大相撲13日目全勝街道を突っ走る新横綱稀勢の里が同じ横綱の日馬富士に寄り切られた際、左肩付近を打撲し、苦痛でしばらく立ちあがれず、常に感情を表わさない人が痛みで顔を歪めた。何とか自分で立ちあがり痛々しい姿で土俵を去ったのを見た人は、誰しも明日から休場を思い浮かべただろう。翌日テーピングを施し出てきたが、あっけなく鶴竜に寄り切られ二敗。千秋楽を待たずとも一敗で先行する照ノ富士が優勝と誰しもが思っただろう。私も「好事魔多し」という言葉が浮かんだものだ。
しかし大方の予想を裏切って最後まで諦めなかった新横綱は使える右手だけで大関を投げ飛ばし、優勝決定戦に臨み再度右手だけで勝利をもぎ取った。正に劇的な逆転劇に場内は言うに及ばず全国の相撲ファンを感動させてくれた。
昔から横綱(正確には大関、横綱は大関の中で綱を付けたのをそう呼ばれたとか)は武士として認められ帯刀を許され、土俵入りなどでは太刀持ち露払いを従えその名残をとどめているようだ。
大相撲は相撲道というサムライの道と同様で、たとえ負けると分かっていても決して卑怯な真似はせず正々堂々と戦う、勝った時は、敗者を思いやり、誇らずはしゃがず平静を通す、そうした相撲道を頑なまでに守り続けている稀な力士が稀勢の里であろう。
13日目取り組みで突っ込んでくることが分かっている押し相撲の琴奨菊を、さっと体をかわして勝ちにこだわった照ノ富士とは好対照ではないか。だからこそ怪我をおして出場し、やれるだけやった敢闘精神が感動を呼び多くの人達に国技のすばらしさを再認識させて日本中が沸き返ったのだろう。
古来よりの日本人の良さが出た大相撲であったとは言いすぎであろうか。今後も日本人・サムライの素晴らしさを見せ続けてくれるだろう。