Truth Diary

幼なじみだった、寅さんのような友へ

 とにかく末っ子で甘えん坊だった。私の家と段違い、家が金持ちで、遡ること60年前、小学校入学の時、キャンバス地(当時はズックと言った)製がほとんどだったが、高価なピカピカの牛皮製ランドセルだった事を覚えている。わが家は電話がなく、緊急事があると、近くの彼の家に行って、親戚に電話をしたものだ。

 そんな彼は、勉強はあまり好きでなく、卒業後職を転々とした。喫茶店、マージャン店など水商売と、貸し金業などが多かったようだ。しごと柄、浮き沈みが激しく、派手に振舞っているかと思うと、逆の時が頻繁に繰り返されていたようだった。

 フーテン の寅さんを地でゆく、長年の独身気楽さ、キップの良さ、憎めない天真爛漫、おっちょこちょいで愛嬌がある人柄は、同級生皆から好かれていた。唯一寅さんと違うのは、酒がぜんぜん飲めないことだった。厄年や還暦祝いの時、毎回、ホテルには泊まらずに夜遅くなっても帰った。そして、還暦から3年後に開催した一昨年の同級会、酒を一滴も飲まない彼が、会津の銘酒を数本持参して、皆に飲んでくれと配った。おいしい酒だった。感謝を込めて、お礼状と宴会を撮影したビデオを送った。

 どんな深刻なことがあっても、何処吹く風の、うらやましい性格と思っていたが、彼の意外な面を見たのは、数年前、母親の火葬の時であった。いつも、どんな時でも、あっけらかんして動じない彼が、母親の棺の前で涙を見せたのである。

 私は驚くと同時に、彼も人の子だったと、安堵をおぼえると共に、末っ子として、ずっと母親にかわいがられ続け、結婚することもなく、還暦近くまできた、彼の人知れぬ心境を垣間見たような気がした。

 そんな彼の訃報が突然訪れた、以外にも自死だった。想像すらできない、彼の悩み。そうした年代なのか。

 最後に会った時、ガラにもなくロマンチストになり、夜空の星を見るのが好きになったから、星が良く見える山の中に引越しをした、星を眺めるのはいいもんだと言っていた。生涯少年のような純な心を持ち続けた友よ、今は思う存分星空を堪能しているだろうか。心安らかにと祈る。

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