無断で氏名・住所使う
富山
有権者に占める自民党員の割合が全国一とされる富山県で、田畑裕明衆院議員(富山1区)が代表の自民党支部による“幽霊党員”が問題になっています。架空名義や本人に無断で党員登録をする手法です。本紙は田畑氏以外の党支部にも幽霊党員疑惑があることを把握しました。当事者の証言をもとに、その実態に迫ります。(丹田智之)
富山県内で長年にわたって日本共産党を支持してきた朝井義幸さん(50代)=仮名=の自宅に9月、自民党富山県連から往復はがきが届きました。
切り取り線でつながった返信用はがきの裏面には「投票用紙」と書かれ、候補者名を記入する欄がありました。自民党総裁選の投票用紙です。
1年ほど前から朝井さんの自宅に自民党の広報紙が届き、総裁選の期間中には石破茂首相の陣営から投票依頼の電話がありました。
自民党総裁選の有権者は、同党所属の国会議員と党員・党友です。朝井さんは過去に自民党の選挙を手伝ったことや後援会員になったことは一度もなく「自分の判断で同党に個人情報を提供することはありえない」といいます。
自分の氏名と住所が無断で使われたと察した朝井さんは、自民党県連に電話で問い合わせました。県連の担当者からは、自身が「自民党港盛連支部」で党員として登録されていると伝えられます。
同支部は射水市の伏木海陸運送富山新港支店内にあり、電話番号も同じです。同社は自民党の橘慶一郎衆院議員(富山3区)が社長を務めていた企業で、同議員の自民党支部は2023年4月に同社から39万円の献金を受けています。
自民党の党費は、一般党員が年額4000円、家族党員は年額2000円です。朝井さんは党費を支払っていません。もし企業が立て替えていれば、脱法的な企業・団体献金となります。
朝井さんは射水市に住んだことがなく、同社や橘議員とも無関係です。同支店の担当者に「自分が支持していない政党に無断で登録された」と強く抗議し、党籍の抹消と経緯の説明を求めました。
自民職域支部事務所の経常経費ゼロ
企業が肩代わり?
無断の党員登録 常態化か
2023年分の政治資金収支報告書によると、自民党港盛連支部の党員は354人で、収入の約96%が党費です。事務担当者だった男性によると、同支部は伏木海陸運送と協力会社を中心に結成された職域支部です。
「把握できない」
この男性は、自民党員の登録手順について「自民党を支持する人の紹介という形で入党の申し込みがされ、申込書を事務局で集約して党員名簿を富山県連に持ち込んでいた。党員になることは、本人も了承の上だと理解していた」と振り返ります。
ただ、党員として登録された本人が党費を負担したかどうかは「事務局では把握できない」と述べました。
現在の事務担当者は、仕事で取引がある会社などで党員を募っていると説明。協力会社による党費の立て替えは否定しました。他方で「無断で登録された本人から申し出があった場合は、事実関係を調べた上で誠実に対応したい」と話しています。
収支報告書によると、同支部の人件費、事務所費、光熱費など経常経費はゼロです。支部を置く伏木海陸運送がそれらを負担した場合は、企業献金として収支報告書への記載が必要です。しかし、同支部は企業献金を受けたことになっておらず、政治資金規正法違反(不記載)の疑いがあります。
未達成に罰科す
自民党は14年、国会議員1人につき党員1000人の獲得を指示しました。ノルマ未達成の議員の氏名を公表し、不足党員数1人あたり2000円の「罰金」を徴収しました。
20年には「1人あたり年間1000人」の党員獲得目標を達成できない衆院小選挙区候補は、比例代表との重複立候補をさせない方針も打ち出しました。
そうした党本部の方針が“幽霊党員”問題の背景にあるとも考えられます。特定の業種で組織する職域支部が党員拡大で成果を上げ、党費を納めることは、その業界による党への貢献にもなります。
本紙は自民党富山県連に質問状を送りましたが、期限までに回答はありませんでした。
日本共産党の火爪弘子県議は「本人の同意もなく党員として登録することは“思想・信条の自由の侵害”であり、社会的な常識にも反しています。家族や親戚、社員の個人情報を無断で使うなどした党員登録が県内各地で常態化していた疑いがあります。自民党は徹底的に調査し、不適切な党員登録の全容を明らかにするべきだ」と指摘しています。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます