「みきちゃんはいいなあ」
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そういうさゆりを振り返って
「何がいいの?」
と母親は聞いてみた
「だってね、先生がね、みきちゃんは毎日遅くまでがんばって勉強してるって。色々お手伝いとかしなきゃいけないのにしっかり頑張ってるから本当にあの子はえらい。身体こわさないか心配するくらいだよって」
母親はさゆりに笑って言いました
「そう、みきちゃんは本当に偉いわね。大変な事をがんばってしてるのよね」
「でもね、私も毎日毎日休まないでお手伝いしたり、勉強遅くまでしてるんだよ。でもね、先生はちっとも見てくれない。みきちゃんしか見てないんだよ。私はどんなに頑張っても、休まなくても、もっと頑張りましょう。って言うんだもの。毎日みきちゃんの偉いところばかり話すんだもの。何だかつまんない」
母親は笑って彼女の顔を覗き込みました。
「さゆりちゃん、あなたはなんのために勉強してるのかしらね」
「え?」
「先生に褒めてもらいたいからがんばるの?大変ね、って言って欲しいの?誰のために、なんのために頑張ってるのかしらね。」
さゆりは母親にそう問われて黙りました。
「自分のためだよね」
「そうね。世界中のだーれも褒めてくれなくてもね、労ってくれなくてもね、あなたの努力はあなたのもの。人がだーれも見ていない時、誰にも気づいてもらえない時ほどね、努力の種は膨らむし芽も出るものなのよ。楽しみね。」
母親の笑顔と、きっぱりした物言いに
さゆりは何だか自分が恥ずかしくなりました。
「わかった。私はみきちゃんのこと、いいなあって想ってたけど、そうじゃないんだね」
「そうね。みきちゃんは素晴らしい。でもね、あなたも素晴らしい。それはお空が見ておられる」
さゆりは黙って空を見上げました。
「わかった。先生にわからなくても、もう大丈夫。私は褒められたいからしてるんじゃないもの」
さゆりは笑顔になっていました
「お母さん、私は自分の為にがんばってるし、その勉強がいつかいろんな人たちの役に立つように、って願うことにする。みきちゃんのいい所も見習うようにする。」
「それはいいことね。」
さゆりは知らない間にスキップしていました。
「何だか嬉しくなってきた!」
母親はそんな彼女の顔を笑顔で見つめておりました。
人は困難な事にぶつかったりすると
誰かにわかってもらいたくなったり
理解して欲しくなる
それは自然の成り行き。
誰しもそんな気持ちがたくさんたくさんありますが
本当に大切なことは
別の所にあるのだと
久しぶりに母親目線に戻った今日
しかしそんな母親としての言葉は
昔どこかで誰かに教わった事なのかもしれないなあと
ふと笑いました。
それで浮かんだ物語
どこかで聞いたかもしれない物語。
おかげさま
おかげさま
そんなふうに想える今は
幸せだなあと想います
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今年の粽は函谷鉾。