UDデジタル教科書体
先週号のAERAの『現代の肖像』で,書体デザイナーの高田裕美さんが紹介されていた。
わたしは書体デザイナーという職業があるのを知らなかった。カミさんは知っていたと言い,考えてみると,世の中には字があふれていて,その形をデザインする人や会社があるのは当たり前のことである。まったく不明であったとしか言いようがない。
高田裕美さんは,標題にある「UDデジタル教科書体」を開発した方である。
先ず,ネット上で得た付焼刃で,そもそもこの書体とは何かということについて切開する。
UDはユニバーサルデザインの略で,あらゆる人ができるだけ独立して、安全かつ快適に利用できるように、製品や環境を設計するためのアプローチである。身体的な能力や制約、年齢、性別、文化的背景などの個人の違いを考慮し、多様な人々にとって包括的で包容的な設計を実現するよう志す。
UDデジタルは,UDの原則をデジタルの分野に応用した概念で,さらにUDデジタル教科書体については,この字体をリリースした高田裕美さんが所属する企業「モリサワ」のHPから引用する。
UDデジタル教科書体 の特徴
デジタル教科書をはじめとした ICT教育の現場に効果的なユニバーサルデザイン書体です。 筆書きの楷書ではなく硬筆やサインペンを意識し、手の動きを重視しています。書き方の方向や点・ハライの形状を保ちながらも、太さの強弱を抑えたデザインで、ロービジョン(弱視)、ディスレクシア(読み書き障害)に配慮しました。明朝体・ゴシック体などの従来の学参字形ではなく、教科書の現場に準じた書写に近い骨格にしました。
高田裕美さんは,絵本作家を目指して1983年に女子美術短期大学に入学したが,勉学の中で書体の構造や効果に興味を持ち,専攻科に進学する。そして,タイポスという字体の開発者で,彼女が憧れていた林隆男さんが経営する「タイプバンク」に入社して,製図用の烏口で1mmの間隔に重ならないように10本の線を引くというような厳しい修行に耐え,書体デザイナーとしての道を歩き始める。
2007年に,高齢者でも見やすい表示パネルの文字をという依頼をきっかけとして,UDフォントの研究にのめり込み,どうせ作るなら視覚障害者にも読める字体をと考えるようになる。ロービジョン研究家の慶応大学中野泰志教授のアドバイスを得て,視覚障碍者のいる現場を訪ね,実態を知ることに務める。そして,特別支援学校の状況を知り,UDデジタル教科書体の開発に乗り出す。
教科書には一般的なフォントと異なり,学習指導要綱の字形に沿うことが求められる。高田裕美さんは,各社の教科書から漢字から記号に至るまでの1万字を越える書体を手作業で洗い出して比較表を作り,中野教授の助けを得て実験も繰り返し,約1万5千字からなるUDデジタル教科書体がほぼ完成に至る。
しかし,2010年に,所属していた「タイプバンク」が経営不振に陥って「モリサワ」に吸収合併され,UDデジタル教科書体は,採算性からお蔵入りになってしまう。
夢をあきらめない高田裕美さんは,2016年に障碍者差別解消法が施行されたのを追い風に,役員に交渉して,2016年6月に「モリサワ」からUDデジタル教科書体をリリースさせた。
発達障害当事者で作家の西川幹之佑さんは,以前は1頁読むのに10分かかっていたのに,UDフォントだとすらすら読め,中学の時は小説を1日で読めるようになったと言っている。
リリース以来の7年間で,UDデジタル教科書体は,社会に着実に広がっている。しかし高田裕美さんは,「UDフォントを使えばUD が達成されたわけではない。媒体や方法によって見やすさは変わってくる。当事者が置かれている環境を考え,その人でなく社会の側にある障害を取り除いたとき,本当のUDが実現するのではないか」という。
わたしはワープロを使う時に,どんな字体で印刷するかを考えることはある,しかし,その判断の基準に,読む人の立場をどれだけ考えているだろうかと内省したい。UDは素晴らしい概念である。
なお,UDデジタル教科書体を知りたければ,Windows10以降のパソコンを開けてみればよい。OSで使われている文字はUDデジタル教科書体である。
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10ヶ月のアメリカ留学を終えて孫が帰ってきた。一回りたくましくなっていた。(羽田空港にて6月20日娘が撮影)
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