褐色の人魚姫
今日の朝日新聞の文化欄に,『アリエル論争 見えてくるものは 「リトル・マーメイド実写版」 アフリカ系俳優起用』と題する記事が載っていた。
人魚姫アリエルを描いたディズニーアニメを実写版にした映画に,アフリカ系の俳優が起用されていることをめぐる論争について,二人の識者のコメントが紹介されている。
この映画の監督は,「単にベストの人材を探しただけで,(中略)特定の意図は全くなかった」と述べている。
しかし,見た目の「違い」に,アメリカや日本で異論が生じ,”Not My Atriel”というハッシュタグが拡散し,人種差別的なコメントが相次いでいるという。
椙山女学園大学の水島和則教授は,「ハリウッドを中心にプリンセスは白人という認知が刻み込まれていて,新たな表象による反動が起きている」という。「そして,若い世代ほど有色人種の割合が増え,保守色の強い政治家たちは,白人が占めた役職を他の肌の色の人たちにとって代わられるのではと危惧している」と説明している。
専修大学の河野真太郎は,ディズニー自体が『プリンセス=白人』という像を観客に刷り込み,90年代になってアニメに非白人系のプリンセスが登場したが,実写化された「シンデレラ」などでは,アニメと同じ白人の俳優が起用されていることを指摘している。そして,アニメの『リトル・マーメイド』は,アンデルセンの童話をディズニー流に作ったもので,時代の変遷とともにキャラクター像が変化するのは自然なことだという。
表面的な見た目で反発する人は,アフリカ系の起用による多様性の見せ方は道徳的・規範的で押し付けがましく,抑圧的に見えるかもしれないが,『アニメ版を尊重したいだけで,黒人差別ではない』という差別を意図しない言動からこそ,差別は構造的に生じる,と河野さんは強調する。
この最後の指摘は重要である。プリンセス=白人という構図に差別は含まれているのであり,それを直視しないで「見た目を尊重したいだけ」というのは,逃げ口上になりかねない。
わたしは,人間はだれでも本質的に差別意識を内蔵していると思う。その意識と対自することによって,具象的な差別をなくして行けるのではないだろうか。
映画「リトル・マーメイド」は興行的に成功し,観客の94%が作品を肯定的に評価しているという。冒頭に引用した監督の言っていることが本当だとしたら,その意図は見事に成功したというべきであろう。
なお,わたしが観たディズニーの近作アニメは「アラジン」だけだが,プリンセスの肌の色は全く意識せず,昔観た「白雪姫」とはずいぶんプリンセスの表現が違うと感じただけであった。
2008年コペンハーゲンにて撮影
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