よみがえるケインズ

ケインズの一般理論を基に日本の現代資本主義を読み解いています。
カテゴリーが多岐に渡りすぎて整理を検討中。

35:第10章 乗数理論について その1 「0.06%?」ってどうやって導き出したの?

2021年05月05日 | 一般理論を読む
 有効需要(量)は消費と投資によって決定され、有効需要は雇用量を決定する。消費と投資のうち消費性向は変化しにくい。
 で、これから検討する乗数とはなんだろうか?

消費乗数、投資乗数とは何か?

 今、消費性向を0.8で定数としてみよう。消費性向は変化せず所得の増加分に対してもその0.8が消費に回るとする。

所得(1)=消費(0.8)+貯蓄(0.2) *全て総所得、総消費、総貯蓄の意
雇用量(1)=産出量(1)=所得(1)=消費(0.8)+貯蓄(0.2)ということである。

 追加1単位の所得に対する消費(限界消費)についても消費性向が変わらないとすると
  
  ⊿所得(1)=⊿消費(0.8)+⊿貯蓄(0.2)

  ここで⊿貯蓄はすべて⊿投資に回るとすると

⊿消費÷0.8=⊿消費×1.25=⊿所得
⊿投資÷0.2=⊿投資×5=⊿所得

 という関係が成り立ち、この1.25が消費乗数、5が投資乗数である。

  消費が1単位増えれば所得はその1.25倍増え、投資が1単位増えれば所得がその5倍増える、ということを意味している。もちろん、この文脈では所得が完全に消費と投資に回っていくということを前提としている。

 重要なことは、⊿貯蓄がすべて投資に回る保証はどこにもないが、⊿投資は全て⊿所得に結びつくことである。貯蓄は投資に回ってこそ所得となる。
 消費や投資は必ず誰かの所得となるからである。

 消費性向は安定しており名目所得の関数である(所得が消費の大きさを決定する)とすれば、消費性向が0.8であれば、所得・産出量・雇用量を決定するうえで投資要因のほうがはるかに大きいということになる。上記の例では1.25:5ということになる。

 また消費性向が0.5より相当大きければ 投資乗数>消費乗数であり、この意味でも検討すべき対象は投資乗数ということなる。ケインズの言うとおり消費性向が高いほど投資乗数は高いのである。

 では、消費性向が0.5より相当小さくなったら、消費乗数は検討に値するのか?人々にもっと消費させることはできるのだろうか。(*1)

 平均消費性向が0.5より相当小さい社会というにはそもそも想定しにくいが、それでも人々が消費しない(あるいはできない、つまり総消費が増えない)社会でどのような投資がありうるのか?(*2)

 人々の貨幣愛がそこまで行くとは、さすがに考えにくい。問題は、消費性向と限界消費性向の関係である。限界消費性向はそれまでの消費性向に対して上がるのか、下がるのか、変わらないのか?

 平均消費性向の高い、それだけ貧窮した社会では、所得増加に対する限界消費性向も高いままであろう。

 逆に、平均消費性向の低い社会では、所得増加に対する限界消費性向はさらに低くなるだろうし、ある点を超えると急激に下がって行くだろう。このような条件は社会的・文化的背景としてアプリオリなものである。理論上は別の条件を設定したモデルも構築できるだろうが、何かの意味があるだろうか。いや、ない。

*1:「できる」とか「やらねば」という人がいる。イノーベーションとか規制緩和とか言いたがる人々である。

*2:これは貿易を考慮に入れない閉鎖系の経済の話。貿易を考慮に入れると輸出向けの投資がありうる。消費を我慢して(あるいは、我慢させて)輸出に精を出す。そんな国があるだろうか???         ⇒⇒⇒これがあるのだ。


⇒⇒⇒日本じゃないか!

  1. 諸賢にはお分かりいただけると思うが、上記のように再配分や国内投資と輸出産業は相性が悪い。
  2. 医療費の増大は国内市場にとっては有効需要の増大となるが、輸出産業にとってはコストの増大となる。
  3. 日本人がいつまでも「日本は輸出立国だ」と信じている限り、停滞からの脱出の道はない。
  4. 国富は国内の労働力が活発に交換されることで生まれる。純輸出によって生まれるわけではない。
扉絵にもテキストを入れたがもう一度

輸出とは他国への失業の移転である

 

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