生ごみの再資源化の用途としては、Food(食べ物)やFiber(繊維)は難しいかも知れないが、Feed(飼料)、Fertilizer(肥料)、Fuel(燃料)がある。燃料利用では、メタン発酵によるバイオガス、エタノール発酵によるエタノール製造、エステル化におるバイオディーゼル化等がある。また、炭にしたり、他のごみと混ぜて圧縮成型を行いRDF(ごみ固形燃料)として利用する場合もある。ただし、生ごみは組成が安定しなく、また発生量も変動しやすい原料であるため、飛躍的に再資源化が進むものではない。
そうした中、堆肥化と環境保全型農業での利用を行う地域が増えてきている。最も早い時期から、堆肥化を進めてきた事例としては、山形県長井市のレインボープランは有名である。ここでは、市民の研究機関である「快里(いいまち)デザイン研究所」における議論の中で、具体的な目標として有機肥料の自給と有機農産物の生産・流通が掲げられ、コンポストセンターの設置が想定された。これはあくまでまちづくりに対する市民の考えをまとめたものであった。
これを踏まえて、「台所と農業をつなぐながい計画(通称レインボープラン)」調査委員会が設立され、検討が進められた。当調査委員会のメンバー(調査研究員)は、農協、農家、商工会議所、婦人会・主婦、事業経営者等のほか、長井市の農林課、生活環境課、清掃事業所など関連部署の職員で構成され、計26名であった。この答申では、生ゴミを堆肥化し、その堆肥を農地に還元することによって「自然生態系に準じた農業」を進め、作られた農作物を市民に還元する計画(レインボープラン)の課題を取りまとめ、提言を行っている。
さらに長井市では、調査委員会の答申を受け、計画の具体化を目指すため「台所と農業をつなぐながい計画」推進委員会を、1992年に設立した。こうした初期段階でステイクホルダーの参加を徹底し、市民主導で検討を進めたことにより、生ごみの分別回収、あるいは再資源化した堆肥を用いた農産物の地域消費に対する理解が高まり、主体的な行動を引き出している。
また、福井県池田町は、家庭で発生する生ごみの回収を町民ボランティア(有償)の手で行っている。公募された町民がローテーションを組み、回収日に町内を回り、生ごみを回収するのである。生ごみは町内に一か所整備された堆肥化センターで、畜産糞尿とまぜて発酵処理される。製造された堆肥は町内の環境保全型農業で使われる。環境保全型農業による水田作付率は8割というから、まさに町ぐるみの有機物循環である。池田町のケースでは、もともと近隣関係の結合が強い地域にあって、地域住民の参加と連帯の上手く活かしている(詳細は後述)。
福岡県大木町の事例も地域環境力の向上に関する好事例である。ここでは、生ごみとし尿を原料にして、メタン発酵を行い、その副生物である消化液を液状の肥料(液肥)として利用する試みを定着させてきた。生ごみとし尿のメタン発酵は、京都府八木町で先行事例があったが、消化液の利用ができず、消化液の乾燥処理を進めていた。これは消化液のイメージが悪く、農家が利用したがらなかったためである。
この課題を解決し、消化液の堆肥利用を実現したのが大木町である。大木町の取組みは、中村修・遠藤はる奈「成功する生ごみ資源化」に報告されている。同書では、「消化液は化学成分的には肥料であるが、社会的にはまだ肥料ではない。そこで大木町では、消化液を魅力的な肥料にするために様々な活動を行ってきた。」として、肥料登録、液肥による実証栽培、散布サービス、液肥利用組合、農産物のブランド化・地産地消、学校での循環授業やシンポジウム等での啓発といった取組みを展開したことを紹介している。
そして、こうした循環のための取組みを「自然科学的な変換と対になるものとして、社会経済的変換、略して社会変換」と称している。さらに「社会変換は変換品(ここでは液肥あるいは液肥を利用した農産物)の経済的な価値を高めるだけではない。もう一つ大事なのが、「循環の取組みに誇りを持つ市民の育成である。」としている。実践経験を踏まえて、貴重な記述をされている。
生ごみの堆肥化に限らず、廃棄物リサイクルにおいては(あるいは地球温暖化防止の取組みも)、住民参加のしくみや住民意識を高めるしかけのデザインが不可欠である。社会変換技術、あるいはコミュニティ形成社会技術等、言葉の表現は多彩であるが、人間社会、地域社会の中で現実に循環を実現していくうえで、人の主体性や関係性を高めるような技術が必要なことは明らかである。
私は、地域環境力(地域住民の主体性と関係性の力)という視点が不可欠であると考えている。この地域環境力を活かし、高める技術の具体化にこだわってみたい。例えば、木質バイオマスの利用、再生可能エネルギーの導入、コミュニティバスの導入等について、「地域環境力技術」を具体的に抽出できればと思う。
参考文献:中村 修 ・ 遠藤 はる奈「成功する「生ごみ資源化」: ごみ処理コスト・肥料代激減」農山漁村文化協会 (2011/9/30)