
最近、上の写真の本を読みました。寺田寅彦著『天災と国防』(講談社学術文庫 2011年)です。地球物理学者であり、随筆家としても著名な著者は「天災は忘れた頃にやってくる」という警句であまりにも有名です。本書は、著者が関東大震災の前後(1922年~23年)から、57歳で死去した1935年(昭和10年)までに著した災害に関する評論や随想などを、東日本大震災を機に編集・出版されたものです。その内容が全く古びておらず現代にも通用する内容ばかりで、むしろ悲しくなってきました。私たち人間が85年前から余り進歩していないことが分かってです。先ほどの警句そのままの文章は本書にはありませんが、警句の内容を詳細に掘り下げた論稿で構成されています。題名の意図は「日本のような特殊な天然の敵を四面に控えた国では、陸軍海軍のほかにもう一つ科学的国防の常備軍を設け、日常の研究と訓練によって非常時に備えるのが当然ではないかと思われる。陸海軍の防備がいかに充分であっても肝心な戦争の最中に安政程度の大地震や今回の台風あるいはそれ以上のものが軍事に関する首脳の設備に大損害を与えたらいったいどういうことになるであろうか。そういうことはそうめったにないと言って安心していてもよいものであろうか」(同書本文より引用)ということだそうです。この点については自衛隊がほぼその役割を果たす国家組織になっているのではないかと感じました。
本書でもっとも印象的だった個所は、同書所収の「津波と人間」の追記部分で、「三陸災害地を視察して帰った人の話を聞いた。ある地方では明治二十九年の災害記念碑を建てたが、それが今では二つに折れて倒れたままになってころがっており、碑文などは全く読めないそうである。またある地方では同様な碑を、山腹道路の傍で通行人の最もよく眼につく処に建てておいたが、その後新道が別に出来たために記念碑のある旧道は淋《さび》れてしまっているそうである。それからもう一つ意外な話は、地震があってから津浪の到着するまでに通例数十分かかるという平凡な科学的事実を知っている人が彼地方に非常に稀だということである。前の津浪に遭った人でも大抵そんなことは知らないそうである」(同書本文より引用)という箇所でした。これは1933年(昭和8年)3月3日に起こった昭和三陸大津波についての論稿です。その37年前に起こった明治の三陸大津波の記憶が早くも風化していることを問題点として挙げています。今回の東日本大震災についても、30年後に同じ状況になっている可能性はあります。私は本書を、できうるならば中学の公民の副教材にして、中学生から災害教育を行っても良いのではないかと思います。