世界は米国の都合で動かない
米国がどういう国際秩序を目指すのか。トランプ大統領の就任演説が注目されました。“世界のルールも国際協力もおかまいなし”といわんばかりの自己都合優先の姿勢には、強い危惧を抱かざるをえません。
平和の秩序をめぐる問題では、すべての戦争を終わらせるとの言葉はありましたが、ウクライナや中東への直接の言及はありませんでした。それどころか、「世界が見たこともない最強の軍隊を構築する」と軍拡の必要性を述べ、「米国は領土を拡大し、新たな地平に国旗を運ぶ」と、前時代の領土拡張主義者のような発言も飛び出しました。
■国際ルールを無視
国際的に定着しているメキシコ湾という名称をアメリカ湾に改称することや、1999年に全面返還したパナマ運河を「取り戻す」との持論を繰り返したことに各国は懸念を強めています。パナマのムリノ大統領は「就任演説の内容を拒否する」と声明しました。
国際協力の課題では、世界が格闘している気候危機問題で、国際的枠組み「パリ協定」からの再離脱を表明し、逆に化石燃料の輸出で米国はもうけると宣言しました。温室効果ガス排出世界2位の国として重大です。米国が最大の資金拠出国である世界保健機関(WHO)からの離脱も表明し、感染症拡大などに対する国際的な取り組みへの影響が懸念されています。
しかし、「米国第一」の再来で平和や国際協力がふりまわされることはあっても、前進を押しとどめることはできません。米国が世界に大きな影響力を持つことは事実ですが、今の国際社会全体は、アメリカの思い通りに形成されているわけではないからです。
国際社会は、国連憲章・国際法に基づく秩序、包摂的な平和構築、核兵器をはじめ非人道兵器への反対、気候危機打開、持続可能な社会の実現など全人類的課題の重要性を広く共有し共同で取り組んできました。
米国であれロシアであれこうした努力に背を向ける身勝手な大国に、世界の多くの国はおいそれと追随することはないでしょう。トランプ1期目を通じて、その手法を知る各国は、今度は米国とより巧みに外交を展開する条件を持ちます。
■日米同盟絶対改め
トランプ流の「米国第一」をごり押しすれば、同盟国とさえ矛盾を深めることになります。トランプ氏が高関税をかけると脅したカナダや、グリーンランドを領有するとねじ込もうとしたデンマークは、トランプ氏に同意しないでしょう。対GDP比5%の軍事費という法外な要求も、あつれきを広げることになります。
こういうときだからこそ、ブロック対立や軍事対軍事でなく、世界共通のルールである国連憲章と国際法に基づく平和で包摂的な秩序をめざす外交努力がますます重要となります。
「米国第一」を掲げる政権に、「日米同盟絶対」の硬直した思考で対応すれば、軍事でも経済でも、これまで以上の負担を求められるのは必至です。石破茂首相はトランプ氏への就任祝辞で、「日米関係のさらなる強化」で「緊密に協力」したいと表明しています。日米軍事同盟への依存をやめ対等平等の日米関係への転換こそが必要です。
日本共産党の志位和夫議長は21日、トランプ米新大統領の就任を受け、次の談話を発表しました。
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一、トランプ米新大統領が、「米国第一」を最優先し、パナマ運河を「取り戻す」、「領土を拡大」するなどと宣言し、「パリ協定」や世界保健機関(WHO)からの離脱、移民の強制送還を表明したことは、国連憲章・国際法にもとづく平和秩序に反し、人類が国際協調によって解決すべき死活的な課題に背を向けるものとして、強い危惧を表明する。
一、トランプ氏は、「世界が見たこともない最強の軍隊を構築する」と宣言する一方で、「すべての戦争を止め、……新たな団結の精神をもたらす」とのべている。新政権が、世界での戦争、紛争に対して、どのような行動をとるか注視していく。
一、トランプ氏が「米国第一」の姿勢を実行にうつすならば、国際社会との矛盾を深めるとともに、米国の同盟国・その諸国民との矛盾・軋轢(あつれき)を広げざるをえないだろう。そうしたもと日本政府が、従来のような「日米同盟絶対」の姿勢を続けていいのかが、厳しく問われる。
一、今日の世界は、アメリカ一国の大統領の言動によって、決定される世界ではない。国連憲章と国際法を最大の基準におき、対話と包摂によって平和をつくり、非同盟・中立を志向し、核抑止と決別し核兵器廃絶を求める流れこそ、アジア、アフリカ、ラテンアメリカで広がる、世界の平和の本流となっている。そこでは平和と社会進歩を求める各国の市民社会が重要な役割を発揮している。わが党は、日米関係を対等・平等の関係へと改革する努力と一体に、こうした平和の本流を前進させるために国内外で力をつくす。
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