エスせんブログ

ラノベ好きなB級小学校教師のエスせんが、教育中心に色々語るブログです。少しでも面白ければ「いいね」御願いします。

王道時代劇+αの面白さ『幕府密命弁財船・疾渡丸』

2024-09-05 04:30:34 | ライトノベル
 木曜はラノベ愛語り…なのですが、今回は(今回も)ラノベではありません。時代小説を紹介します。
 今回紹介する作品は、早川隆先生の『幕府密命弁財船・疾渡丸(一)』です。中公文庫から令和6年8月20日に発売となりました。

子供と大人を主役に据えた漫遊物
 物語は、物品・金銭・人物・情報が集まる各地の湊(ミナト)へ向かい、天下太平を乱す動きを封じる密命を受けた疾渡丸(ハヤトマル)の乗組員達が活躍する…と言う内容です。各地を旅して悪を討つと言えば、「水戸黄門」などと同じ展開な訳で、時代劇の王道パターン「漫遊物」の仲間と言って良いと思います。まぁ、気ままに旅している訳ではなさそうなので、純然たる「漫遊」とは言えないかもしれませんが…。
 この手の作品らしく、本作の登場人物は個性的で魅力的です。それぞれが各地の湊で活躍するのでしょうが、1巻目に掲載されている2つの物語、「那珂湊・船出の刻(トキ)」と「銚子湊・巾着切(キンチャクギリ)」を読む限り、主人公は2名のようです。
 1人目は船頭(船長)の虎之介。経験豊富で船を操る腕が良く、なかなか情に厚い感じの人です。船に乗っている幕府の隠密・仁平とも親しく、互いに信頼し合っている様に感じられます。
 もう1人は、ひょんな事から疾渡丸の炊(カシキ)として雇われた鉄兵。父親を海で亡くし、母が寺に預けた結果、那珂湊(ナカミナト)で暮らす孤児となった少年です。観察眼が鋭く、頭が良く回り、度胸もあります。
 この2名を主人公と考えたのは、物語の中で両名それぞれに、心を動かす出会いがあったからです。この2名以外の登場人物も、色々と出会いがありますが、2つの物語の両方で出会いがあったと言う点で、本作(第1巻)では、この2名が主人公と私は考えます。
 因みに、主人公の定義は色々とあるのですが、今回採用した定義は、昔々に受けた研修会で教わった「作品の中で心情に変化が発生した登場人物」を基にして考えています。この考え方ですと、『ごんぎつね』の主人公は「ごん」ですし、『大造じいさんとがん』の主人公は「大造じいさん」となる訳です。
 片方の主人公に少年である鉄兵を配置した事により、この物語は単なる「漫遊物」ではなく、少年の成長物語の要素も含んできます。「江戸時代が舞台で湊から湊への旅」と「未来が舞台で駅から駅への旅」と言う違いはありますが、大枠で考えると『銀河鉄道999(スリーナイン)(以下、999と略記)』に似ているかもしれません。

子供時代と決別し少年は旅立つ「那珂湊・船出の刻(トキ)」
 第1巻の第1話と言う事で、この物語は疾渡丸が完成し、船出するまでの物語です。
 ここでは、鉄兵と疾渡丸の乗組員たちが出会う話と、虎之介と父親が再会する話が、縦糸と横糸の様に物語を紡いでいきます。この2つの話、何の関連もなく進んで行くのですが、最後のクライマックスである船出の場面で重なり合ってきます。
 ネタバレになるので、これ以上は書けません。気になる方は、是非とも本作を読んでみてください。
 鉄兵だけに絞って書くと、疾渡丸で船出すると言う事は、これまで一緒に生活していた孤児仲間との別れを意味しています。それは同時に、他者の力に頼って生きてきた子供時代と決別し、自分の力で生きていく事を選択した事も意味しています。
 本作では、その選択と決断に相応しい、門出を祝う…いや、門出を応援する様な場面が展開されます。その場面で重要な要素に「波」と「しぶき」があるのですが、それを読んでいて私は、「銀河漂流バイファム(以下、バイファムと略記)」の最終回を思い出してしまいました。
 バイファムでは、地球に戻る子供たちと、異星人の星に行って両親の探す子供たちが、それぞれの宇宙船に乗って別れます。その際、地球に戻る子供たちの宇宙船から、大量の紙ヒコーキが発射されます。賛否両論でしたが、異星に向けて旅立つ仲間に向けた応援のメッセージとして、無数の紙ヒコーキが宇宙空間を飛んでいく場面…最高に感動的だったと思います。
 話を「那珂湊・船出の刻」に戻します。疾渡丸が船出する際の波、その後のしぶき…それらが、私の中でバイファムの紙ヒコーキと重なってしまいました。
 どちらも子供時代と決別して旅立つ場面であり、その門出を応援するかの様に船の周りに広がっています。紙ヒコーキも、しぶきも。何と美しく、何と優しい場面なのか…いい歳をした「おじさん」ですが、ぐっと来て目頭が熱くなってしまいました(でもって、読んでいる頭の中には、バイファムの紙ヒコーキ場面で流れていた「君はス・テ・キ」が流れている…笑)。
 もう、この第1話だけでハート鷲摑みです。

子供の出会い・大人の再会「銚子湊・巾着切(キンチャクギリ)」
 続く第2話は、急いで船出したため準備不足だった疾渡丸が、銚子湊に寄港した事で事件に巻き込まれる…と言う話です。
 この第2話では主人公の2名に、それぞれ出会いがあります。鉄兵は巾着切、つまりスリの少年と出会い、虎之介は旧友と再会します。
 この2つの出会いは、最初は別々の話として進みますが、後半になると少しずつ絡み合ってきます。ネタバレになるので、これ以上の詳述は避け、また鉄兵に絞って書きます。
 巾着切と鉄兵の出会いの場面、ここは追跡アクション場面となっています。そこを読んでいくと、鉄兵の観察眼の鋭さや頭の回転の良さが、読者にも伝わってきます。また、巾着切を捕まえた後の鉄兵の態度は、彼が他者への敬意を持ち合わせている、なかなか立派な性格の少年だと感じさせます。
 そんな鉄兵と巾着切の間に、ある種の友情が生まれてくるのは自然な感じで、無理のない展開だと私は思いました。だから事件が片付いた後、銚子湊から出て行く疾渡丸の鉄兵に向け、巾着切が飛び跳ねて何かを伝えようとしている場面、これも自然で微笑ましいと感じました。
 そして、ここで私の頭に思い浮かんだのが999です。
 訪れた星々で様々な出会いがあり、事件があり、それらを通して成長する主人公の星野鉄郎…ん? 鉄郎? 疾渡丸に乗ってるのは鉄兵。似ている…もしかして、作者の早川先生も意識して命名したのでは?
 単なる「おじさん」の思い込みかもしれませんが、「江戸時代が舞台で湊から湊への旅」と「未来が舞台で駅から駅への旅」は、かなり意識されているのかもしれません。そんな事を考えると、第2巻以降の展開が非常に気になる作品です。
 …と言う事で、この最終段落まで読んでくださった皆様、本当にありがとうございます。今日または明日、皆様が良い一日を過ごせるよう願ってます。

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