過ぎると、その裏側にある「活用」の魂胆が、かえって透けて見えてくる。そこが、あの鋭き万柳人の感性に嗅ぎつけられてしまったのだろう。女性の活躍プロモーションは結構だ。「女性が輝く社会」を目指すというのも、それ自体としては、否定すべき筋合いの課題設定ではない。
ただ、問題は何のための活躍で、何のための輝きかということである。女性活躍推進法案をみてみよう。「……社会の担い手の確保並びに多様な人材の活用及び登用により我が国の経済社会の持続的な発展を図るためには、……女性がその有する能力を最大限に発揮できるようにすることが重要であることに鑑み、女性が活躍できる社会環境の整備について、その基本理念その他の基本となる事項を定める」と書かれている。
また、6月末に公表された政府の「『日本再興戦略』改訂2014〜未来への挑戦〜」には、次のように書かれている。「……人口減少社会への突入を前に、女性や高齢者が働きやすく、また、意欲と能力のある若者が将来に希望が持てるような環境を作ることで、いかにして労働力人口を維持し、また労働生産性を上げていけるかどうかが、日本が成長を持続していけるかどうかの鍵を握っている」
ご覧の通りだ。何のために女性が活躍することを期待されているのか。それは「我が国の経済社会の持続的な発展」のためだ。なぜ、女性が輝く社会が必要なのか。要するに「労働力人口を維持し、労働生産性を上げていけるかどうかが、日本が成長を持続していけるかどうかの鍵を握っている」からなのである。
端的にいって、これは女性という「財」の有効利用宣言だ。女性たちに大動員をかけることで「強い日本を取り戻す」という安倍政権の野望達成に役立てようというわけである。
政府は、20年までに指導的地位を占める女性の割合を3割まで引き上げるといっている。意欲的な目標を掲げることも結構だ。だが、問題はその背後にある意図だ。現状において、日本で指導的地位を占める女性の割合はお話にならないほど低い。だから、それを引き上げようというのはいい。だが、どうも、現政権はこのテーマをいわゆる「人的資源」の過少利用問題としてしかとらえていない模様だ。
女性が指導的地位につくことに、かくもバリアーがある。そこには、やはり人権問題がある。そう受け止める発想がどこにも見受けられない。女性を巡っては、女性の貧困問題という実に大きな人権上の課題もある。先進国と呼ばれながら、その名に恥ずべき状態がある。それは資源の過少活用問題ではない。人間の尊厳や生存権に関わる問題だ。
この辺の意識が希薄だから、女性議員が女性問題について発言したりすると、たちどころに、それこそ恥ずべき現象が起きる。途方もなく低俗なヤジが議場を飛び交うことになる。こんな状態が野放しになっている中で、女性の活躍や女性の輝きを語るというのは、どこかが狂っている。
活躍の名の下に展開される動員作戦に巻き込まれると、一体どこへ連れていかれてしまうのだろう。「女性輝きブラックランド」。そんな名前のテーマパークのイメージが浮かんでくる。高速回転木馬の上で踊らされるのが、「輝く」女性たち。回転木馬を手こぎで必死に回しているのが、「輝かない」女性たち。そんな怖いテーマパークにおびき寄せられてはいけない。
==============
■人物略歴 ◇はま・のりこ 同志社大教授。