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社会保険と地方自治体総体では黒字基調が続いている
一般政府は、中央政府(いわゆる政府)、地方政府(地方自治体)、社会保障基金(社会保険)の三つに分かれる。
その収支を1997年から追ったものが下記の図となる。
社会保障基金の給付は年々増えていくが、賃金を原資としているので賃金水準が下がると収入が減り赤字となることがあり得る。さらに巨額の資金を運用しているので株価等の変動にも収入は左右される。賃金も株も下がった2009年には赤字となったが、それぞれの水準の回復とともに黒字基調を取り戻している。
2021年に地方政府の黒字幅が増えているのは地方政府の税収は景気に左右されにくいうえにコロナ禍で事業の執行が停滞したためであろう。
日本の長期停滞が始まった1997年からの累積黒字は、地方政府83兆4519億円、社会保障基金35兆7717億円、両者合わせて119兆2236億円となっている。国民生活に最も近いはずの公共機関が25年間でこれだけの資金を貯めこむ(市場から引き上げる)のは異常事態というしかない。人々は少しでも赤字になったら大声を上げるくせに黒字になったら何も言わないのも不思議なことである。何かの声を上げても「減税」くらいのものだろうか。地方政府の場合カネがたまりすぎると有象無象が寄ってきて利権にしようとするから性質が悪い。東京〇〇〇〇〇などその最たるものだろう。
いったいなぜ、人々は公共機関に営利原則を当てはめようとするのだろうか?営利原則が適用できる事業なら民間に任せればいい。「官から民へ」で一向にかまわない。民間の方がうまくやるだろうと考えるのも当然である。しかし公共機関が行うべき事業にそんな事業はあるだろうか?
右のグラフは中央政府は危機の時には慌てて一過性の「財政出動」を行うが、すぐに引っ込めてしまう。これを10年周期で繰り返している。逆に言えば10年に一回危機が来るということだが・・・。危機のときの「財政出動」は政権維持のためだから危機が去ればすぐに引っ込めてしまうのだ。必要なのは日本全体の貯蓄-投資バランスを見て、どのようなどのくらいの社会的投資を行うかという長期的計画である。プライマリーバランスしか頭にないのでは本当に困ったことになる。
一国経済は家計・企業・一般政府・海外の四つの部門に分けて考えられている。家計と法人が資金余剰で「苦しんで」いるときに一般政府の役割はその資金を吸収して使うことである。それは必然的に非営利の事業となる。営利事業ならすでに民間がやっているだろうから。それがないから資金が余っているのだ。資金の集め方は税でも国債でも当面は同じことである。
以前の投稿で
5-06:一般政府:日独比較分析―”大きな政府”こそ成長の原動力だった
1994年から現在にいたるまで少なくとも毎年10兆円の余剰資金吸収が必要だった、と主張している。
日本の文化は先憂後楽だ。なかには借金してでも、なんとかヒルズに住み、ファーストクラスで欧州に遊びに行き、昼からシャンパンを開ける人もいるかもしれない。それはその人の価値観であり他人がとやかく言う問題ではない。ただ問題は借金のうちは破産が待っているが、人のカネを横領して見栄を張ろうとしたら犯罪になってしまうということだけだ。
多くの人はそうではない。勤倹貯蓄を美徳としている。そういう人々に贅沢を勧めても無駄である。人が美徳とする価値観をそう簡単に変えられるものではない。
人々の貯蓄意欲が高い(消費性向が低い)ということ自体は良い事でも悪い事でもない。それは文化である。このことは単に次のことを意味しているに過ぎない。
- 一国として公共目的(非営利)に使える財源が豊富にある
- 逆にそうしないと長期にわたる停滞におちいる
この二点である。
二点ついでに二点提案しておく。実は大して掛からない。
- 低所得者(非正規労働者)の社会保険料を軽減すること
- 成長産業であり社会保険によって賄われている医療・福祉産業労働者の処遇を改善すること