致知』2011年11月号
稲盛氏を京セラ創業メンバーの一人として今日まで支え続けてきた現・京セラ相談役の伊藤謙介氏
人間、この二度とない人生をいかに生くべきか。
* * *
私は2、3年前に糖尿病で2週間ほど入院したことがあるんですが、私のいた病棟は重病でいまにも死にそうな人ばかりでした。
しかしわずか5mしか離れていない隣の病棟は産婦人科で、新しい命の誕生を喜ぶ声が絶えず聞こえてくる。
私はそこで、その5mがまさに人生を象徴している、人生というのはこの5mの狭間にしかないのだと痛感しました。
若い人は漠然と、人生はいつまでも続くと思っているものですが、実はそう長くはありません。
きょうやるべきことを明日やりますと言って、それを5回繰り返せばもう1週間が終わります。
同様に来週やりますと4回言えば今月が終わり、来月やりますを12回で1年が終わり、来年やりますと30回言ったらもう定年。
あっという間の人生じゃないかと。お互いにもっと一瞬一瞬を大切に仕事をしようと社員によく話をするんです。
「井の中の蛙大海を知らず」という言葉がありますが、これに「されど天の深さを知る」と付け加えなければなりません。
大海を知らなくてもいい。自分の持ち場を一所懸命掘り込んでいくことで、すべてに通ずる真理に達することができるのです。
一芸を極めた芸術家が語る言葉に万鈞の重みがあるように、我々も自分の仕事に打ち込むことで天の深さを知るのです。