もうひとつの歴史の教訓、ヴィクトリア期の英国
「三度目の奇跡」歴史・データ編 日経2011/1/6 13:14
日本、ジェノバ以外にもうひとつ、歴史的な低金利を記録したのは19世紀後半の英国だ。世界に先駆けて産業革命に成功した英国は当時、ヴィクトリア朝の繁栄のただ中にあった。
パックス・ブリタニカ(英国の支配による平和)の絶頂期だった1890年代、英国のコンソル債(永久債)の利回りは年2.21%まで下がった。7つの海を支配し、広大な植民地を所有していた英国は、国内の低金利に伴ってあふれたマネーを海外投資に回し、貿易を拡大した。ホーマーらの「金利の歴史」は、当時を「黄金の低金利時代」と記している。
しかし、20世紀に入ると状況は一変する。英国の長期金利は1907年に3%を超え、12年には3.45%と19世紀半ばの水準を上回るまで上昇した。
米国やドイツなど新興国の台頭で産業競争力が低下。第1次世界大戦の戦費調達や社会保障の拡充で政府債務が膨張し、金利上昇を招いた。ポンド防衛には高金利が必要でもあった。この後、英国は1979年のサッチャー政権誕生まで長い衰退の時代を過ごすことになる。
歴史をひもとくと、成熟期を迎えた経済大国は資本の蓄積が進んで供給力が上がるのに対し、人口の伸びが鈍って需要が減る。その結果が緩やかな成長と低金利でもある。戦後、奇跡的な高度成長で世界第2位の経済大国となった現在の日本にも当てはまる。
豊かさの中で無策のまま過ごし、低成長にもかかわらず金利が上昇に転じるような事態となれば、経済や社会へのダメージが一段と深くなる。