通夜を知らせるはがきを送って来たのは孝行が高校の時思いを寄せていた、チーコ(千鶴子)であった。
「それにしても知らなかったな・・・続いていたんだ、ずっと。・・・そういえば差出人は田中千鶴子だったもんな。でも結びつかなかった、まさか一緒になってるなんて・・・」
「キートン、よく来てくれたわね、有難う。あの人も喜ぶわ。・・・会いたいって言ってたの、あの頃の仲間ともう一度会いたいって・・・」
彼女の変貌に47年歳月をつくづく感じるキートンであった。
キートン 「最初は誰だか分からなかった。やけに親しげな婆さんだなって思った
んだ。それが・・・驚いたなんてもんじゃない、信じられなかったよ。・・・通夜
ぶるまいの席で子供や孫に差配して、気丈にあいさつ回りをしていたあの婆さんが
チーコだったなんて。おかげで頭の中にかすかに残っていたあの高校時代の面影が
すっ飛んでしまった。・・・あのチーコがさ。・・・時間ってのは残酷だな。でも
まあ、冷静になって考えりゃそうなんだ。四十・・・七年、そうか・・四十七年
だ。四十七年。・・すげえ時間だ。・・・そういえば棺桶の中のマサルを見たと
き、誰だこのジジイはって思ったもんな。・・・(自嘲)マサルもそう思ってる
か、誰だこのジジイはって。あいつと最後にあったのは二十五年前の四十の時だも
んな。お互いまだまだ若かった」
思いでは思い出を呼ぶ。
キートンは卒業アルバムを取り出し当時の思い出にふける。
そのうちキートンはマサルとの最後に別れた時の出来事を思い出すのだった。
キートン「久しぶりだな、これ見るの。四十五年前か(ページをめくる)・・・そうそう、こういう校舎だったな。校舎は丘の上だった。白樺の並木道のダラダラ坂を上って行くと校門があって・・・・。うん、そうだ。今でもはっきり覚えているよ、あの時のお前の姿を。・・・卒業式の後の追い出しだった。式を終えた俺達は卒業証書を手に校舎に別れを告げ、下級生の見送りを受けながらあの白樺の並木道を歩いた。確かあの日は季節外れの暖かさで、そこら中に雪解けの水溜りがあって、ダラダラ坂には何本ものせせらぎが流れているようだった。そこに強い日差しが反射してキラキラと輝き、俺達の感傷的な行進を包んでいた。行進が校門にさしかかったその時だ、その時、突然お前は大声を張り上げて走り出した。何人かがお前の後に続いて叫びながら走って行った。不意を突かれて俺は呆然と見ているだけだった。・・・あばよ・・・確か、あばよって言った様だった。お前は校門から下るダラダラ坂を一気に駆け下って行った。キラキラと輝く水溜りを飛び越す姿は、まるで明るい未来へ一番乗りを目指す短距離ランナーの様だった。光っていたよ、お前。憎しみの対象だったお前を、憧れの目つきで見ている俺がいた」
その思い出話に誘われる様に人影が現れる。
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続く。
写真 鏡田伸幸
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