湖の子守唄

琵琶湖・湖北での生活、四季おりおりの
風景の移り変わり、旅先でのふれ逢いなど、
つれづれなるままに、語りたい。

喫茶店「ロコ」女主人

2012年06月30日 | 詩歌・歳時記

                長良川

湖岸沿いに北上して行くと、道の駅が三つある。この季節、産直のトマトを欠かさないように

している。畑で完熟させた、朝採りの太陽をいっぱいに吸った真っ赤なトマト。スーパーのとは、

まったく味が違います。 美味いトマトをかじっていると、浮かんでくる面影がひとつある。

          つばくろや木曾はさすがに夕べ冷へ

          鶯や余呉湖鏡のごとく照る

ぴったり40年前のこと。長良川のほとりのボロ・アパートで同棲していた。

彼女のアルバイト先を探すため、柳ヶ瀬の町を散歩していた。手を握って歩くだけで、

幸せな時代。市電通りに、実に感じの良い喫茶店を見つけた。表に「ウェートレス募集」の

張り紙が・・・・。茶色で統一されたシックなお店、喫茶店「ロコ」であった。           

            岐阜城

理知的で、聡明で、美しいママさんだった。毎日、入り浸っては詩をかく日々の始まりだった。

ママの作るサンドイッチが素晴らしかった。厚めに切ったトマトの味を、今も覚えている。

 

やがて、3つの詩に曲がつき、フォークのグループのデビュー・アルバムに採用されるという、

そしてその中の一曲がシングル盤として、彼らのデビュー曲と決まったという、嬉しい知らせが

届き、二人で一躍、上京したのだった。

          湖暗し漁村を照らす桐の花

          卯の花のけだるく重き県境

今も忘れた頃に電話すると、少し甲高い、早口で近況を尋ねてくださる。

湖北を案内した時も、いつもそうであるように、黒いセーターに銀のペンダント・・・・。

テレビで、アウン・サン・スーチィーさんを見るたびに、ママさんの面影が浮かぶのである。

40年前の、疼くような日々を想いおこさせる、トマトの赤とその味わいであることだ。

          

          


活字中毒!! 復活

2012年06月24日 | 詩歌・歳時記

姉川源流 

母の葬儀を終えて、虚脱してしまった。 本を読む気にもならず、と、言うよりも読むべき本がない、

状態でした。 池波さん、五木さん、司馬さん、清張・・・・片っ端から読み漁ったわけで、

今更、森村誠一でもありますまい。 ただ一人の作家は心のどっかに引っかかっていた。

          手のひらにうかぶ面影

          お守りを握りて歩む

          霧のブリッジ             映画「哀愁」ビビアン・リー

30年の昔にもなるのかな。「ベルリン飛行指令」「エトロフ発緊急電」その他を夢中で読んだ、

佐々木譲。 この作家の緻密で、緊張感に充ちた、さまざまなプロットが終末に向けて、盛り上がる

サスペンス・・・・。 若かったんですね。大いに楽しみました。

          音楽は

          言葉を超えて伝え合ふ

          海見る丘に眠るおん母     映画「星のフラメンコ」西郷輝彦

                        

時を経て、佐々木譲は「警察小説」の連作を発表。評判になっていたのは知っていたけれど、

60歳をこえて、あの文体について行くのは、ちょと辛いと思っていた。

ある日、書店で平積みの文庫本 「廃墟に乞う」 を見つけた。北海道を舞台にした刑事もの。

しかも、連作短編集だった。禁断のアヘンを吸ってしまった、魔窟への入り口だった・・・・・。

          十字架は古き扉を閉ざすため

          新しき世へ

          愛よ、旅立て!!               映画「卒業」ダスティン・ホフマン

毎日、一冊。 釧路、札幌、旭川・・・・図書館と湖畔、山野との往復であった。時には、深夜まで。

朝、起きたら、眼が痛い、開けていられない。洗面所の鏡をみたら、充血して真っ赤だった。

濡れタオルを眼に当てて、一日寝ていた。ちょっと少しの負荷を身体に与えただけで、

テキメンにどっかが、痛くなる・・・・わが年令を感じた瞬間でした。

そう言いながら、今日も一冊 「密売人」、楽しく読みきりいたしました。

  

 


白い本

2012年06月18日 | 詩歌・歳時記

                伊根の船屋

各地に出撃しては、四季折々に創っている短歌・俳句は、スマホに書き溜めている。

「メモ帳」にある程度溜まったら、それを「白い本」に書き移しているのだが、

最期のページも一杯になってしまった。

年末から正月にかけて、書店の「日記コーナー」で探し、買い求めた、新しい

「白い本」へ書いたところが、何か? 変!! 万年筆の滑りが悪い。そして、ナント裏映りする。

          ひと株のリラに出逢ひて

          麗しの

          君の五月はここに始まる

即、出版元の「二見書房」の営業部へ電話した。 ナント。去年から「紙質」を替えたとか。

あのなぁー、値段を上げてもいいからさ、紙質を下げるなよ。がっかりしたのも束の間!!

