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*≪中央政府(いわゆる政府)+地方政府(地方自治体)+社会保障基金≫を連結したものを「一般政府」と呼ぶ。以下「政府」と呼称する。
- ヘルパーの有効求人倍率、過去最高15.53倍 訪問介護の人材不足が更に悪化 厚労省
- 「訪問介護事業者」の倒産が過去最悪のペースで増加。ヘルパーの人手不足が影響
介護保険にかかる費用のうち、利用者が負担する1割を除く残りは、公費(税金)と私たち介護保険の被保険者が納める保険料で半分ずつまかなってる。公費の半分は国が、残りの半分を都道府県と市町村が1/4ずつ負担している。
だから賃金は、ほぼ公定である。求人倍率が上がったからといっても賃金は上がらない。人手不足が無限に悪化していくシステムとなっている。こういうことを頭に入れて以下読んでいただきたい。
減税論議に欠けるもの
政府が定額減税4万円で、5兆円規模と発表して、減税論議がさらに盛んになった。中には消費税減税あるいは廃止を叫ぶ者もいて、その奥には例の「政府通貨発行(国債日銀引き受け)でいくらでも財政拡大・負担縮小は可能」という亜流のMMT理論が隠れているのだろう。いろいろ議論はあるようだが、中央政府の歳入・歳出しか見ていない議論に先はない。一般政府という視点をなぜ持たないのだろう?不思議だ。
さらに言えば、手元の現金が多いほど幸せだと言っているだけだ。個人の欲求の表明ならそれでいい。私も含めて皆そうだろう。
しかし、事は政策論議なのだ。
消費税は何の財源か?
一般政府の視点から見るとこうなる。2021年度だ。
社会保険料家計負担39.3兆円+社会保険料企業負担36.6兆円+消費税28.1兆円=103.9兆円
現金給付72.6兆円+現物社会移転73.2兆円=145.8兆円
社会保険料に消費税を加えても、社会保障支出には41.9兆円足りない。もちろん各種の税と支出項目が一対一に対応しているわけではないが、上記の式で「消費税は社会保障財源の一つ」ということも可能だ。
社会保障基金を単独で見るとまた少々違った風景が見えてくるが、ここでは一般政府全体の分析にとどめる。
一般政府全体での収入・支出は以下のようになっている。
*集合消費支出:いわゆる政府の支出をイメージすればいい。
*コロナの影響で移転支出(中央政府の一般会計から家計部門、企業部門への移転)が激増している。通常の移転支出は6兆円前後だ。コロナ禍がなければ赤字28.7―移転22.4+6=12兆円前後の赤字となる。
いわゆるムダを省いてと言われるのが集合消費支出の分だが、いくらムダを省いても、原資が45.8兆円では、いくらも財源は捻出できないことがお分かりいただけよう。
再び減税の話
総額5兆円程度の減税は、主に来るべき総選挙対策と言われている。減税も一律定額では総額の半分も消費に回らない。年収300万円の世帯にとって4万円は干天の慈雨だろうが年収3000万円にとっては気が付かない程度である。消費に回るかどうかよりも、政府自ら現物社会移転(医療・福祉)を増額した方が有効なのはもちろんのことだ。
冒頭挙げたように、「ヘルパーの有効求人倍率、過去最高15.53倍 訪問介護の人材不足が更に悪化」しているのだ。訪問介護の人材不足が激化しているのはその賃金が、職務内容に比して、他産業と比して安すぎるからに他ならない。その賃金を上げるほうがよほど効果があるだろう。
減税ではなく、政府自ら事業を行うことである。そこで民間の余剰資金を吸収することである。非営利でその便益が全ての国民に共有されるような事業にである。だから五輪や万博ではないのだ。
減税や給付金ではなく雇用の量と質を上げることが求められている。
高福祉・高負担は人口が減少に転じた先進国の唯一の生き残る(経済成長が持続する)道である。
つづく