ソロモンの指輪
コンラート・ローレンツ 訳:日高敏隆
早川書房
なんか評判がよいロングセラーということで読んでみた。
動物学者による動物観察エッセイだが、犬猫におよばず、鳥も魚もげっ歯類も、実はけっこう人間くさいんだなと思った。いやこの言い方は正しくなくて、われわれ人間も「動物くさい」ということなのかもしれない(この「人間と動物」という二項対立的な言い方は人間は動物とは違うカテゴリーという西洋的見立てがあってちょっと抵抗があるのだが)。
つまり、人間っぽいなと思うような愛憎の気持ちとその表わし方、罪と罰の苛まれ方や赦し方、ストレスといやしの表れ、いたずらやごまかしなんてのは動物にも十分にみられるものであり、ということは、これは人間を含む動物一般が本来もつ性質ということなのだろう。
狭いゲージにとじこめられている豚や牛が感じているストレスは、実は同様のことをされる人間とさして変わらないという研究報告があった。
家で飼っていた鳥が、開いた窓から飛び立って帰ってこないのは、「逃げた」のではなく、「帰り道がわからなくなった」だけである、とも聞いたことがあって、同じことは本書でも出てくる。
外をうろつきまわる猫と、家の中で単体で飼われている猫では、後者のほうがニャーニャーじゃなくてなんか複雑な鳴き声になるという。うちにも猫がいるが、”うぉるゎるぐうわぁ”みたいな発声をする。耳に入ってくるコミュニケーションが人間のコトバしかなくなるので、自分も同じようなつもりで発声している、ということらしい。
だから、せちがらい人間と人間のコミュニケーションも、ペットにしむけるような愛情と眼差しですると案外、相手はいい気分になるかもしれない。そしてこちらも少々のことは許せる気になるかもしれない。なにかの記事で読んだが、仕事とか家事とかで同時多発的にしょうもない些事や呼び出しが発生しててんてこまいになったときは、あちこちで子猫がみゃーみゃーとヘルプを呼んでいると思えばイライラもなくなるとのことである。なるほどと思ったものだ。