ハインリッヒ・ハイネの『流刑の神々・精霊物語』(岩波文庫 1980年)を読みました。ハイネといえば日本では詩人として有名ですが、本書は言ってみれば民俗学の書物です。かの柳田国男も本書に強い影響を受けたと言われています。西ローマ帝国の末期からキリスト教がヨーロッパに広まっていく過程で、古来の多神教や精霊崇拝の神々への人々の信仰がどのように変化していったかが記述されています。初期のキリスト教はおそろしく不寛容な宗教で旧来の信仰を「異教」として積極的に排斥していきます。古来の神々、たとえばギリシャ神話の最高神ジュピターは北極の孤島の小さな小屋に追放されヤギと暮らしているという説話が紹介されています(本文154頁)。しかしヨーロッパの人々の心の深層に古来の神々がかすかに残っていたのでした。
その残り方というのが面白いのです。古来の神々(たとえばバッカス神)を崇拝するために人々は、夜森の中の広場に集まり酒を飲み陽気に騒ぎます。その楽しみ方がどうも我々日本人にもなじみのある様子なのです。つまり日本のどこにでもあるような昔ながらの「村祭り」のような様相なのです。日本では江戸期にキリスト教は排斥され広まりませんでしたが、その結果、キリスト教以前のヨーロッパの古い信仰と奇妙な共通点を持ったのかもしれません。そのような心性は日本の文化にどのように作用したのか・・・興味の尽きない一書でした。
私が最初に読んだハイネの著書は『ドイツ古典哲学の本質』(岩波文庫 初版1951年)ですが、ハイネはマルクスと生涯の親交を結んだ社会主義者でもあり、お互いに強い影響を与え合っています。様々な面を持った思想家だったようです。