環境省の委託調査で、「リペア」に関する実態調査を実施したことがある(2008年度)。リペアとは、①本来の機能が果たせなくなったものを、再び使えるように直す【修理】、②外見的な傷などを直す【補修】、③使用に差し障りはないが、長期使用に備えたメンテナンス・手入れを行う【維持】、④本来の性能に戻すだけでなく、さらに強化や工夫を加える【改良】こととして定義できる。
リペア等サービスを提供する主体は、修理・修繕専門業だけでなく、メーカーや小売店がリペアを行う場合もあれば、行政が中古品を回収した後にリユースに伴いリペアを行う場合もある。また、リペアを物の所有者・使用者自身が行う場合もある。リース・レンタル業者や回収業者自身も、リペア等サービスの実施主体となる
さて、3R施策といいながらも、リサイクルは進むが、なかなか進まないのがリペアである。サービス業基本調査のデータに示されるように、リペア市場は、バブル期に盛り上がりをみせ、その後減少し、近年にまた増大傾向にあった。リペアは、景気の変動を受けやすく、揺れ動いてきた産業である。景気停滞は、今ある古いものを修理して長く使うことを促し、リペア市場の形成を後押しするという見方もある。
反面、景気停滞により安価な商品の消費が進み、リペアを行わない使い捨て型の消費が進むという面も指摘されている。リペア等サービス業は、景気停滞が追い風とも向かい風ともなる業界であり、その風の受けとめ方を工夫すれば、市場を拡大させる余地はあると考えられる。つまり、景気停滞期にあって、今あるものを修理して長く使う節約生活のよさを上手く啓発することで、リペア産業の追い風を強めることが可能であると考えられる。
一方、委託調査で実施した消費者のアンケート調査結果では、「リペアを実施したことがない・わからない」とする比率は、かばん66%、家具61%、履物・靴52%、衣服43%、PC・カメラ42%、家電製品37%という結果である。ほとんどの国民がこれらの物を所有している状況を考えると、リペアの実施率を高める余地を残している。
では、リペアはなぜ実施されないか。非実施理由としてのリペアに関する情報の不完全さが回答された。「リペアをすれば使えることがわかっていても、買い換えることが多い」あるいは「リペアのことはあまり考えずに、壊れたり、不要になったら買い換えている」と回答した理由のうち、「リペアをする店を知らないから、リペアの方法がわからないから」とする回答が23%、「リペアをしても、物がよくなるかどうかわからない、安全・安心面で不安があるから」とする回答は20%である。つまり、リペアの方法や安全・安心面に係る情報の不完全さが、リペアの実施を阻害しているといえる。
また、リペア等サービス業へのヒアリングでは、靴修理業では、靴磨きや修理を劣位な行為と見なすようなマイナスイメージの払拭を課題とし、店のデザインにこだわってきたという声があった。また、衣服修理業においては、新たに設立した業界団体の名称を「ファッション・リフォーム」とする等、業界のイメージアップに努めている。このように、各業界として個別にリペアのイメージアップを図っているところであるが、リペアの実施率を高めるために、行政がリペア業界の普及啓発に取り組む意義はあると考えられる。行政が関与することで、信用度が高まり、普及啓発の効果は大きくなる。
3Rや地球温暖化対策に関する国民運動で既に実施してきているように、普及啓発・需要起のためには、国、地方公共団体、関連業界団体等が連携し、役割を分担した取り組みを進める。リペア等サービス業は、各事業所の規模も小さい場合が多いため、一般消費者の信頼を得た普及啓発等を行うために、行政が積極的に関与する必要がある。
そして、実際の需要を喚起するには、消費者の身近にある地方公共団体が、国と連携しつつ地域に密着した具体的な情報提供や、リペア関連事業者や地域の大学、関連NPO等と連携した普及活動が有効である。特に地方公共団体毎に整備されたリサイクルプラザが役割を持つものと考えられる。家具、自転車等のリユースやリペアに関する講習会を実施しているところも多く、その認知度を向上させるとともに、リペアに関する相談窓口を設けることも考えられる。