日本にも反ユダヤ主義はあるのでしょうか?
日本のキリスト教系に分類される宗教団体の総信者数は192万1834人で、全宗教団体の総信者数に占める割合は1.1%だそうです(文化庁編『宗教年鑑2018年版』による)。このように、びっくりするほどキリスト教信者は少ないので、日本には反ユダヤ主義が育つ文化的土壌はほとんどなさそうです。加えてユダヤ人のコミュニティも(戦前の神戸と長崎に一時的に形成されたことはあるそうですが)ほとんどありませんでした。戦前の日本で反ユダヤ主義の著作活動を活発に行っていた若宮 卯之助(慶応義塾大学教授 上の写真の著書があります)とか、四王天延孝(陸軍中将)といった人々もいるにはいたのですが、陰謀論の範疇を出るものではなく、当時の有識者の吉野作造といった人々から批判を受けていたそうです。またヒトラーのドイツと軍事同盟を結んだ日本軍部ではありましたがユダヤ人迫害には関心をあまり示しませんでした。むしろドイツで迫害されているユダヤ人を旧満州に移住させようとした安江仙弘(陸軍大佐)、樋口季一郎(陸軍中将)のような人物もいましたし、外務省の杉原千畝(在リトアニア副領事で「命のビザ」のエピソードで有名)のような人物もいました。しかしながら『シオン賢者の議定書』のような偽書に基づく陰謀論的で怪しげなユダヤ人のイメージは戦前の日本社会に広まってはいたようです。
第二次世界大戦後、ナチスによる迫害を受けたユダヤ人が国連の支援を受けてパレスチナの地にイスラエルを建国し、今度はイスラエルのユダヤ人がパレスチナ難民を迫害するようになります。迫害を受けた人々が今度は別の人々を迫害するという、目を覆いたくなるような悲劇が新たに生まれ21世紀の今日に続いています。このようなイスラエル政府の行為はもちろん許されないことで断固批判すべきですが、これは反ユダヤ主義とは違います。なぜならイスラエル政府によるパレスチナの人々への迫害行為を批判し抗議するイスラエル国民も大勢いるからです。このことは以前このブログでも紹介させていただいています。たとえば「マキ」という通称で知られているイスラエル共産党はイスラエル国会のクネセトに議席を有する公党ですが、イスラエル建国時からパレスチナ民衆への政府の弾圧を批判してきたため一度も政権に参画していません。こういう人々もいるのですから絶対に一緒くたにして批判するわけにはいきません。(続く)
※若宮 卯之助の著書の写真は国会図書館の所蔵図書から引用させていただきました。⇒ https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/964043