醒ヶ井・地蔵川
「きれいな若葉やなぁ」と
畑仕事の腰に手を当てて おかんは、一本杉のあたりを見やはる
額のしわには 僕たちの親不孝が刻まれて
おかんの影が池にゆれてる
膝のあたりでパクパクやってるんは 僕たち兄弟のような虹鱒の稚魚だ
苗を植えては地べたの神に 一心に祈る
それがおかんの農業 大秘訣なんやて
親元で借りてる めめんかすほどの畑かて
村一番の大とまと 村一番の大すいか
化学肥料を使わんといて そりゃア不思議と、隣のおばはん
そやけど 僕たちだけは
おかんよ 信じてるで
一鍬ごとにこめてはる おかんの真心
無にせえへんで これからの人生に
「目に沁みるようやなぁ」 と
めっきり弱った両の眼 しばたいて
おかんは帰郷の息子たちに
豆を採る