(昨日の続きです)
もう1件、松本零士氏の作品の思い出です。「エルベの蛍火」です。この作品は青年誌『ビッグコミックオリジナル』(小学館)にて1975年11月20日号に掲載されたものが初出だそうです。この作品も、かなり後に単行本で読みました(上の写真です)。この作品は、ドイツ空軍が開発した、世界史上初の、そして唯一戦闘機として実際に運用されたロケット機「メッサーシュミット Me163(コメート)」のパイロットと開発者の物語です。コメート(彗星という意味です)は、最大時速千キロを突破し音速に迫るとともに、1万5千メートルの高空まで上昇できるなど破格の性能を有していました。しかしロケット燃料が切れるとグライダー滑空しかできなくなるという弱点があり、わずか8分しか燃焼できないという欠点もありました。同機のロケットエンジンは高濃度の過酸化水素を主成分とするT液とヒドラジンとメチルアルコールを主成分とするC液を混ぜ合わせて燃焼させるのですが、事故でT液を全身に浴びたパイロット(主人公とは別人の)が溶けてしまい骨しか残らないという場面が記憶に残っています。主人公らは、ロケットで戦闘機を作りたい訳ではなく、本当は月へ行く有人宇宙ロケットを作りたいのだというセリフが印象的でした。
戦場まんがシリーズの主人公たちは、ほぼ例外なく悲惨な死を迎えるのですが、この主人公たちが平和の中に生きていられたならば、どんなに全人類に貢献できるような素晴らしい仕事が成し遂げられただろうという、作者の松本氏の思いがシリーズ全体を貫くメッセージとして読み取ることができました。