でね、アマゾンを検索!! あった、ありました。

 天空の城・竹田城址

以前の古い版の「白い本」を、みっ~け!! 即、発注。ペンの乗りもよい昔ながらの白い本を、

手に入れました。

          枝垂れ咲く

          道誉ざくらの儚さは

          いのちにも似て淡きうす紅

次の日、今度は俳句用の「白い本」を発注!! 

あれれ・・・去年の版ではないか!! 万年筆を立てて細い字を書いて、裏映りしないように

注意深く・・・・・文字を書いている快感なんて、ありゃーしない!!

二見書房さんへ、社長さんへ、いやさ、社長!!。 たとえ1050円が2100円になったとしても、

昔の紙質の「白い本」なら、わたしゃぁー喜んで買うんでござんすですよ。

          白鷺の低く飛び去る

          湖はいま

          覆ふ黄砂に彩をうしなふ

 出石・辰鼓楼

 


草競馬流浪記 ②

2012年06月12日 | 詩歌・歳時記

            奥伊吹への道

古いセピア色のアルバムを、繰っていると・・・満州の大平原で馬に騎乗している父の勇姿が

顕われる。それに引き換え、息子の私は馬券を握り締めて、馬の疾走に見入っている。

隔世の感がある。 パソコンを開いて、南関競馬のライブ・シーンを見る。

「ジャパンネット銀行」に入金をしてさえいれば、北海道競馬、東北の水沢競馬、等々買えるの

だ。すごい時代になったものである。 

          いざゆかな

          蜃気楼の見える町

          父のみたまにあひまみゆ土地

けれど、パソコンの画面の馬たちは、蹄の音もせず、いななきも聞こえない。馬や厩舎の情報も

皆無である。大金を張れるはずもない。私も完璧に冷静である。ひとレース、千円。

           

3頭か4頭を選んで、ボックス馬券を買う・・・・と言うのか、ボタンをプシュ!! ではあるが。

これが、結構当たるのです。 中央競馬では千円単位で買う。当然、欲と二人連れ。

だが、ネットの競馬は紙芝居を楽しむ感じ・・・・。

結婚を悩む女性に提案したい。彼と競馬場へ行きなさい。

 奥伊吹・甲津原

男が、普段の創った顔をかなぐり捨てるのが、競馬場ですよ。

冷静な奴が、血走った目で馬を見る。或いは、レースを見るだけで賭けない奴が、

ここ一番で大金を投ずる。 競馬場は、男が丸裸になる処です。

それを、「ロマン」と言い換えて、胸を張る場所でもあります。

       


草競馬流浪記 ①

2012年06月06日 | 詩歌・歳時記

            彦根・湖岸

あれは20代から30にかけての頃のお話し。 作詞家ではメシが食えず、あまつさえ幼子が二人。

とにかく金銭に飢えていた。そこへ「競馬」と巡り会った。巡り会って・・・しまった、と言うべきか。

毎週、土日は府中競馬場へ出撃した。1レースから最終レースまで、大金を夢見て馬券を張った

訳けだが、今でなら、儲かるはずがないと解かることでも・・・・若かったのですね。

          春日山まさに山城青き踏む

          毘沙門の祈りに芽吹く古城かな

病が昂じて、平日も大井・浦和競馬場にまで出勤する。持ち金が10倍に増えたのは、何回に

1回だっただろうか?  万馬券が的中して、一時、息を吹き返す・・・その快感を求めたのだ。

        我が愛しの・メジロファントム

山口瞳さんの名著に「草競馬流浪記」がある。瞳さんが、その時折、編集者や友だちと

日本中の地方競馬場を、巡り歩き、勝負して、土地の風と匂いを著わした読み物である。

もう表紙がぼろぼろになってしまった、新潮文庫本だ。

          風ひかる健やかなるや誕生日

          風薫る君の湖北は湖の上

「7月9日、木曜日。川崎競馬場に行くことになった。川崎、船橋、大井、浦和。

 これを南関東4競馬場、略して南関四場と称す」

                   

競馬は、ギャンブルではあるけれど、向き合い方によっては、文化ともなる。

それを教えて、熱い頭に冷水をぶっかけてくださったのが、山口瞳さんと巨泉さんである。