よみがえるケインズ

ケインズの一般理論を基に日本の現代資本主義を読み解いています。
カテゴリーが多岐に渡りすぎて整理を検討中。

政府の財政を考える ⑦     社会保障は「重荷」なのか?

2023年10月24日 | 先進国の経済学
*≪中央政府(いわゆる政府)+地方政府(地方自治体)+社会保障基金≫を連結したものを「一般政府」と呼ぶ。以下「政府」と呼称する。

 消費は必ず誰かの所得となる。貯蓄は誰かに使ってもらわなければ利子すらつかない。考えたら当たり前だが人々がこれを分かろうとしないのは、手元に残るカネにしか興味が行かないからである。これは自然の本性であり誰も逃れることができない。だから政府の再分配機能があるのだが、政策担当者まで手元に残るカネにしか興味がないのではこの国の未来は暗澹たるものになる。

 先進国における政府の役割とは、民間の貯蓄を吸収して非営利で公共の福祉にかなった対象に投資することである。

 前回は現物社会移転の充実にこそ日本の未来があると説いたわけだが、世間の風説(あえてこういう言葉を使う)は違う。少し回り道になるが、三部門間の資金のやり取りは後回しにして世間の風説を取り上げる。

世間の風説

 風説にはそれを流布する人がいる。誰を取り上げるか少々迷ったが、野口 悠紀雄先生にした。権威としては十分だろう。

日本の20年後「医療・福祉が最大産業」という異様―ほかの産業が成長するのとは性質が大きく異なる
「他の産業の場合には、われわれの生活をそれまでよりも豊かにしたり、生産活動をより効率的にしたりするモノやサービスを供給してくれる。しかし、医療・福祉の場合は、病気を治癒するだけだ。つまり、マイナスになるのを抑えるだけのことだ。……さらに、医療・福祉制度を機能させ続けるには、医療・介護保険の財源を確保することが重要だ。今年7月の参議院選挙で、野党は、物価対策として消費税の減税政策を掲げた。しかし、仮にそうした政策を実行すれば、将来の医療・福祉は、深刻な危機に陥る。長期的な見通しを踏まえて、責任ある経済政策が求められる。」

 「医療・福祉の場合は、病気を治癒するだけだ。」まあまあ、先生落ち着いて、先生落ち着いて。大体20年もかからない。細かいことは書かないが、あと6~7年というところだ。なお今の一位は卸小売業である。

 こういうふうに効率性でしかものを考えないと、医療福祉産業で働く人のことが目に入ってこなくなる。また費用(使われたお金)は必ず誰かの所得になること、その所得がまた需要を創造することが目に入っていない。

 下2002年から2022年の間にどの産業で就業者が増え、あるいは減ったかを示したものだ。



 この間で857万増加し、525万減っている。増加分の51%は医療福祉産業が担っている。

 医療福祉産業の増加分はどういう人が増えているのか?ずばり介護士・保育士・看護師である。この人たちは「われわれの生活をそれまでよりも豊かにしたり、生産活動をより効率的にしたりするモノやサービスを供給してくれ」ていないというのだろうか。揚げ足取りに聞こえるかもしれないが世間ではそう思われているのは間違いないだろう。世間の「常識」を拾い上げ、さらに増幅して流布するのが経済学者の仕事だろうか?

 それはさておき、このシリーズは「先進国の経済学」と銘打っている。先進国とは豊かな社会のことであり豊穣の中で貧困が発生する社会である。なぜか?二つの理由で貯蓄が余剰資金となってしまうからだ。

① 豊かになるほど消費性向が下がるという経験的法則がある。
② 豊かになるほど格差が拡大しさらに社会全体の消費性向が下がる。

①については、政府がその余剰資金を吸収することが必要であり
②については、所得格差を埋める再分配が必要となる。

 政府が余剰資金を吸収して行う事業は極めて限定される。二つの条件が必要だからだ。一つ目は営利事業ではないこと二つ目はその便益が全ての国民に共有されることだ

 一つ目の理解は簡単だ。営利事業なら民間でやっているだろう。政府が付け加えることはない。

 二つ目は、全ての国民に共有されるという言い方をしたが、介護保険や健康保険の便益を享受しない人もいるだろう。しかし享受するのが効用の増加につながるとは思えない。(野口先生はここを言っている)。介護も医療も保育も個人の所得の範囲で充分な手当てができない。だから社会全体で保障しようということになっており、これが社会保障である。年金制度をやめて家族の仕送りに戻すことは出来まい。「私は病気しない」から健康保険料はムダなのか。

 過去、医療福祉産業が最大の雇用増加を見せている。雇用をゼロから創造してきたのだ。その産業の賃金が他産業より低すぎるのが経済の停滞の原因の一つだ。相対的に低い産業の賃金が上がれば、消費性向からして消費に回る割合は相当に高く、波及効果もまた高いだろう。

 それを妨げているのがしかし、医療・福祉の場合は、病気を治癒するだけだ。つまり、マイナスになるのを抑えるだけのことだ。」という風説である。

 社会保障「重荷」論である。

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