今までに、いくつかの言葉が私の支えになってきた。
自分で商売を始めて間もない頃の事。仕事に追われていた私は、社員の動きが極めて緩慢に見えた。今思えば社長と社員では立場が違い、働き方が違うのも当然なのだが当時は苛立ちを感じた。
その時「長の一念」という言葉を知った。課なら課長、部なら部長、社なら社長。長として立つ人の一念によってすべてが変わる。問題は社員ではなく、すべて社長の自分にあると考えるようになり、社員への苛立ちも消えていった。色紙にこの言葉を書き、朝出社すると毎日見るようにした。
ある時。ゴルフをしているとコースの途中になぜか石碑があり、「働き一両、考え五両」と彫ってあった。私は「はっ」と立ち止まった。すごい言葉だと思い、記憶に留めた。考えとはアイデアの事だと私は理解した。
一の努力は一の成果しか生まないが、アイデアを持って一の努力をすれば五の成果が出る。世の中には努力する人や一生懸命な人はゴマンといる。アイデアを持って努力しなければいけないと痛感した。私はこの言葉を非常に気に入り、紙に印刷し工場や本社に貼った。←三木:行政運営も「考え、考え、考え」て、アイデア(付加価値)をつける。
(三木注:『「働き 1両。考え 5両。知恵借り 10両。骨(コツ)知る 50両。ひらめき100両。人知り 300両。歴史に学ぶ 500両。見切り 千両。無欲 万両(上杉鷹山の言葉?)。城山三郎「百戦百勝 」』」
また、上場しようと準備を進めていた頃の話。それまで大家族主義で経営してきたが、いろいろな面で上場のため組織化が進むにつれ、会社を経営する事がつらくなってきた。ある人に悩みを打ち明けると「鳥羽さん、リ−ダーは『主師親の三徳』を備えなければならない」と教えてくれた。
主人としての面倒見。師匠の指導力。そして親としての厳しさと温かさ。肩書や地位で怒るのと違い、親として怒るのは厳しさの中に温かみがある。「そうか、分かった」と胸のつかえが取れ、はらはらと涙が流れた。組織という冷たさの中にも情が通っていなければいけないと思った。