四篇とも金子みすゞさんの詩です
「玩具のない子が」
玩具(おもちゃ)のない子が
さみしけりゃ、
玩具をやったらなおるでしょう。母さんはやさしく
髪を撫で、
玩具(おもちゃ)は箱から
こぼれてて、母さんのない子が
かなしけりゃ、
母さんをあげたら嬉しいでしょう。それで私の
さみしいは、
何を貰うたらなおるでしょう。
「月のひかり」
月のひかりはお屋根から、
明るい街をのぞきます。
なにも知らない人たちは、
ひるまのように、たのしげに、
明るい街をあるきます。
月のひかりはそれを見て、
そっとためいきついてから、
誰も貰わぬ、たくさんの、
影を瓦にすててます。
それを知らない人たちは、
あかりの川のまちすじを、
魚のように、とおります。
ひと足ごとに、濃く、うすく、
伸びてはちぢむ、気まぐれな、
電気のかげを曳きながら。月のひかりはみつけます、
暗いさみしい裏町を。
いそいでさっと飛び込んで、
そこのまずしいみなし児が、
おどろいて眼をあげたとき、
その眼のなかへもはいります。
ちっとも痛くないように、
そして、そこらのあばら屋が、
銀の、御殿にみえるよに。
子供はやがてねむっても、
月のひかりは夜あけまで、
しずかにそこにたってます。
こわれ荷ぐるま、やぶれ傘、
一本はえた草にまで、
かわらぬ影をやりながら。
「空の鯉」
お池の鯉よ、なぜ跳ねる。
あの青空を泳いでる、
大きな鯉になりたいか。
大きな鯉は、今日ばかり、
明日はおろして、しまわれる。
はかない事をのぞむより、
跳ねて、あがって、ふりかえれ。
おまえの池の水底に、
あれはお空のうろこ雲。
おまえも雲の上をゆく、
空の鯉だよ、知らないか。
「日の光」
おてんと様のお使いが
揃って空をたちました。
みちで出逢ったみなみ風、
(何しに、どこへ)
とききました。
一人は答えていいました。
(この「明るさ」を地に撒くの、みんながお仕事できるよう)
一人はさもさも嬉しそう。
(私はお花を咲かせるの、世界をたのしくするために)
一人はやさしく、おとなしく。
(私は清いたましいの、のぼる反り橋かけるのよ)
残った一人はさみしそう。
(私は「影」をつくるため、やっぱり一緒にまいります)
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