第10章 第4節
この章の第4節は公共投資と民間投資、消費の関係を扱っており、マンデルフレミングモデルを検討している。何かというとマンデルフレミングモデルを持ち出して金融政策一本にしたがるポストケインジアンはきちんと議論すべきであろう。そもそもマンデルフレミングモデルは小国を対象としている。
カーンを引いて、公共投資が、他の方面で投資を減少させる減殺要因となるのは次の場合だと言っている。
- 公債発行で財源を調達すると利子率の昇によって民間企業の投資を阻害する可能性。利子率が現実に低下することが必要。⇒公債発行で利子率は上昇するのか? クラウディングアウトは起きるのか? MMTではどうなのか。
- 政府の計画の「確信」への影響。いわゆるリカーディアン効果のことである。
- 開放体系においては、乗数効果が外国へ漏出するだろう。マンデルフレミングモデルの前提ではある。
公共投資が、他の方面で投資を減少させる減殺要因 があるにもかかわらず、乗数理論は重要である、としている。公共投資以外で充分な投資が行われていれば、公共投資は、他の方面で投資を減少させる減殺要因 となるだろう。そうでない場合はどうだろうか?
第4節では、いわゆる投資乗数について重要な指摘があるがこれが分かりにくい。分かりやすくしようとして逆効果になっている。
社会の消費性向が以下のようなものであったとしよう。すなわち、実質所得が現存資本装備にあてがわれた500万人の雇用が生み出す生産物を超えないならば、社会は所得の全額を消費する。次の追加雇用10万人の生産物については、そのうち99パーセントが消費され、その次の10万人の生産物については98パーセントが、さらにその次の10万人では97パーセントが……というふうに続き、1000万人の雇用が完全雇用を表すものとする。さてこのとき、5,000,000+n×100,000人が雇用されているとすれば、限界的な乗数は100/n、そして国民所得のn(n+1)/2(50+n)パーセントが投資されてるということになる。
こうして、〔たとえば〕520万人の人々が雇用されているときには、乗数は50とたいそう大きいが、投資は当期所得のごくわずかな割合、すなわち0.06パーセントにすぎない。その結果もし投資が激減、たとえば約三分の二減少したとしても、雇用は510万人に、すなわち約二パーセント低下するだけである。これに対し、900万人が雇用されているときには、限界的な乗数は2.5と比較的小さいが、投資はこんどは当期所得の相当の割合、すなわち9パーセントとなる。その結果、投資が三分の二減少したら、雇用は690万人に、すなわち23パーセント低下するであろう。投資がゼロとなる極限では、雇用の低下率は前者の場合には約4パーセントであるのに対し、後者の場合には44パーセントにものぼる。
ケインズの論述に隠されている式は等差級数の和の公式であるが、雇用の増大とともに限界消費性向は低下するという、常識にかなった前提が導入されている。
さらに投資の増大は完全雇用水準に収れんするという前提もある。
この辺りは、後の章で詳述されるのだが、このままではモヤモヤする。この節は、説明しようとして逆に分かりにくくなっている。一読して分かる人はいないだろう。
ので次回「乗数理論について」でまとめる。
現代正統派は乗数理論を認めていない。乗数理論を認めると限界消費性向低下を認めることとなりケインズ理論の軍門に降るからである。ただし一般理論を理解したうえでそのようなスタンスを取っているのかどうかは分からない。たぶん政府=非効率、民間=効率というぼんやりした認識の延長に過ぎないだろう。
ところで、引用文中0.06%とは何だろうか。本編中にケインズ自身の解説はない。次回、次々回で解説したい。
ただし
面倒臭いよ