よみがえるケインズ

ケインズの一般理論を基に日本の現代資本主義を読み解いています。
カテゴリーが多岐に渡りすぎて整理を検討中。

日本経済の将来を展望する? 99%の悲観論に抗して ⑥ 高齢化は経済にとって悪い事なのか?

2023年03月20日 | 先進国の経済学
年金の誤解が生む高齢化社会への恐怖(3)

 社会は、労働力人口(就業者と失業者)と非労働力人口に分けることができる。この場合、家事等の無償労働は脇に置いてある。

人口と消費

労働力人口:消費される財とサービスを算出する人々 =P1     とし
非労働力人口:財とサービスを消費するだけの人々    =P2  とする。
  *資本財は考慮に入れていない

 「するだけ」という表現に悪意を感じる人もいるだろうが、労働力人口(P1)も消費するので「だけ」という表現になる。これは年齢による区別ではなく財とサービス(以下単に財)を産出しているかどうかの分け方である。

 P1が消費する財をC1、P2が消費する財をC2とする。

総人口=P1+P2
総消費=C1+C2

 総人口Pに対して、その社会の現在のP1とP2の比率が存在する。総消費Cに対してC1とC2の比率も存在する。P2/PとC2/CではC2/Cの方が低いだろう。これは単に老人と子供はそれ以外より消費額が少ないだろうという仮定の反映である。図式化すればこんな感じか。



それぞれの所得

 C1、C2にはそれに対応する現金の支払いがあり、その支払いの原資たる所得がある。当たり前のことを言っている。それぞれの所得をY1、Y2とすると総所得YはY1+Y2に分けられる。

 年金制度がなければP2の所得Y2は、①P1からの仕送り、②財産所得、③貯蓄の取り崩しとなる。社会保険としての年金制度は家族内での仕送り①を社会化したものである。医療、教育、介護と違って現物支給ではなく現金支給によって行われている。もちろん全ての消費財を配給することは不可能だからだ。
 年金制度があるとしてP2の所得のうち年金額をYXとするとY2=Y2′+YXとなる。P1の所得もまたY1=Y1′+YXに分けられる。そうすると

P1・・・Y1=Y1′+YX
            
P2・・・Y2=Y2′∔YX

Y1+Y2=Y、YXはY1からY2への移転だからY=Y1′+YX+Y2′となる

 YXをどのような額とし、それをどうのように集めるのかを定めた制度が年金保険制度ということになる。

 年金制度は積み立て方式か賦課方式かという議論が延々と行われてきた。しかし年金が現金で支給されているからと言って消費C2はP1が作り出した財を対象としている。現役時代に倉庫に積み上げた生活資材で生活しているわけではない。消費で見る限りP1が作り出した財をP1とP2でどう分けるかということである。積み立て方式とはP2の貯蓄の取り崩しのことに他ならない。それを勘案するとC2(消費)はYXを超えることができるということを意味するだけである。

 つまりP1が作り出した消費財をP1とP2の間でどう分けるかというのが年金制度なのだ。

消費性向は年金による所得再分配後の方が高い

 よく聞かれる議論は高齢化による社会負担増大への不安である。この不安は、年金による所得再分配後の方が消費性向が低い場合にのみ根拠がある。年金受給者が年金をどんどん貯めこんでいくという事態、P1よりP2の方が消費性向が低い場合にのみ根拠がある。
 人々は次のことを忘れている。年金はP1にとっては負担かもしれないが、それが使われれば、P2は働いていないのだから全てP1の所得となる。
 現実は再分配後のほうが消費性向は高いのだから高齢化によって年金制度が社会の負担になるのではなく、経済成長にとってプラスとなる。上記でも触れたがP2の消費が貯蓄の取り崩しによっても賄われている場合はなおさらプラスとなる。まさに貯蓄は使われなければ何も産み出さないのだから。
 高齢化による社会的費用の増大に対する不安は、集められた社会的費用は使われれば誰かの所得になるという初歩的なことを忘れている。P1よりP2のほうがはるかに消費性向が高いということも忘れている。P1が負担している年金保険料が突如なくなったら、その分のどのくらいを消費に回すだろうか。限界消費性向は消費性向より低いであろうから、少し考えてみれば分かることではないか。

 再分配後の消費性向は再分配前よりはるかに高いという事実は、日本の年金制度が適正に運営されており、豊かな社会にとって経済成長にプラスになっていることを示している。

 一般論で言っても、消費性向の低い集団から消費性向の高い集団への所得移転は両方の集団の所得を高める。消費性向の高い集団が働いていない場合は消費性向の低い集団の所得を高める効果はさらに高い。

 もちろんこれは「集め方の問題」も適正であることとは別問題である。社会保険料の逆進性はつとに指摘されている通りだ。

日本経済の将来を展望する? 99%の悲観論に抗して ② 可処分所得と家計消費
現実には年金は黒字となっているが、原理的には負担=給付である。負担は給付として国民所得となる、行って来いの関係にある。可処分所得が伸び悩むのは社会負担のためではなく緊縮の結果、政府がプライマリーバランスを目指しているためである。危急の時に全員に10万円配っても退蔵されるだけである。今求められることはプライマリーバランスではなくて財政中立化=増収分はそっくり返す、ということである。

 もう一つ、税制の問題としては家計に重く大企業に軽く税制を「改革」してきた結果だ。
日本経済の将来を展望する? 99%の悲観論に抗して ③ なぜ家計の負担だけが増えていくのか
家計の税負担は倍となり、大企業の税負担は三分の一になっている。これを「公平」というのは相当の勇気がいる。



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